3ページ目 - ロックギターの基礎を作ったビートルズ【ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.13 野口広之】

「ティル・ゼア・ワズ・ユー」でジョージが弾く素敵なソロ

『ザ・ビートルズ・スーパー・ライヴ!』

竹部:まさに。先程話が出た『ハリウッド・ボウル』を聴くと、これを生でやっているんだと思うと、圧倒されますよね。女の子の嬌声で何も聴こえないなかで、リズムを合わせて、ちゃんとコーラスをしていた。基本的なことだけども、それをPA環境も整備されていないなかでやっていたとは。

野口:確かに。そして、リンゴのすごさですよね。素晴らしいドラマーだなと思いますね。ビートルズにリンゴが入ってくれてよかったとあらためて思います。

竹部:ビートルズがロックンロールバンドであるゆえって、リンゴのドラムですよね。

野口:絶対そうだと思う。

竹部:他のメンバーをプレイヤーとして見た場合どうですか。ジョージは?

野口:ジョージは全部ピックで弾いてるんだと思っていたら、そんなことはなくて、結構指でも弾いている。チェット・アトキンスみたいなピッキングもやれば、カール・パーキンスのようなカントリー・テイストの弾き方をしたり、いろいろなギタリストの影響を取り入れていることが分かる。ジョージはうまいギタリストだと思いますよ。フレージングの独特な感じとかもすごくいいし。

竹部:気になるソロはありますか。

野口:「ティル・ゼア・ワズ・ユー」。あのソロはすごくいいですよね。

竹部:ジョージじゃないという説もありますが……。

野口:とんでもないですよ。初期のライブ音源を聴けば、それはわかります。エレキであのソロを弾いてますよ。ジョージで間違いないと思います。

竹部:すごくきれいに弾いてますよね。

野口:だからジョージじゃないとか言う人がいますけどね(笑)。レコードでは多分ラミレスのガットギターで弾いてると思うんだけど。

竹部:ジョンはいかがですか。

野口:偉大なロックギタリストっていうか、リズム・ギタリストっていうか。どうやったら「オール・マイ・ラヴィング」のカッティングを思いつくんだろうって思いますよね。

竹部:天性なんでしょうね。あのリズム感は。

野口:リードもいいんですよ。「ゲット・バック」が有名ですけど、「ハニー・パイ」のソロもジョンなんですよ。

竹部:あのジャズテイストの。そうだったんですね。

野口:ジョージがインタビューの中で「あれはジョンが弾いてる」って答えているんです。

竹部:なるほど。今思い出したけど、『デヴィッド・フロスト・ショー』で、「ヘイ・ジュード」を演奏する前にちょっと即興で音を鳴らすんだけど、そのときのジョンのギターがジャズテイストで、なんとなく「ハニー・パイ」に似てます。

野口:あのテイストが得意なんですかね。あと、「ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」を頭からコピーしていくと、やっぱりこの人はすごいなってことになるんですよ。なんでこう展開していくんだって。「アイム・ソー・タイアード」もそうですね。なんでこのコード進行になるんだって。あと、「アイ・ウォント・ユー」のリズムとか。

竹部:感覚でやってるんですよね。だから理屈にならない。

野口:「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」だって、全然4分の4じゃないんですよね。なんでこうやってしまうんだろうみたいな。

竹部:それでも違和感がない。ポールはいかがですか。やはり優等生的な感じですか。

野口:いや、変ですよね。「サムシング」のベースとか。あれはすごい。1曲の中にメロディが2通りあるみたいなベース、どうやって考えるんだろう。

竹部:あれはヘフナーではないんですっけ?

