斜陽時代の始まりとポールの新作|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった。VOL.27

前回も記したように83年はビートルズのLPレコードが一枚もリリースされることはなく、アニバーサリーで盛り上がった前年に比べると、なんとも拍子抜けの一年であった。バンド解散後も毎年のようにレコードがリリースされ、自分がファンになってからもベストや新しい音源やテーマに沿った選曲のコンピやボックスなどが続々と出ていたのに、それがひとつもないというのは寂しくもあり、物足りないような……でも少しほっとしたような、複雑な気持ちになったものだった。

『20グレイテスト・ヒッツ』を最期に途絶えたリリース

『20グレイテスト・ヒッツ』に封入されていたレコード袋

振り返ってみると、レコード時代のベスト盤のリリースは82年末の『20グレイテスト・ヒッツ』が最後。85年にリリース予定だった『セッションズ』はお蔵入りになり、その少し後にビートルズのLPはイギリス基準に統一されたことで、リリースは激減。一種の斜陽時代が始まったのが83年だった。以来レコード店でビートルズが展開されることがなくなり、再び盛り上がるのは87年のCD化まで待たねばならなかった。

それゆえ自分のビートルズ熱もここで一度落ち着いてしまう。音楽の興味は自分が始めたバンドだったり、ほかのアーティストのレコードだったり、に移っていくのだが、この時期よく聴いていたのは、これも前回記した原田真二と佐野元春やサザンオールスターズ。そのほかに、海外ではエルヴィス・コステロ(『マイ・エイム・イズ・トゥルー』など)、ELO(『ディスカバリー』など)、クイーン(『オペラ座の夜』など)、チープ・トリック(『蒼ざめたハイウェイ』など)、トッド・ラングレン(『サムシング・エニシング』など)と言ったところ。ビートルズを一通り聴いたあと、ビートルズ的要素をもったアーティストやバンドを通して改めてその魅力を認識することにもなった。

ポールとマイケルの共演第二弾「セイ・セイ・セイ」

「セイ・セイ・セイ」の7インチシングル

そんな状況下でリリースされたのがポールのニューシングル、マイケルとの共演作「セイ・セイ・セイ」だった。「ガール・イズ・マイン」がヒットしていた頃から、マイケルが次のポールのアルバムに参加していることは伝えられており、その発表時期は『タッグ・オブ・ウォー』から間髪入れずに82年中といわれていたから、半ば待ちくたびれた感のあるなかでのリリースだった。

その「セイ・セイ・セイ」を初めて聞いたのはラジオ、『オールナイトニッポン』だったか『ミスDJリクエストパレード』だったか。記憶が定かではないが、プロモを初めて観たのは『ベスト・ヒット・USA』で、番組冒頭で流れたことを覚えている。ポール&リンダ、マイケルが旅芸人一座に扮するという設定や、詐欺まがいのことをやりつつ実は善人という演出、マイケルの恋物語を絡ませた展開がおもしろく、プロモの枠を超えたまるで短編映画のような出来にすっかり魅了された。ポールの演技もなかなかでマイケルとのコンビネーションも抜群。プロモがなかった「ガール・イズ・マイン」の消化不良を補って余りあるもので大満足であった。

当時はこのプロモを何回テレビで観たかわからない。この頃の洋楽のプロモを扱うテレビ番組は『ベスト・ヒット』のほかに『ファンキートマト』『ソニーMUSICTV』『TOKIO ロックTV』『ビルボード全米TOP40』などがあり、そのほかにも情報番組で洋楽が取り上げられることも多かったので頻繁にオンエアされていたが、さすがにトータル5分もあるこのプロモがフル尺でオンエアされることはなく、冒頭の部分、マイケルと巨漢男が腕相撲することになる経緯を説明する場面からのフル尺を観ることができたのはTVKの番組でオンエアされたときだけだった。

『パイプス・オブ・ピース』のレコードジャケット

「セイ・セイ・セイ」で言えば、腑に落ちないことがひとつある。プロモの後半、見世物小屋が火事になり3人が街を後にするシーンで流れる「♪You never ever worry. And you never shed a tear.」のリフレインの部分がレコードにはないのだ。劇の尺に合わせて、曲を少し長く編集したのだろうが、このプロモバージョンになじみがあるので、レコード版はとても短く感じてしまうのだ。

シングルレコードは尺の問題で収録できなかったのであれば、12インチに入れるなどして対応することができたはず。だがその後のCD化の際もデラックスエディションの際もその音源は収録されることはなく、ブートにもなっていない。なぜなのだろうか。音盤として聴くことができないのは残念でならない。

