老舗ブランドのマフラーは、なぜこんなにも高いのか。

冬の防寒用としてだけではなく、カントリージェントルマンらしい風格を演出するアイテムでもあるマフラーやストール。かたや税込で5000円を切るものもあるなか、英国の老舗ブランド製だと7万円を超えるものもあり、どうやら価格とクオリティはピンキリのようだ。果たしてその違いはどこにあるのだろうか。1767年に創業し、ウールやカシミアに特化したテキスタイルを世界に輸出する〈ジョシュアエリス〉のCEOオリバー・プラッツ氏にその秘密を聞いた。

「柄出しの美しさこそが、ジョシュアエリスがもっとも得意とする技です」

マネジメントディレクターのオリバー・プラッツ氏。ロンドンにある老舗マフラーメーカーに、セールスマネージャーとして6年間在籍したのち、ヨークシャーにて〈ジョシュアエリス〉のディレクターに就任。2023年で7年目を迎える。

――まず、ジョシュアエリスはどんなブランドか教えてください。

1767年にイギリスのヨークシャーで創業した、英国最古の歴史を持つテキスタイル(繊維)メーカーです。イタリアやスコットランドに比べると小さなビジネスではありますが、歴史の深さとクオリティの高さでは世界トップクラスと言えるでしょう。数多くのビッグメゾンに生地を提供してきました。6〜7年前に、これまでのノウハウを活かし〈ジョシュアエリス〉ブランドとしてのスカーフコレクションを正式にスタートさせました。

――ずばり、ジョシュアエリスのマフラーは、なぜここまで高価なのですか? ほかのブランドとは違う特別な点があるのですか?

まず大前提として、先ほど言ったように〈ジョシュアエリス〉はテキスタイルメーカーです。もともとコートなど衣服の生地を作っていて、その延長線上としてマフラーを作り始めているのでマフラーの専業ブランドではありません。そんななか、世のマフラー需要が増えたことにより、マフラー専業ブランドが登場しはじめました。マフラー専業ブランドは、より多くの人に買ってもらうために「できるだけ軽く、柔らかくしてほしい」という顧客からの要望に応えようとします。

ここでちょっと専門的な「作り」の話になるのですが、マフラーにおいて柔らかさのカギを握るのは起毛感です。マフラーをはじめとして全ての織物は経糸(たていと)と緯糸(よこいと)から成っていますが、起毛しやすいのは緯糸で、マフラーにおいても起毛している糸の70%は緯糸なんです。だからこそ、「柔らかくしてほしい」という要望に応えるために、多くのメーカーはいかに緯糸に気を遣うかを考えます。さらに、「軽くしてほしい」という要望に応えようとすると、糸の織り具合を緩くしていくほかありません。しかし、そうすることによって、生地が伸びやすくなり、柄がブレてしまうのです。場合によっては、チェック柄なのにボーダー柄に見えてしまうことも……。特にチェック柄を得意とする我々にとって、それは御法度。ファッションとしての服地を作り続けているからこそ、見栄えに関するノウハウを我々は心得ていますし、代々守り続けてきたレシピもあります。我々は起毛させた時の柄の見え方まで考えて、起毛前の縮絨(しゅくじゅう)、つまり生地を縮める工程を行っているんです。

――なるほど。柔らかさや軽さを重視すると緯糸だけに気を配りがちだけど、柄のことを考えるなら、経糸にも気を使わないといけないんですね。

軽量化を否定しているわけではなく、それがなぜ重いのか、そのベースをしっかり分かっていないと軽量化したところで意味がないのです。きちんとしたベースがあってこその、軽量化ですから。〈ジョシュアエリス〉が特別な理由は、ほかにも様々な要因がありますが、他所と違ってずば抜けているのは、この「柄出しの美しさ」にあると思っています。実は僕は〈ジョシュアエリス〉に勤める前、有名なマフラーブランドに6年間いたのですが、そこでは「マフラーを軽くするなら、柄をある程度犠牲にしなくてはいけない」と思っていたんです。それが、〈ジョシュアエリス〉のマフラーを見て驚きました。こんなにも美しく柄を仕上げられるんだって。

――ウールやカシミアなどの素材が優れているのだとばかり思っていましたが、そんな裏の努力があったんですね。

そうは言っても、マフラーの仕上がりにおいて、ヤーン(糸)やフィニッシング(仕上げ)のクオリティも、先ほど説明した縮絨や起毛の話と同等かそれ以上に重要なことですし、もちろん我々も最古のテキスタイルメーカーとして気を配っているところです。最後になりますが、〈ジョシュアエリス〉は長い歴史に裏付けられた、しっかりとしたベースがあるからこそ、それらを崩さないこと、そして我々の魅力を分かっていただける方々に、地道にそのブランドの礎となるコンテンツを発信し続けることが重要だと思っています。コロナ以前は、なんとなく一生懸命やっていれば乗り越えられた時代でしたが、コロナ後は「どういうものづくりをしているか」以上に、「どういう考え方のもとでものづくりをしているか」を問われているように思います。基礎を崩さない範疇で、どれだけ幅を利かせられるか。それがこれからの課題ですね。

ジョシュアエリスの「特別な」マフラー3選

カシミヤストール チェック(グリーン)

ブラックウォッチを彷彿とさせるグリーン、チョコレートブラウンの配色にブラックを取り入れることで、ややモードな印象も受けるカシミア100%製ストール。シックなエレガンスの演出に最適。35×190cm。4万2900円