野口:リッケンバッカーだと思います。

竹部:ポールのベースって、ゲーム感覚で弾ける感じが好きなんですよ。タスクをクリアしていくみたいな感覚といいますか。野口さんは仕事上、趣味も含めてビートルズ楽器は一通りこう弾いているのでしょうか。

野口:一通り弾きました。

竹部:好きな楽器とかありましたか。

野口:グレッチのテネシアンですね。ジョージが初期に弾いてたやつ。64年頃の曲はこれで弾かないとこの音にならないんだっていう。あの肉厚な音はストラトやレスポールでは出ないんですよ。あと、カントリー・ジェントルマン。この2つのギターを弾かないと初期のビートルズの音にはならない。

『ギター・マガジン』2012年5月号

1980年12月9日、あなたは何やっていたか

野口さんが編集を手掛けたビートルズ本3冊

竹部:なるほど。で、野口さんは『ギター・マガジン』でのビートルズ特集の流れで、今度は書籍でビートルズものをやりますよね。まずは『真実のビートルズ・サウンド完全版』。

野口:これは川瀬泰雄さんと知り合ったことが大きいんです。

竹部:山口百恵、井上陽水、浜田省吾のプロデューサーだった方ですよね。

野口:ビートルズマニアで、しかもプレーを研究している人なんです。最初に知り合ったのは『ギター・マガジン』の記事だったんですが、ある日川瀬さんから「神泉のランタンっていうライブハウスに毎週いるからそこに来て」って言われて、行ったんですよ。その店は毎週水曜日がビートルズ・デイになっていて、そこに来た人で即席のビートルズ・バンドを作って、演奏するっていう。そこで話をして、お互いビートルズが好きだっていうことを確認しているうちに、ビートルズ本を作ろうということになったんです。

竹部:そのライブハウスは聞いたことあります。

野口:実はこの本は前にコンパクトなかたちで『真実のビートルズ・サウンド』っていうタイトルで出ていたんですよ。それはずいぶんはしょって、代表曲だけを取り上げた新書だったんですが、川瀬さんとしては213曲全曲を解説したものを作りたかったらしく、話しているうちに「完全版を作りましょう」ってことになって、それでできたのが『真実のビートルズ・サウンド完全版』。最終的にかなり分厚い本になったんですけど(笑)。

竹部:大変でしたでしょう。

野口:何回か重版もして、よく売れました。

竹部:プレイヤーとしてのビートルズを知りたいっていう人が増えてきてるってことなんですかね。

野口:そうだと思います。

竹部:コピーバンドもたくさんいますもんね。YouTubeで見つけると見ちゃいます。その次にまた川瀬さんと作ったのが『ビートルズ全213曲のカバー・ベスト10』。タイトル通りの内容ですが。

野口:これもまた川瀬さんが鬼のようにビートルズのカバー曲を集めていて。ぼくもビートルズのカバーが好きで、集めたりはしていたんですが、ここまで集める人はいないなと思って驚いて、それじゃあそれを本にしたらどうだろうってことになって、できたんですけど。

竹部:これは他に例を見ない本です。

野口:これも大変だったですね。全部カラーでジャケ写を入れて。

竹部:そのあとに佐藤剛さんの『ウェルカム!ビートルズ』。

野口:ビートルズの来日に尽力した人たちの裏話で、主に石坂敬一さんのお父様の石坂範一郎さんが主人公の話なんですが、要するにこの方は電気会社の東芝の中にレコード部門を作って、東芝音楽工業を設立して、ビートルズの来日にも尽力したんですね。佐藤剛さんがネットで連載していた原稿を書き直して、加筆して、再編集してまとめています。

竹部:ビートルズ来日に関する話はどれも面白いですよね。ぼくは、10年くらい前に藤本国彦さんと一緒に石坂敬一の自伝本を作ったんです。亡くなる一年半前くらいから定期的にお会いして話を聞いて。メインはビートルズなんですが、お父様の話もよく聞かされました。厳しい人だったと。石坂さんは、確認用の最終原稿を渡す約束をしていた1週間前ぐらいに亡くなってしまったんです。佐藤剛さんにも何度か取材したことがあって、『上を向いて歩こう』の著作にサインをもらったこともありました。今となっては佐藤剛さんも石坂敬一さんも亡くなってしまって、悲しいですね。

