世界が認めた! 海外移築されるニッポンの古民家

民俗や地域伝統文化のあれこれに没頭しがちなエディターが、あなたの日々の暮らしに、とても小さなときめきをお届けしましょう。言葉だけは知っている作法や行事、未来をひらく温故知新、興味はあるけどよくわからない民俗のことなどについてわかりやすく紹介します。

明治・大正の偉人の屋敷を、移築・継承

1984年以来の40年ぶりの切り替わりが、2024年7月3日に行われる。

それは、新紙幣の発行だ。

なかでも注目される新1万円札の肖像画といえば、近代日本経済の父と呼ばれる実業家・渋沢栄一。日本初の株式会社を作り、生涯に約500もの企業に関わったといわれる人物である。

渋沢が、東京都江東区で暮らしていた旧渋沢邸。この屋敷が、移設先の青森県六戸町から2023年に再び江東区に「移築」された。手続きを経たのち、今後の一般公開も検討されていくという。

渋沢栄一と同時代(明治・大正)を駆け抜けた文豪に、森鴎外がいる。

没後100年を超えた鴎外が代表作『舞姫』を執筆した旧邸(東京都台東区)を、根津神社(東京都文京区)に「移築」するプロジェクトが、2023年より着々と進められている。完了予定は数年後。そもそも鴎外は根津神社の氏子であったため、ゆかりが深いという。

筆者が訪れたなかでの古い国内例を挙げれば、1615年の大坂夏の陣で落城・炎上した大坂城の唯一の遺構・極楽橋の「移築」がある。極楽橋は、琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)に建つ唐門として移築・再生されている。今はなき初代大坂城の秀吉ならではの豪奢な嗜好を感じられる遺構といえるだろう。

ちなみに、大坂・大阪のように「さか」の漢字の使い分けの発生は、諸説あるなか、江戸時代に「坂」は「土・反」の字で縁起が悪いと考えられたためともいわれている。

建物のまるごと移動の工法は、古来行われてきた

古くから日本で行われている木造建築工法に、「移築」や「曳家(ひきや)」がある。これらが具体的にどういう行為を指しているのか、知っていますか?

「移築」は、すでに建っている建物(家、施設、城など)を、きれいに部材に解体して、部材として別の土地まで運搬し、当初と同じ部材の組み合わせで再度建てなおすこと。

「曳家」は、基礎ごと持ち上げて同じ敷地内などの近場に移動させて再配置すること。

長年使われてきた建物を次に使う土地(場所)にまるごと運んで、同じ建物に暮らすための工法は、今風に語ればネイチャーポジティブ。日本らしい「MOTTAINAI」哲学の派生のようにも感じられる。

海外通たちのJAPAN推し

日本から海外への「移築」も着々と行われている。

建築家・篠原一男による木造平屋住宅「から傘の家」(1961年)が、ドイツの街ヴァイル・アム・ラインにある、スイスの世界的家具メーカーによる「ヴィトラ キャンパス」内に2022年「移築」された。

建築家発のこのような住宅作品ではないが、古き良き日本の古民家群も、近年、続々と海外移築が進められている。「日本の古民家が美しい」という観点で、海外の人々の耳目を集めているのだ。

米国、ジャマイカ、韓国……その具体例の一部を、『じゃぱとら』最新号では「海外移築されるKOMINKAとして特集しています。日本の地方の小さな工務店が、熱き思いだけを胸に、どのようにして縁のない海外と関係性を作り、プロジェクトを育んできたのか。その魅力と並々ならぬ苦労に迫っています。

この記事を書いた人
中川原 勝也
この記事を書いた人

中川原 勝也

民俗と地域文化の案内人

エディター。地域伝統文化のこと、民俗のあれこれ、古民家・民藝・暮らしのこと、などを当サイトでは担当。これまで日本カルチャーを主なフィールドにしながら、国内の法人・自治体・商品のブランディングにまつわるメディア等を手掛けてきた。温故知新好きが募って、ただいま、月刊古民家誌『じゃぱとら』編集長。
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