消耗品的なチープさをあえて継ぐような作品
前世紀の1960年代から70年代にかけて数多く乱造されたアメリカンインターナショナルピクチャーズ製のB級マイナー映画、66年のロジャー・コーマン監督による『ワイルド・エンジェル』や、ジョー・ソロモン製作による『爆走! ヘルズ・エンジェルス』等を代表とする、いわゆるB級バイカー映画は、後の1970年代から80年代に活躍する映画監督や俳優たちを数多く生み出した実験場のような作品群でもあった。
特に柳の下の2匹目のどじょうの如く乱造された後続の類似作品の多くは、感覚的に流行りモノといったニュアンスでもあり、ドライブインシアター向けの出し物として安直に作られたきらいがある。正直、いまでこそはオールドスクールのチョッパー動画として観られるが、そうでなければ、よほど好きでなければ観て時間のロスを嘆くようなモノも少なくない。
映画産業という人気商売ゆえ、こうした流行りモノなりの量産システムというのは致し方なくも思える。すべてが歴史に名を残すような名作ではないのは当然のこととしても、それでもB級、あるいはそれ以下と評される作品であったとしても、それなりにこうした作品群がなければ映画産業というのが維持できないというのも実情としてあっただろう。まさに消費材、消耗品的な扱いだ。
それでも、そんな消耗品的なチープさをあえて継ぐような作品というのを望む映画人たちというのもこの世にはいるわけで、それが今回ここに紹介する2008年の作品『ヘルライド』だ。
この作品に観られるある種チープシックにも思えるノスタルジックな、旧きB級バイカー映画を再現するような作品づくりを確信犯で行うというのも、良くも悪くも歴史を重ねたハリウッドの懐の深さというものなんだろうと思う。
このあたりの“かつて乱発されたが廃れたジャンル”、その復古といった話を見るに、まったく異なるジャンルではあるが、昨今、日本の自主制作映画として世界中で話題となった23年の安田淳一監督作品の『侍タイムスリッパー』とも重なり繋がるような感覚を得たりもする。もっとも『侍タイムスリッパー』はかなりの優秀な作品ではあったけど、あれに似たオマージュを、かつての東映の梅宮辰夫の不良番長をはじめ、岩城滉一主演の暴走族映画や、和田アキ子、梶芽衣子主演の野良猫ロックの類いのノリをいまにリブートするとしたら、作品として成功云々はともかく、ネタとしては新鮮で面白味を得るようにも思うんだがねー。
そのあたり、過去のB級(あるいはそれ以下)作品群への愛情たっぷりなオマージュで満ちた作品ってえと、現時点では映画ではなく、アマゾンキンドルあたりのデジタルコミックで展開されているエロ・ロッド作品の『恋のハイウェイ』あたりがAIでアニメ化されたりしたらおもしろいかもしれない。
単に懐古趣味で終わらず、旧作群への愛に満ちた作品って、観る側に新たな想像力を与えるよな。
『ヘルライド』
原題:Hell Ride
制作年:2008年
製作:ディメンション・フィルムズ
監督・脚本・主演:ラリー・ビショップ
出演:マイケル・マドセン、デニス・ホッパー、デビッド・キャラダイン
そうそうたる豪華なキャスティングに、LGBTQだのポリコレなんぞクソ喰らえ! とばかりのバイオレンス、ポルノ、ハーレーで埋め尽くされた、B級バイカー映画への愛に満ち満ちた快作
(出典/「CLUB HARLEY 2025年8月号」)
text/T.Kurokawa 黑川銕仁
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