野口:本当にそうですよ。

竹部:それで、野口さんの今のビートルズ活動はどんなでしょうか。そういえば、バンドをやっているんですよね。

野口:ビートルズを中心としたバンドをやっています。「オー・ダーリン」とか「ノルウェーの森」とか、そういう曲をエピフォンカジノで弾いています。

竹部:楽しそう。

野口:5人編成のバンドで月1ぐらいのペースで練習しています。あと、ビートルズ活動っていったらカンケさんの『ビートルズ10』は毎週聞いています。カンケさんとも仲良くしていただいて。あ、そうだ。ぼくは『ゲット・バック』をまだ見ていないんです。

竹部:それはなぜでしょう。

野口:配信が始まったとき、めちゃくちゃ仕事が忙しくて、7時間も8時間も見られないと思っていたら時間が経ってしまって。DVDを手に入れたので、ようやく見ようかと思ってまして。それを見る楽しみがあるんです。早く見ようと思ってます。

竹部:その話をまたしましょう。『アンソロジー』配信前に見た方がいいかと思いますよ。『アンソロジー』を観始めると、あれも『ゲット・バック』同様長いじゃないですか。

野口:そうですね。この間、映画『ブライアン・エプスタイン』を見ました。時系列で肝心な部分は押さえているんですが、個人的にはもっとブライアンとビートルズの関係や音楽の内容に踏み込んでほしかった。ビートルズと、あるいはジョージ・マーティンとどんな話をしたのかとか。ブライアンが抱えていたゲイとしての心の苦しみに重点が置かれて描かれている印象でした。あと、オリジナル曲が使えなかったみたいで、流れる曲はみんなカバーなんですよ。

竹部:それは残念。『バック・ビート』や『ノーウェア・ボーイ』って、デビュー前だからカバー曲でも成立するけど、デビュー後を描く場合はオリジナルがないと魅力が半減してしまいますよね。

野口:とはいっても、ビートルズ役の4人が微妙に似ていて、演技力も確かなので、ファンなら楽しめることは間違いない。見ておくべき作品ではあると思いますよ。

竹部:わかりました。ブライアンと出会わなければ、ビートルズはなかったということもわかるわけですよね。そろそろ時間なんですが。最後に1980年12月9日のジョンの死について聞きたく思いまして。

野口:夕方のニュースで知りました。高2のとき。ちょうど『ダブル・ファンタジー』が出たすぐ後だったじゃないですか。ジョンの新譜の『ダブル・ファンタジー』を聴いていた頃だったんですよ。

竹部:日本発売は12月5日発売だったんですよね。その4日後でしたから。

野口:でしょ。だからすごくショックで、何をしたかって言われても覚えていないんだけど、心に暗雲が立ち込めるみたいな感じでした。最初は嘘だろうっていう気持ちだったのがテレビもラジオもジョンのニュースを伝えていて、ニューヨークからの中継が入ったりして、徐々に事実として認識していったというところですよね。

竹部:日本におけるビートルズ史って、いちばん大きいのは66年の来日で、もうひとつはジョンの死なんじゃないかって思うんですよ。

野口:特別な日っていうか、忘れられない日ですよね。それ、ぼくも雑誌で特集しようと思ったことがあるんですよ。ジョンが撃たれたあの日、あなたは何をしていましたか。みたいなね、それぐらい、みんなの中に刻まれている事件ですよね。大学のときにもそんな話になったことがあって、ファン同士で盛り上がったことがありました。あるやつはその日、ジョンと麻雀した夢を見たって。

竹部:それわかるな。自分もずっとジョンのレコードを聴きながら壁に貼ったポスターをずっと見ていたら、ジョンのところが浮き出てきたみたいな錯覚に陥ったんですよ。それくらい動揺していたんですね。

野口:それやりましょうか。いいんじゃないですかね。1980年12月9日、あなたは何やっていたか。それはずっと思っていたんですよ。

竹部:『昭和45年11月25日: 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』って新書があるんですが、あれがほかに成立するのはジョンなのかなって。

野口:ぜひやりましょう。

竹部:新しい企画が生まれましたね。今日はどうもありがとうございました。

野口:こちらこそありがとうございました。

日本盤は1980年12月5日に発売された『ダブル・ファンタジー』
この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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