AIグラスの波がやってきた──「実用段階」突入の気配
蓄積された技術が実用的なレベルになると、一気に各社から製品が登場し、その中でもっともコンセプト的に正しく、実際に価値を実現したデバイスが普及していく。現在AIグラスはそういうステップにあると言える。
日常的にスマホで行っている行為のうち、通知の確認や、音声で事足りる作業は、グラス型デバイスで可能になるだろう。もちろん、眼鏡をかけて話している様子は奇妙ではあるが、携帯登場時には「道を歩きながら話している人がいる!」と驚いたものだ。慣れるに違いない。
Ray-Ban Metaや、Even G1を使っていてこのあたりの便利さは体験しているのだが、それはカラーディスプレイがあればそれに越したことはない。カラーディスプレイを備えたMeta Ray-Ban Displayはどういう使用感なのか?
Ray-Ban Metaとの違いは? カラーディスプレイ追加のメリット
装着すると、ご覧のようにいくつかのアイコンを備えたボタンが見える。現在用意されるのは、Messenger、Calls(通話)、Music、Camera、Maps(地図)、WhatsApp、Instagram、Photos、Captions(文字起こし)など。
写真では色が貧弱で周囲がボケて見えるがそれは撮影の都合上。実際には画面全体がクッキリ見えるし、色合いももっときれいだ。小さいディスプレイが、正面少し右下に見える。ちょうど、人物を正面に見たら、向かって右側の胸元あたりに見える感じ。下の写真のイメージよりディスプレイはもっと小さい。メインカットのイメージの方がサイズ的には近い感じだ。
Meta社のプロモーションビデオを見る限りでは、もっと右の外側に表示されるのかと思っていたが、意外と正面に近い。おそらく、右に表示すると、人と対している時に視線が外れ過ぎるなどの問題があったのだろう。このあたり悩ましいところだと思う。

操作は右手に装着するMeta Neural Bandで行う。これは手首に装着していると表面の筋電を読み取って動作する仕組み。だから、手を大きく持ち上げる必要はない。
いわゆるアイコンのクリックに相当するのが、人差し指と親指でのピンチ。『閉じる、戻る』に相当するのが中指と親指でのピンチ。
スクロールというか、選択ポイントを上下左右にずらすのは、人差し指と親指をクロスさせてスライドする動作。つまり親指で人差し指を撫でるようにすると横スクロール、人差し指で親指を撫でるようにすると縦スクロールになる。これは面白い発想で、最初は戸惑うがすぐに慣れる。

通知・撮影・ファインダー表示……“日常”に入り込んでくる感覚
メニュー操作ぐらいはすぐに慣れるし、通知を開いてメッセージを読むためにスマホを開かなくてもいいのは便利そうだ。カメラ機能を使う際に、従来のMeta Ray-Banと違って、撮影中の画像が表示されるのも便利。前モデルはいわばノーファインダーで撮っていたわけで、これは大きな進化だといえるだろう。

地図もかなり便利。Even G1の地図は解像度も荒く単色だったので、実用上は難点があったが、カラーで(写真では見づらいが、青、グリーン、水色など表示の違いがちゃんと見極められる)見えるので、分かりやすい。
地図には一部日本語表記もあったので、日本語フォントも入っているようだ。地図データはOpenStreetMapのもので、ナビゲーション機能はまだベータ段階で一部の都市でしか利用できない模様。つまり、日本ではあまり実用的ではないが、技術的には興味深い。
地図の拡大縮小や、ボリュームの増減は、つまんだ指を回して操作する。

片目表示という制約に感じる、黎明期デバイスの設計思想
この製品を語る時に、ディスプレイが片目表示であるという点は欠かせないポイントだろう。
両目に表示されるEven G1の場合、ディスプレイは空間に浮かんでいるように見えるが、片目に表示されるという状態では、そうはならない。奥行き不明の状態で、右目の視界にかぶってくる感じだ。
それで十分読み取ることはできるが、快適ではない。やはり、将来的には両目に表示されるべきものなのではないだろうか? Even G1は単色でも両目表示、Meta Ray-Ban Displayはカラーだが片目表示と、方針が分かれているところが黎明期のデバイスの興味深い点だ。

本当に“使える”段階に来た──でも、日本ではAIが使えない
まとめると、現状でもアーリーアダプターが使うには十分に実用的な完成度だったし、いよいよグラス型デバイスの普及が秒読み段階になったのではないかと思う。
ただし、現状、前モデルと同様、日本ではAI機能が使えないのが残念なポイント。視界を撮影して、AIに読み込ませるというのはいろいろな問題も発生しそうだが、やはりMeta Ray-Banのキモはそこにあるはず。内蔵されたスピーカーとマイクを使って、日常的にAIを駆使し、必要に応じて視界さえも共有して「これは何?」とか、「表組みの小計欄を合計して」などと言えるようになると、AIが本当にアシスタントとして、日常に溶け込んでいくことなると思う。
ただ、その機能をMeta社が握るとなると、個人情報的な懸念は大きいし、アップルが「プライバシーを保護してオンデバイスで行う」というと、そちらを好む人も多いかもしれない。これから数年、AIグラスの進化が非常に楽しみだ。
AIグラス時代の幕開けに寄り添うMESON
今回、ご協力いただいたMESON(メザン)は、『空間インテリジェンス技術』の社会実装を目指すスタートアップ。
MESON
https://www.meson.tokyo/
Vision Pro、Meta Ray-Ban Displayのように、空間を使ったコンピュータ操作に、AIが組み合わさってくることを早くから予見し、独自サービス、アプリを開発するとともに、東京ガス、伊藤忠商事、博報堂DYホールディングス、NTT Docomoなどの企業のARアプリ、サービスの開発に協力している。

代表の小林佑樹さんは、X上で『ARおじさん』としても知られており、2023年のWWDCで日本のデベロッパーとしては唯一Apple Vision Proを体験した人物。
今回も、本機を体験させていただいただけでなく、今後の展望について、いろいろ示唆に満ちた話を聞かせてもらった。
空間インテリジェンス技術を自社のサービスの中に取り入れたいと考えている企業の方は、まずはMESONにご相談を。

(村上タクタ)
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