「町中華」。言葉の響きを聞くだけで、なんだか嬉しくなってしまう。店に入った瞬間、鼻から入って、脳を通って、耳から抜けていく、油の香り。厨房から聞こえる、ジュワッという最高の効果音。ああ……この気持ちを満たすために、訪れたい厳選店舗をピックアップ。今回は漫画の神様、手塚治虫氏が生涯愛した一品を供する「一番飯店」へ!
野菜、肉、魚介たっぷりの具材と旨み。手塚治虫の太鼓判もうなずける。
今年5月に70周年を迎えた一番飯店。ここでいただきたいのは、『特製上海焼きそば』。2代目店主の山本義家さんが、漫画家・手塚治虫さんの職場に出前を届けた際、頼まれた創作メニューだ。
「とても腰の低い人でね。『悪いんだけど……この焼きそばに、八宝菜をのっけてもらえないかな。鶏肉もいいな、それにイカ、エビ。 きのこも入れられる?』って言うもんだからさ、帰って親父に相談したんだよ」
先代は、歴代の首相に料理を振る舞っていた料理人。山本さんが要望を伝えると、迷いなく、パパっと仕上げた。しかし、これは手塚プロ専門メニューという位置付けで、店に並ぶことはなかった。でも焼きそばの歴史は終わらない。
手塚さんが亡くなった後、手塚プロからあの焼きそばのリクエストが届く。そんなに愛されているのなら、と、店舗メニューとして復活。いわば、手塚プロ公認のひと皿なのだ。
「みんな、これを目当てに来てくれるから、作る側も気合いが入っていますよ」
実は『特製上海焼きそば』、準備も手間もかかる。まず中華鍋をふたつ熱す。そして茹でた麺を炒めてお皿に盛り、その後、エビを揚げてあんかけを麺に盛る。再度、熱していた3つめの鍋で野菜を揚げて再びあんを作って盛る。この工程、2人体制でないと作ることができないのだ。
ちなみに写真ではなかなか伝わりにくいが。かなりの大皿で提供される『特製上海焼きそば』は、総重量650グラム。しいたけ、鶏肉、小エビ、エビ、チンゲン菜、きくらげなど全9種類の具材のありとあらゆる旨味が凝縮されている。あんかけをつまみに飲みながら、最後に麺と一緒に食すのが通の食べ方らしい。
【DATA】
一番飯店
東京都新宿区高田馬場4丁目28-18
TEL03-3368-7215
営業/11:00~15:30(L.O.15:00)、17:00~22:30(L.O.22:00)
休み/水曜
(出典:「2nd 2022年9月号 vol.186」)
Photo/Shinpei Fukazawa, Katsumi Murata Text/Yasushi Ogura Edit/Hisano Kobayashi
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