白い大地の地平線の彼方を目指してフルスロットル! 世界最速に挑む男たちの聖地「ボンネビル・ソルトフラッツ」

アメリカ、ユタ州の北西部に位置するボンネビル・ソルトフラッツは、100年以上も前から最高速の挑戦者にとって“ランドスピードレースの聖地”だ。伝統あるレースでの栄誉を求めて、現在も世界中から挑戦者が集まる。

多種多様なマシンが速度記録を目指す

最高速が100㎞/hも出ない小排気量バイクから、500㎞/hに届く勢いのミサイルのようなストリームライナーまで、多種多様なランドスピードレーサーが最高速に挑む。スピードウイークは、四輪との混走のため、さらにいろいろなマシンを見ることができる

どこまでも真っ白な塩の平原、ボンネビル・ソルトフラッツ。ランドスピードの聖地と呼ばれるこの場所は、長い直線コースが設定でき、高低差がまったくないフラットな地面のため、100年以上も前からレースや最高速チャレンジが行われてきた。現在も雨が少なく塩の地面が安定する8月から10月にレースが開催されている。

“直線で最高速を出すだけ”と聞けば簡単でつまらなそうなレースと感じる人も多いだろう。しかし、実際には最高速を出すためだけのマシンを自ら製作し、年に1度の挑戦に賭ける。自然現象の中でのレースだから、湿度で塩の地面の状態も変わり、ラフな路面になることもあり、中止になることも珍しくない

また、地面の状態が悪い中で最高速に挑まなければならないときもある。一般道で出せるような速度のバイクやクラスであればテクニックが必要になることはないが、200マイルを超えるハイスピードでは、一瞬の判断で勝負の行方が決まる。じつはとても奥が深いレースなのだ。

LAのカスタムビルダー、「キヨズガレージ」の清永さんは、ホンダCB750Fourのエンジンを3基積んだ迫力のレーサーで出場。

「スピードウイーク」には、ヴィンテージや希少車で参加するライダーも少なくない。1940年代にハーレーが販売した125ccの「モデルS」で挑戦する人も。

スピードウイークに出場していたほぼノーマルの「ナックルヘッド」。同じチームからはミルウォーキーエイトの「FXR」風レーサーも。

スピードウイークは四輪とバイクが混走するレース。四輪は特にユニークなカスタムが多く、ピットエリアやスタート地点で見ているだけでもかなり楽しめる。

今年で77回目になるスピードウイークはレースであり、ホットロッドの祭典ともいえる。伝統あるレースに、当時と変わらないホットロッドなレーサーも走る。

チョッパー屋の挑戦、再び。8年間のブランクを経て、最速を求めて2度目の挑戦

8月初旬に開催された「ボンネビル・スピードウイーク」。今年で77回目を迎えたこのレースは、世界中のランドスピードレースの中でも伝統と知名度があり世界最速の称号を得るために挑戦者が集まる。映画『世界最速のインディアン』の主人公で実在の人物であるバート・マンローがニュージーランドから渡米し挑戦、1000㏄カウル付きクラスの最高速記録を樹立したのもこのレースだ。

日本からもたくさんのライダーやドライバーが挑戦している。今年のレースにも日本から数名のライダーがエントリー。「シウンクラフトワークス」の松村友章さんの姿もその中にあった。

松村さんは、2017年にS&S製パンヘッドを搭載したランドスピードレーサー「ソルティボニーⅡ」を製作し、「ボンネビル・モーターサイクル・スピードトライアルズ」に挑んだ。

このレース専用バイクは、空力性能を追求して前面投影面積を極力減らした上、松村さんの体型に合わせたライディングポジションは自由度がほぼない状態だった。17年は、塩のコンディションが非常に悪く、コースがラフでスタンディングに近い状態にならないとマシンのコントロールができない場面もあった。残念ながら最高速の記録を破ることはできず、松村さんは日本に帰った。それから8年。あるきっかけがあり、スピードウイークに出場するチームのアドバイザーを引き受けたことから、塩の大地に再びチャレンジすることになったのだ。

今年のスピードウイークは、塩の路面のコンディションが稀に見るほどよく最高速記録を出すには絶好のチャンス。スピードウイークを走るのは初めてなので、松村さんのターゲットである時速200マイルを出すにはルーキーコースから徐々にスピードを上げてランクアップしていく必要があった。

数回の走行を順調にこなし最高速記録に挑戦できる長さのコースを走る資格を得た松村さんは、17年の記録を難なく塗り替えた。しかし、180マイルを超えるスピードから伸びなくなる。セッティングに試行錯誤しつつチャレンジし続けたが最終的には、188.787マイル(303.823キロ)まで出たもののエンジンブローし、レコードの更新は成し得ずに松村さんの夏は終わった。しかし、今回のレース後「満足はしてないけれど、やり切った感覚はある」と笑顔で語った。

17年の自己記録である174マイルを初日に更新し200マイルオーバーを狙った松村さん。塩の路面のコンディションがよくターゲットには届かなかったものの最終日になんと300キロオーバーを達成。日本からは、「酒井ボーリング」の高橋さん、「FORK」の長谷川さんをはじめボンネビルまで応援に駆けつけた人も多かった。現地では「チャボエンジニアリング」の木村さんとの交流もあり、和やかな雰囲気のレースとなった。

塩の路面のコンディションが最高によかったスピードウイーク。松村さんは、初日から順調に最高速を上げ、前回の自己記録を軽く更新。SCTAのレコードには届かなかったが悔いはない。

車検や装備などレギュレーションは想像以上に厳しい。松村さんがエントリーした「ガスクラス」は指定のガソリンを使用することがルール。給油後はテープで封印される。

アメリカの伝統的なレースということもあって出場車両はハーレーが圧倒的に多い。標高が高いためスーパーチャージャーなどの過給機の装着や燃料にナイトラスを追加することが有利ともいえる。

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CLUB HARLEY 編集部
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