戦績を残した1950年代までの3台のレースバイク。英国ゴールデンエイジの産物をとくと見よ。

  • 2024.02.02

英国車を中心としたヴィンテージモーターフリークたちによって作り上げられるレースイベント、『Festival of SIDEWAY TROPHY』。イベントでは’70年代までのイギリス車を中心としたヴィンテージモーターサイクルがスピードを競い合う。ここではイギリスのモーターサイクルが欧米各国のレースで輝かしい戦績を残した1950年代までの3台のレースバイクをピックアップ。

1.1950 VINCENT COMET GREY FLASH REPLICA|VINCENTが誇る往年の工場レーサーをオマージュ。

単気筒の排気量500㏄コメットをベースとして、東京の英国旧車専科ブリティッシュビートが往年のワークスレーサー“グレイフレッシュ”をオマージュした1台。本物の“グレイフラッシュ”はVINCENTの工場レーサーであり、’49〜’51年までに僅か31台しか生産されなかった超希少モデル。

この車体は外装だけでなく、エンジンスペックもグレイフラッシュに基づきチューンアップ。CAFE RACER’S TRIBUTE RUNにエントリーしたオーナーは、今後LOCなども視野に入れてこのレース活動を展開していく予定とのこと。できたばかりのため調整が必要な箇所はまだあるそうだが、伝説の工場レーサーの走りが蘇る瞬間に期待が高まるばかりだ。

鍛造ジュラルミンの油圧ダンパーを備えるガードローリックフォークがシリーズCの象徴。エアスクープ付きのフロントブレーキはグレイフラッシュの専用パーツ。ホイールはF20-R19インチで前後共にアルミリムを採用
コメットエンジンは、グレイフラッシュのスペックに基づきリビルドされた。MarkⅡカム、オメガ・ハイコンプレッションピストンをインストール。AMAL TTキャブレターもグレイフラッシュで採用されたレーシングパーツだ

2.1930s VINCENT TTR|オリジナルエンジンを搭載するVINCENT初の市販レーサー。

1935年から’39年までに約40台生産されたVINCENTシリーズAの希少な市販レーサーTTR。’34年以前にマン島TTレースに出場するVINCENTのレーサーで使用していたJAPやホイットワースエンジンに代わり、初めてVINCENTのチューンドエンジンを搭載したTTの市販バージョンである。

ベースは刻印が加工され、タンクが取り外された状態で手に入った素性の怪しい車両であったが、パーツはほぼ全て本物のTTRが使用されていたため、東京のTRIDEが丁寧にリビルドした1台だ。アルミシリンダー、ブロンズヘッドを採用するチューンドエンジンや足周りなど、TTRだけに採用されたVINCENT謹製のレーシングパーツにも注目したい。

オリジナルに基づいてリビルドされた心臓部。アルミシリンダーはイギリスのCONWAY MOTORSで製作し、ブロンズヘッドはオリジナルの最終型MarkⅢ。キャブレターは戦後のワークスレーサーで採用されたAMAL TT9を装備
ガーダーフォークは通常の市販モデルとよく似たスタイルだが、大型のドラムブレーキを装着するためにボトムがやや広がった専用設計。ドラブレーキはハブとパネルにアルミを使用したオリジナルのコンポジットブレーキを装着

3.1939 TRIUMPH T100|オートレースのパイオニアが残したヒストリカルな1台。

オリジナルの外装を残したシンプルなスタイルだが、その実このマシンの正体は、1950年代からTRIMPHをはじめとした英国車で日本のオートレースの黄金時代を築き上げた原正洋氏が生前最後に製作したT100である。現オーナーの吉原氏は約5年前にこの車両を手に入れて以来、オンオフ問わず様々な草レースに没頭し、数々のトロフィーを獲得している。

吉村氏の手に渡る前のファーストオーナーは、「日本で直線最速のTriumph」を目指して原氏にオーダーして製作された車両だが、実際に日本のヴィンテージレース『TIME TUNNEL』でチャンピオンになるなど、日本国内のレース史を逞しく渡り歩いてきたヒストリカルなTriumphなのだ。

原氏のチューンが施された心臓は排気量500㏄のままに650㏄のクランクを使用し、オートレース用のハイコンプピストンをインストール。ヘッドはアルミブロックから削り出したお手製マニホールドによってデュアルキャブ化
戦前のTriumphに採用されたガーダーフォークはオリジナルパーツだが、原氏によって丁寧にセッティングされている。スクリーンは前オーナーがVINCENTのレーサーをイメージして装着したスタイルを残している

(出典/「CLUTCH2024年2月号 Vol.94」)

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