「シップス」代表取締役社長・原さんと振り返る、ブランド同士のコラボ黎明期

ブランドとブランドが出会うことで生まれる、想像を超える化学反応──それがコラボレーション。近年、ブランド同士のコラボはますます活発化し、多くのコラボが世に溢れてきた。そんなコラボというものを、「シップス」代表取締役社長・原裕章さんの黎明期から現代までの証言を通して紐解いていく。

「シップス」代表取締役社長・原裕章さん|1960年、東京生まれ。大学時代のバイト期間を経て1983年、有限会社ミウラ(現在のシップス)に入社。販売員、店長、営業部長、商品部長、人事部長、取締役、副社長を経て昨年、社長に就任

コラボの起こりと真髄についての考察

こちらが、79年当時の「ミウラ&サンズ 渋谷店」。奥を歩いているのが、働き始めて間もない頃の原さんだ。この店舗が現在に続くシップスの起点であり、ここで顧客と共有された高揚感がシップスのMDの原点である

日本におけるコラボレーションの歴史を紐解きたいと考えた時―—。そもそもコラボレーションアイテムとは何であるかと改めて哲学してみる時―—。そのよすがとなるのはセレクトショップの存在である。

日本のセレクトショップ界の先陣を切ってきたシップスは、有限会社ミウラとして法人化し、シップスの前身となる「ミウラ&サンズ 渋谷店」をオープンした1975年から数えて、今年で50周年の節目を迎えている。さらなる起源を深掘ると、52年に東京・上野のアメ横で創業した「三浦商店」に行き着く。その後、70年には「ミウラ」と改名し、輸入カジュアル衣料の販売を開始している。アメカジやアメトラに代表される数々のインポートアイテムに身を焦がし、服への愛を貫いてきた人間からしてみれば、まさにレジェンダリーなポジションに位置づけられるのがシップスなのである。

そのシップスで社長を務めている原裕章さんに、ご自身がこれまでに体感してきたコラボレーション史を語っていただいた。

「大学1年生だった私は、79年に渋谷の「ミウラ&サンズ」でアルバイトとして働き始めました。なるべく午前中で授業は終わらせて(笑)、午後から毎日のようにお店に行っていましたね。当時は毎日商品の入荷があり、お店に届いた箱を開けるのが本当に楽しみで……。先輩たちも含めたスタッフの(未知なる服と触れる)高揚感。それをお客さんと直に熱く共有することができた時代です。その熱気がすごかったように思います。

まだまだインポートアイテム自体が珍しいものだった70年代末までは、海を越えて届いてくるシャツやパンツなどをそのまま着用するのが当たり前という風潮でした。それが80年代の初頭にもなってくると、日本の輸入代理店を通じたサイズ別注という流れが顕著になってきます。例えば、シャツの袖丈やパンツの裾丈をあらかじめ日本人仕様に変更してもらうといった感じです。

しかし、こうした仕様変更はコラボレーションというよりも別注というイメージが濃厚でしょう。『これこそ、コラボレーション!』といえるアイテムが登場してきたのは、時期的には80年代の中盤くらいからではないでしょうか。

『シップス』で例を挙げるなら、『コーギー』と組んでリリースしたニットが代表的です。これには前段があります。79年に“SHPS”のロゴが入ったオリジナルスウェットをリリースしていて、80〜81年にかけて爆発的に売れていました。その資産を活かすという発想のもと、私たちならではのインポートアイテムを提案しようと考えたのです。つまり、発想の時代順としては“インポートアイテムをそのまま提案する時代”から“サイズスペック”を別注する時代〟と続いて、次に訪れたのが“他では手に入らないコラボレーションアイテムで差異を表現する時代”です。

コラボレーションアイテムが生まれるようになったことで、ファッションの愉しみ方の幅が拡がり、奥行きが深くなったともいえるでしょう。セレクトショップは、そうした役割を果たしてきたと自負しています」。

確かに、時を経てセレクトショップの役割は深化を遂げたといえるだろう。想いが深くなっていったというべきか。自分たちがセレクトするブランドに対して、自分たちならではの熱い想いをぶつけるようになっていったのだ。その共演の舞台としてコラボレーションという枠組みが使われるようになっていった。

「私たちがセレクトしているブランドには、それぞれに歴史や生産背景、受け継がれてきた誇りや想いがあります。そうした想いに敬意を払いながら、私たちは私たちの想いをコラボレーションアイテムに注いでいくようになりました。そのようにして想いと想いが他では見られない特別な交わりを遂げているところに、コラボレーションアイテムならではの尽きない魅力があるのではないでしょうか」。

歴史ある英国製ニットとシップスの人気アイテムが見事に融合したように、コラボレーションアイテムにおいては通常ではありえないような革新性がもたらされる。この未知との遭遇がコラボレーションの真髄なのである。