カシミヤストール ツイードチェック

あえて起毛を施さないことで柄を緻密に表現した、〈ジョシュアエリス〉らしいデザイン製に優れるVCシリーズ。使い始めは「ざらり」とした質感だが、使いこむうちに肌馴染みよく、柔らかくなっていくことから「育てる」感覚も味わえる。マニアックなマフラー好きからの評価が特に高い。30×180cm。4万2900円

カシミヤストール ヴァリアスチェック

同じくVCシリーズより、ベーシックなスタイリングに華やかさをプラスしてくれる一枚。ともすれば子供っぽく見えてしまう細かなタータン柄だが、ベースカラーをサファイアブルーとアクアという2色の組み合わせで作ることにより、単色よりも立体的で高級感が生まれる。デザイン性を重視する〈ジョシュアエリス〉ならではのこだわり。50×190cm。6万8200円

【DATA】
グリニッジ ショールーム
TEL03-57741662
https://showtell-online.com/collections/joshuaellis

この記事を書いた人
パピー高野
この記事を書いた人

パピー高野

断然革靴派

長崎県出身、シティーボーイに憧れ上京。編集部に入ってから服好き精神に火がつき、たまの散財が生きがいに。いろんなスタイルに挑戦したい雑食タイプで、ヨーロッパからアメリカものまで幅広く好む。家の近所にある大盛カレーショップの名を、あだ名として拝借。
SHARE:

関連する記事

Pick Up おすすめ記事

日本の技で蘇る、旧きよきアメリカンベーシック。100年前の起毛機を使った「DISCUS」のスウェット

  • 2026.09.18

「ディスカス アスレチック」の「MADE IN JAPAN」プロジェクト。和歌山で受け継がれる約100年前の起毛機とそれを支える職人の技。そのこだわりから生み出されるスウェットの魅力を追った。 スウェットの裏側に宿る百年起毛 1973年、アメリカで誕生した「ディスカスアスレチック」。その歴史を日本の...

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

Why Banana Republic? 2nd編集部イチ押し「バナナ・リパブリック」アイテムと、ブランドの魅力を徹底解説

  • 2026.09.16

1978年にアメリカ・カリフォルニア州で創業したバナナ・リパブリック。クラシックとモダンが共存する唯一無二のスタイルや歴史を紐解くことで、我々が彼らのプロダクトを手に取るべき“理由”が見えてくる。(記事をご覧いただいた方への特典を最後に紹介しています) [caption id="attachment...

無垢の金属、輝く伝統。純金や純プラチナを使った「市松」の究極の逸品

  • 2026.09.25

純金や純プラチナなど、純度100%の軟らかい金属をアクセサリーにするためには非常に高い技術が必要だ。それを可能にするのが「市松」。約30年にわたって培った“叩く”技術が可能にする唯一無二のリングの輝きに迫る。 熟練の技なくしては完成しない究極の逸品 原材料高騰の影響もあって、希少性が高まっている純金...

究極のクラシックを背負う。英国発バッグブランド「Billingham」のカメラバッグ『System-1』

  • 2026.09.24

英国生まれのバッグブランド「ビリンガム」。そして同ブランドを代表するモデル[システム-1]。"用の美"を極めたその実用性とルックスは昔も今も、服好きの心を捉えて離さない。 “機能美”を極めたクラシックバッグの筆頭 創業は1973年。写真を撮るのが大好きだったという創業者のために妻がカメラバッグを手作...

Pick Up おすすめ記事

毎日に、最良の定番。B.V.D.の「GOLD」は昔ながらの良さと、いま欲しいバランスを兼ね備えたTシャツ

  • 2026.09.16

長く愛されてきた定番には、変わらない理由がある。B.V.D.の「GOLD」もそのひとつ。肌着として培ってきた心地よさをそのままに、今の気分で一枚でも着られるリラックスフィットが加わった。昔ながらの良さと、いま欲しいバランス。その両方を備えた、新しい定番のかたちを見ていこう。 変わらない着心地にゆとり...

2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4人が集結! EDWINと考えるトラッド学

  • 2026.09.15

本誌でも何度も紹介してきたEDWINのコンセプトショップ限定アイテムは、普遍的なデザインとそのクオリティの高さから2ndが理想とするトラッドスタイルともばっちりハマる。今回は初の試みとして、2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4名で“EDWINで作るトラッド”を考えてみた。 20代らしくアクティ...

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

トラッドの相棒にドゥニームのジーンズを! ウエアハウスが1988年のクラボウデニムを再現

  • 2026.09.17

1980〜90年代に日本のセルビッジジーンズの先駆けとして一世を風靡したデニムブランド「ドゥニーム」。同ブランドの創業当時のレシピをもとに、再始動を手掛けたのが「ウエアハウス」だ。彼らの徹底的な研究・解析によって生み出された至極の1本は、まさにオーセンティックそのもの。そして、本当の意味での“良い色...

究極のクラシックを背負う。英国発バッグブランド「Billingham」のカメラバッグ『System-1』

  • 2026.09.24

英国生まれのバッグブランド「ビリンガム」。そして同ブランドを代表するモデル[システム-1]。"用の美"を極めたその実用性とルックスは昔も今も、服好きの心を捉えて離さない。 “機能美”を極めたクラシックバッグの筆頭 創業は1973年。写真を撮るのが大好きだったという創業者のために妻がカメラバッグを手作...