英国クラシックからミックスクラシックへ
「シピー」での経験を経て、クラシカルな英国紳士服に根ざしたブランド「ドレイパーズベンチ」へと移籍したのは、27歳の頃。1930年代頃までに見られたブリティッシュトラッドの流儀やマナーへの関心はさらに加速していったという。
「ノーベントのジャケットにロングポイントカラーのシャツ、ツープリーツのワイドパンツというクラシカルなスタイルが、ぼくの当時の日常着でしたが、一方でヴィンテージに関しては英米問わず、30~40sのカジュアルウエアの研究もライフワークとして続けていて。音楽的にもアシッドジャズが盛り上がり始めた頃でしたし、少なからずフォーカスされたシーンではあったものの、ファッションの本流やトレンドからは、とにかく縁遠いマニアックな界隈に身を置いていたんですね。とはいえ、シーンが大きくなるにつれ、徐々にぼく自身が飽きてしまって(笑)。というのも、頭でっかちに型にハマり過ぎた窮屈な世界だなと。
そんな折、原宿キャシディで『ニュー・リパブリック』とデザイナーのトム・オートマンの存在を知りました。ニューヨーク発ながら、ぼく同様に英米問わず30~40年代頃のヴィンテージクローズから着想を得たスタイルを打ち出していましたし、その後も興味を持って追っていた矢先、繊研新聞に『ニュー・リパブリックと契約』という記事を見つけ、早速ライセンスを管理する企業へ電話すると、今すぐ会いたいとのことで、社を訪れたら、その場で採用されて。しかもいきなりの責任者ですよ(笑)。
トントン拍子で話が進むなか、『ドレイパーズベンチ』を退職し、わずか3ヶ月後にニューヨークまでトム・オートマンを訪ねることになり、クラシカルな30sのスーツをキメキメで会いに行ったところ、トムが僕のことを結構気に入ってくれて(笑)。結局は『ニュー・リパブリック』用に新しい会社を立ち上げることになり、当時の相棒からは『日本製は今井くんが全部デザインしなよ』と。とはいえ、ぼくは作ることに関しては何の経験も知識もなかった。そこで『ドレイパーズベンチ』時代の常連さんで、日本で『ラルフローレン』が紹介される前から『ラルフローレン』みたいな展開をしていた古参ブランド『エーボンハウス』でものづくりをしていた仲間を、その生産背景ごとプロジェクトに引き入れました。そういった経緯で、わずか数名体制で日本国内における『ニュー・リパブリック』をスタートさせることになったたワケです」。
「ニューリパブリック」との出会い



「ニュー・リパブリック」のデザイナーにして世界的ヴィンテージコレクターでもあるトム・オートマンは自身所有のアーカイブから、すでに消滅したワークブランドや量販系のタグを写真集としてまとめるほど、往年のヴィンテージガーメンツに対する造詣が深かったという。


今井さんが現在も所有している「ニューリパブリック」のアーカイブ。サファリジャケットを思わせるディテールを有したマドラスジャケット、クラシックなビッグシルエットのチノトラウザーズ。そして右下のギンガムチェックのBDシャツは、日本企画として今井さんが制作したもの。
自身のブランドサウンドマンを設立
「ニュー・リパブリック」も軌道に乗り始めた90年代末頃、首謀者のトム・オートマンから突然の店舗休止、さらにブランドからも撤退する旨が国内チームに告げられた。
「もう引退するから日本のチームで引き継いでくれと言われたものの、ぼくらにそれだけの体力はなかった。とはいえ、少量ながらも並行してオリジナルアイテムも展開していたので、ある程度のノウハウはありましたし、会社自体は当時台頭していたストリートに舵を切ることとなり、これまで蓄積した生産背景やパターンなど一式は託すとのことだったので、それならばと1999年に『サウンドマン』をスタートさせました。当時、そこからデビューしたブランドがすべて大成すると言われた代官山のパーフェクトルームに小さなオフィスを構え、取り急ぎ作ったサンプルを持って数軒のニューリパブリックの卸先を回ったところ、生産できるぎりぎりのオーダーをいただけたので、とりあえず1年だけやってみようと(笑)。半年後、オフィスにて展示会を開催し大手セレクトはじめ新規の取引先からのオーダーも入り、ようやく自分のブランドをやっていくんだという覚悟を決めました(笑)」。
ありそうでなかった英米デイリーのミックス
こうして創業から四半世紀以上を重ねる人気ブランドへと成長した「サウンドマン」。その根底には、恩師でもあるトム・オートマンの哲学が今も静かに脈打っているという。さらに、3年前には苦楽をともにした代官山から、地元である横浜へと拠点を移し、よりパーソナルなプロジェクトとして「サウンドマン」を続けていると語ってくれた。
「トムは言葉で世界観を表現するのが得意な方で、象徴的な言葉と合わせて現代的なミクスチャー感覚を意識していました。ぼくが身をおいていた英国クラシック界隈とは異なり、英国ものとアメリカもの、30sと60s、そうした異なる文化や背景のミックスにこそ面白みを感じ、それこそが我々が表現する世界観だと常に語っていました。『サウンドマン』では、年代や国、文化や背景を異種配合することで新たな魅力や面白みを生み出していきたいですし、創設から26年を経た今も、コンセプト自体はスタート当初と何ひとつ変わっていないと、ぼく自身は考えていますね」。
そして「サウンドマン」へ継承されるDNA

英国ものを中心としたヴィンテージへの造詣の深さから、小誌『セカンド』や兄弟誌『ライトニング』にもたびたび登場。愛車や自転車を紹介していただいたことも。


希少な「サウンドマン」の1stコレクションより、3ボタン段返りのモールスキンジャケット。タグも今とは異なる。



上が現在のフラッグシップモデル「クラーク」。深い2インプリーツが入った英国軍のオフィサートラウザーズがベース。中央の[バーミンガム]は、架空の英国の製鉄所のユニフォームをイメージした定番。下は、新作[アルバニー]。ファティーグからBDUジャケットに移行する過渡期に作られたテストサンプルと推測されるヴィンテージがデザインソース。左から2万9700円、4万8400円、4万8400円(サウンドTEL045-225-8918)
本江MEMO
「横浜山下町に戦前からある、とても良い雰囲気のオフィス。彼の世界観もキッチリ表現できるだろう瀟洒な佇まいが、まさに圧巻でした。本編に出てきた「ドレイパーズベンチ」の「30年代クラシックタイプの極太のパンツ」。旧い付き合いの K氏がいつも穿いていたのを思い出し、久しぶりに連絡をとってみました。彼が昔所属していた石巻の「アグリッパ」で縫っていたものがまだ一本だけあるよということで、今井くんもさすがに持っていなかった、その貴重なパンツを早速お借りして、本編で掲載しています」

このパンツはまた別で、当時Pt.Alfredでも販売していた今井くん作の「ニューリパブリック」。やや太めの尾錠付きピケパンツです。店の旧いお客さんであるSくんから借りてのご紹介です。クラシック&エクレクティクスタイルですね!
(出典/2nd 2025年11月号 Vol.214」)
Photo/Yoshika Amino Text/Takehiro Hakusui Illustration/Maki Kanai
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