【1970~80年代コラボ】コーギー × シップス

1893年に英国サウス・ウェールズで創業した歴史あるニットメーカー『コーギー』とのコラボが、シップスが手がけてきたコラボの最初期作だ。シップス50周年を迎えた今年、このアイテムは復刻を遂げている。

(出典/2nd 2025年11月号 Vol.214」)

この記事を書いた人
2nd 編集部
この記事を書いた人

2nd 編集部

休日服を楽しむためのマガジン

もっと休日服を楽しみたい! そんなコンセプトをもとに身近でリアルなオトナのファッションを提案しています。トラッド、アイビー、アメカジ、ミリタリー、古着にアウトドア、カジュアルスタイルの楽しみ方をウンチクたっぷりにお届けします。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

生きたレザーの表情を活かす。これまでになかった唯一無二の革ジャン、「ストラム」の流儀。

  • 2025.10.30

生きたレザーの質感にフォーカスし、“バーニングダイ”をはじめとする唯一無二のレザースタイルを提案するストラム。我流を貫き、その意思を思うがままにかき鳴らすことで、オリジナリティを磨き上げる孤高のレザーブランドだ。デザイナー桑原和生がレザーで表現するストラムのモノ作りの哲学、彼が革ジャンを通して描き出...

革ジャンの新機軸がここに。アメリカンでありながら細身でスタイリッシュな「FountainHead Leather」

  • 2025.10.31

群雄割拠の革ジャン業界において、カルト的な人気を誇り、独自のスタイルを貫くファウンテンヘッドレザー。アメリカンヘリテージをベースとしながらも、細身でスタイリッシュ、現代的な佇まいを見せる彼らのレザージャケットは、どこのカテゴリーにも属さない、まさに“唯我独尊”の存在感を放っている。 XI|シンプルな...

宮城県大崎市の名セレクトショップ「ウルフパック」が選ぶ「FINE CREEK」の銘品革ジャン4選。

  • 2025.10.31

宮城県大崎市に、ファインクリークを愛してやまない男がいる。男の名は齊藤勝良。東北にその名を轟かす名セレクトショップ、ウルフパックのオーナーだ。ファインクリーク愛が高じて、ショップの2階をレザー専用フロアにしてしまったほど。齊藤さんが愛する、ファインクリークの銘品を見ていくことにしよう。 FINE C...

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

革ジャン職人が手掛ける、経年変化するレザーハット気にならない?

  • 2025.10.31

気鋭のレザーブランド「KLOOTCH」のレザーハットラインとしてスタートした「Brunel & Co.」独学のレザージャケット作りで磨いた革の感覚を、“帽子”という舞台で表現する──。自らの手仕事で理想の革を探求する職人が辿り着いた、新たなレザークラフトの到達点。 革ジャン職人の手が導く、生...

Pick Up おすすめ記事

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

「BILTBUCK」の2025年は新素材によって既存モデルを再解釈した革ジャンに注目だ!

  • 2025.11.03

伝統と革新を往来しながら、レザーの魅力を追求するビルトバック。2025年のコレクションは、オリジナルレシピで仕立てた渾身の新素材によって既存モデルを再解釈。質感と経年変化、レザーの本質的な美学を磨き上げ、洒脱な大人たち〈Hep Cats & High Rollers〉へ贈る、進化であり深化の...

進化したSchottの定番、冬のレザースタイルはこれで決まり!

  • 2025.10.30

アメリカンライダースの象徴であるSchottが、原点回帰とも言える姿勢で“本気”を見せた。伝統のディテールに、現代的な技術と素材を融合。武骨でありながらも軽快、クラシカルでありながらも新しい。進化したSchottの定番が、冬のレザースタイルを再定義する。 668US SPECIAL HORSEHID...

渋谷、銀座に続き、ブーツの聖地「スタンプタウン」が東北初の仙台にオープン!

  • 2025.10.30

時代を超えて銘品として愛されてきた堅牢なアメリカンワークブーツが一堂に会するブーツ専門店、スタンプタウンが宮城県仙台市に2025年9月20日オープン! 東北初となる仙台店は北のワークブーツ好きたちにとって待望の出店となった。 珠玉の銘品たちがココに揃う。 ブーツファンが待ち焦がれた東北エリア初となる...

生きたレザーの表情を活かす。これまでになかった唯一無二の革ジャン、「ストラム」の流儀。

  • 2025.10.30

生きたレザーの質感にフォーカスし、“バーニングダイ”をはじめとする唯一無二のレザースタイルを提案するストラム。我流を貫き、その意思を思うがままにかき鳴らすことで、オリジナリティを磨き上げる孤高のレザーブランドだ。デザイナー桑原和生がレザーで表現するストラムのモノ作りの哲学、彼が革ジャンを通して描き出...