そうですね。木の年輪を見ながら作っていきます。この年輪がいいから使おうとか。でも、それでもやっぱり板によって木目の出方が全然違って、面白いけど大変でした。燃やして削ってから初めて、木目が出るかどうかわかるんです。なので、まず版全部に下絵を書いて、残したい木目にガスバーナーを当てて、その部分を削るんですけど、その時にまったく木目の出ない版もあって。でもそれはそれでいいかなって。自分の意思が介入しない自然のものに、気付かされることもあります。
──今後の展望を教えてください。
6月からオランダに滞在します。ストリートアート的に、街に作品を置いていくようなこともしてみたいです。透明のシートに刷った作品は、都市の背景と混ざり合いながら存在できるので、生活の中にそっと入り込むような表現を模索していきたいです。作品を展示するだけじゃなく、日常の中に「置く」という形にも、もっと挑戦していきたいですね。
MIYOU|母のポートレートと対になっている、制作時の作者と自身を産んだ母の年齢を重ね合わせたリトグラフ作品


背中/手/足|2022年に制作された、祖父をモデルにした木版作品。老いを恐れず学ぶことを続け、いくつになってもそれを成長と呼び、皺さえも美しく見えたという晩年の祖父。その身体に刻まれ日々増えていく皺を、木の年輪と重ね合わせて木版で表現した。版画でインスタレーションを作りたいと考えていたという大岩さんは、この作品以降ブルーシートや透明シートに刷っている。それらは隠されているものを可視化し、社会で見えないことにされているものから目を逸らさせないことを表している
刻をまとう、或る日 |「オープンレター」(上北沢)で今年4月に開催された個展「刻をまとう、或る日」。一軒家を改装したこのギャラリーでの展示が念願だったという大岩さん。家をテーマに、祖母が胎児のように丸くなっている姿を、横6メートルの木版画で表現した
すくう手|水をすくう祖母の手をモデルにした作品。2枚の透明シートを重ねている。背景は青で木目を刷り、流れる水と手に浮かぶ血管を表現。天気の良い日には屋外に展示するなど、日によって見せ方を変えたそう
(出典/「2nd 2025年7月号 Vol.213」)
Photo/Yoshika Amino Text/Risako Hayashi