こちらも傑作だった「パイプス・オブ・ピース」のプロモ

『パイプス・オブ・ピース』の裏ジャケット

それから間もなくして、11月21日にアルバム『パイプス・オブ・ピース』がリリースされた。事前に宣伝広告で見たレコードジャケットにポールの顔が映っていないのは寂しかったが、ポールのニューアルバムはやはり特別なもので、襟を正すような気持で発売当日に石丸電気で購入。その日から何度も何度も繰り返し聴いて頭にメロディと歌詞を刷り込んだ。A面のアルバムタイトル曲の冒頭で聞こえてくるSEは大作を予感させ、その後も佳曲が並び、A面は「ソー・バッド」まで捨て曲はないと思ったが、全体で見れば「セイ・セイ・セイ」はかなり浮いている印象。この曲をどこに置くか、迷ったのではないかと勘繰ってしまう。どうせ浮いているならこの曲だけクインシー・ジョーンズのプロデュースで良かったのではとも思ってしまう。マイケルとの共演「ザ・マン」で始まるB面も所々退屈な部分もあるが、「スルー・アワ・ラヴ」でしっかり感動させるところ(最後のシャウトがたまらない)はさすが、とファンは満足の作品であった。

だが、評論家筋の評判はそれほどではなく、セールス面においてもオリコン1位を記録した前作に比べると今一つ振るわなかった。当時聴いていた渋谷陽一の『サウンド・ストリート』では酷評とは言わないまでも紹介するテンションは低く、「ザ・マン」のギターについて「いかにも歌謡曲」といったことを言っていた覚えがある。そんなコマーシャルセンスもポールの魅力ではあるが、当時はブリティッシュインベイションの快進撃が続く真っただ中にあり、彼らの目新しいサウンドがシーンを席巻する中では、ポールのレコードは大物の保守的と捉えられても仕方なかったのかもしれない。

『パイプス・オブ・ピース』の販促用ポストカード

間もなくしてアルバムからセカンドシングルとして「ソー・バッド/パイプス・オブ・ピース」がリリースされ、国によってAB面が異なることから2曲ともプロモが作られたものの、ヒットには至らず。第一次大戦を舞台にした「パイプス・オブ・ピース」のプロモでポールが一人二役を務めたことが少し話題になった程度だった。「ソー・バッド」のほうも久々にリッケンバッカーを弾くポールが見られて、ファンにはたまらない映像だったが、ファン以外から注目されることはなかった。TVK『ビルボード全米TOP40』『ソニーMUSIC TV』では2曲ともフル尺でオンエアされ歓喜した。この頃はテレビを付ければTVKだった。

TVKでオンエアされた米ABC制作の音楽ドキュメント

傑作音楽ドキュメントだった『Echo Of The Sixties』

そのTVKの流れでいえば、この時期放送された『Echo Of The Sixties』というタイトルの特番に触れないわけにはいかない。そのタイトルからもわかるように、60年代のロックシーンにフォーカスした音楽ドキュメントで、ビートルズを中心に数多くのアーティストを紹介しつつ、当事者へのインタビュー、貴重映像などが詰め込まれた、さすがABC制作の手の込んだ作りであった。80年くらいからTVKで何度か放送されているが、自分が初めてビデオに録画したのがこの頃と記憶している。

番組はPP&Mのマリー・トラヴァースが「時代は変わる」を歌唱(舞台はハリウッドボウル)するシーンで始まり、そこからイギリスへ飛びリヴァプールサウンドの紹介という流れで、そのナビゲーターはツイッギーが務めた。証言者として登場するのはジェリー&ザ・ペースメーカーズの、ジェリー・マースデン。名曲「マージ―河のフェリーボート」をそのままのシチュエーションで歌うシーンが美しく、これに影響されたわたしは、91年に初めて渡英しリヴァプールを訪れた際、マージ―河のフェリーボートに乗り、持参したウォークマンで「マージ―川のフェリーボート」「ドント・レット・ザ・サン・キャッチ・ユー・クライン」を聞き、感動に浸った。

番組はその後アメリカに渡り、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコで始まったムーブメントに関する取材が展開される。これも興味深いものばかりで、ロックの歴史の基礎知識はこの番組から教わったことは少なくない。ブライアン・ウィルソンやホセ・フェリシアーノ、ミッキー・ドレンツなどの証言も今となっては貴重なものばかりだろう。

それでもお目当てはビートルズで、本編中にインサートされるワシントンDC、シェア・スタジアムのライブ映像や映画『ハード・デイズ・ナイト』、「ヘイ・ジュード」「レボリューション」のプロモ等々などの映像を目を皿のようにして見入った。素材的には珍しいものはないものの、驚くべきはその画質で、それまでノイズ交じりの暗いフィルムでしか見たことのなかった映像が明るくクリアになっており(フィルムではなくビデオと思しい)驚いた。何度も見たことのある映像がとても新鮮に映り、終始興奮しっぱなしの2時間となった。実家のどこかにビデオが眠っていると思うが、この番組、もう一度観られないものか。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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