サヴィル・ロウかクラシコイタリアか
ドレス服、ひいてはメンズ服の原点は、英国にある。なかでも老舗テーラーががひしめきあう英国の「サヴィル・ロウ」通りは、スーツを着る喜びを世に知らしめた聖地である。世界的な人気がありながら、いまだ実直に英国の軍服を誂えているテーラーが存在するという背景もあって、「実用服」としての趣を保ち続けている点が特徴だ。
一方イタリアでは、90年代後半から「クラシコイタリア」という英国のクラシックを再定義したスタイルが世界中で爆発的な人気を獲得。これには、サヴィル・ロウで修行したイタリア人たちがその技術やノウハウを自国に持ち帰って、現代的に発展させたという背景がある。
英国とは相反して、肩のパッドを抜き、シルエットにもゆとりを持たせたリラックス感の高いスタイルで、より“ファッション的である”とも言える。ドレススタイルを大別するなら、英国かイタリアのどちらかだろう。あとは好みだが、トラディショナルを求めるならば、間違いなく英国。実用服としての趣を尊重して、まずは正しいフィッティングを知るところから始めよう。
1.国ごとの違いを知る
右が英国式の構築的なジャケットで、左がイタリア式のリラックス感のあるジャケット。ふたつの違いは、特にショルダーに表れており、英国は「ビルドアップ」で、イタリアは「ナチュラルショルダー」だ。
2.まずは正しいフィッティングを知る
トラディショナルを重んじるなら、フィッティングは必修科目。あえてゆったりとしたシルエットで遊び心を加えるにしても、基礎を知っておいて損はない。
寸法の名称
まずは基礎中の基礎、寸法の正しい名称と測り方を知るべし。「股上が深い」とは、どこがどういう状態になっているのか。それを知らずに正しいフィッティングを見つけることは難しい。さらに言えば、「股上が深い」ことによってどんな印象になるのか。そこまで分かることが理想。
ショルダーライン
上腕のもっとも外側にメジャーなど直線状のものを当てがい、上へ向かって垂直に伸ばしたときに、メジャーが無理なく服に沿うことが理想。その先に肩線があるとよい。写真下は肩幅が狭すぎるということだ。
袖丈
久保田さん流の正しい袖丈を知る方法を解説。下に向かって腕を落とし、袖口から11.5cm下の位置に、親指の先端がくるジャケットが理想的。あとはシャツの出方の好みによって微調整するとよい。
着丈
ジャケットでお尻がすっぽり隠れるぐらいが正しいとされている。いまはトレンドの流れとして、着丈のラインがどんどん上がっているそう。基礎を知ったうえで流行を取り入れるかどうか選ぶべし。
パンツの丈
長らく、裾が靴に当たってパンツがたわむ(=クッションが入る)ほうがクラシックとされていた。しかし着丈と同じように、パンツの丈も写真のように短いほうがトレンドになりつつあるとのこと。
ジャケットを着た時のシワに注目
ジャケットを着た時のシワの入り方で、フィットしているかどうかを見分けることができる。
ここに入るシワは「たすきジワ」と言って、肩が前に出ている人に入りがち。
肩甲骨付近に入る「つきジワ」は、なで肩に起きやすく、これが入るということはジャケットがいかり肩っぽいということ。ちょうどシワが入っている部分の生地尺が足りていない。
こちらは反対で、いかり肩に入りやすい「つきジワ」。
3.一流の生地メーカーを知る
オーダーにしろ既製品にしろ、カジュアルの世界ではあまり耳にしないドレススタイル特有の生地メーカーがいくつか存在。英国の超有名どころを知っておこう。
1.Hレッサー&サンズ
1920年代創業と、英国においては比較的若めでありながら、既製品ではめったに出回らないビスポークならではの生地で、久保田さんをはじめ、ドレス好きたち憧れのメーカー。
2.ハリソンズ
1863年にサー・ジョージ・ハリソンによって創業された有名なメーカーで、ドレスに詳しくない人でも、名前くらいは聞いたことあるのでは。赤い生地見本で見た目にもキャッチー。
3.ポーター&ハーディング
1947年、カントリースポーツを愛するジョン・ポーターとビル・ハーディングによって創設。ビジネス向きというよりも地厚な太い糸を使った、カジュアルな印象の生地を多く製作。
4.フォックスブラザーズ
ドレス好きでなくとも知っている名門中の名門で、いまや定番となったフランネル生地の生みの親。秋冬生地がこれまでの主流だったが、最近になって夏用の生地も展開しはじめている。
生地の質感にも国ごとに違いあり。写真左の英国製生地は質実剛健でマットな印象。右のイタリア製は光沢感が強い。色も英国は落ち着いているが、イタリアは派手なものが多い。
(出典/「2nd 2024年5月号 Vol.204」)
Photo/Satoshi Omura Text/Shuhei Takano
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