普通の画集のつもりが40周年記念の総決算的な大ボリュームに

『超時空要塞マクロス』のテレビ放送が始まったのは1982年。そして、その劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が1984年に上映された。今年は『愛・おぼえていますか』の上映40周年にあたり、1月下旬には同作の4K ULTRA HDバージョンが全国40の映画館で上映され、現在は『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc)として販売中である。
約8年前、美樹本晴彦の『マクロス』イラスト集の制作が始まり、紆余曲折を経て図らずも『愛・おぼえていますか』の40周年のタイミングで『美樹本晴彦画集「MACROSS」』として発売された。本書は『超時空要塞マクロス』『同 愛・おぼえていますか』『マクロスII』『マクロス7』他、現在へと至る膨大な「マクロス」シリーズのイラストから厳選した350点以上を収録、288ページという“ザ・美樹本晴彦のマクロスの全仕事”の一冊である。
その発売を記念して、4月4日〜9日に東京・原宿の「BABY THE COFFEE BREW CLUB」にて「美樹本晴彦画集『MACROSS』展〜叙唱〜」が開催。6日には美樹本によるスペシャルトークショーが実施された。大激戦の抽選を勝ち得た50名の熱すぎる視線が注がれるなか、美樹本は記憶を探りながら、自身のキャリアについて和やかに語った。

約6年ぶりの画集が発行に至る経緯や美樹本が作品に込めた気持ち
美樹本 もともとはこんなボリューミーな画集になる予定ではなかったんです。当時『マクロス』のコミカライズ(※1)を角川(現・KADOKAWA)さんでやらせていただいていて、いろいろ事情があって連載を他社に移籍しなければいけないということになりまして。当時、すでに画集の企画が持ち上がっていて、版元のビックウエストさんとも相談して画集ごと移籍するというのもなんなので、画集はKADOKAWAさんでやっていただこうということで開始したんです。
ただ、古い画稿は残ってないんですよ。たとえばアニメ雑誌に原稿をお渡しして保管していただいていても、雑誌がなくなると編集部の荷物は返却されずに倉庫にまとめて送られたりすることが多くて。そういったものは捜索することすらできないものもありまして。また、スタジオに置いておいたものがいつの間にか紛失したり、僕の手元にあったはずなのになくなっていたりとか。見つからないものをどうしようかっていうところから話が始まって。以前でしたら、なくなった原稿は諦めるか、他の印刷物から複写する。ただし複写にしても印刷されているものには網点があってあまりいい状態では印刷できなかったんです。できても印刷物と等倍程度までと。ところが、今は印刷技術も進んで印刷物で質のいいデータを作ることが可能になりました。知人にご紹介いただいた印刷業者さんに意見をお聞きしたり、今回制作をお願いした会社の現場の方と相談し、印刷物からの複写でも使用に耐える大きめのデータ作成が可能ではないかという相談に結構時間がかかりましたね。
さらに、初期は二人の編集者が担当してくださっていたのですが、お二人共体調を崩してしまって…。そこで「この先どうする?」みたいに一旦止まった期間がしばらくありました。その時にKADOKAWAさんの井上伸一郎さん(※2)の口添えで最終的に画集を作ることになる方々をそろえていただいて、仕切り直しになったんです。それが3年前かな。そのメンツで絵を集めて、整理して。その段階で業界では有名な非常に腕のいいデザイナーさんが入ってくださって、いろいろとお手伝いやアドバイスもいただきました。その頃はだいたい130ページから200ページちょっと手前ぐらいでなんとかって言われていたんですが、いろいろな事情(※3)もあって、ボリュームが増えてもいいからあるものはなるべく入れる形でやってみたらという話をいただくようになって。それで「しめたものだ!」と集め出したら、結構厚みができちゃってね(笑)。
イラストの整理は編集担当さんが2人いらしたんですけど、画稿の整理に関してはほぼ一人でやってくださいました。もともと手描きの原稿があって、会社によってポジフィルムで保管していたり、データで持っていたり、そこにプラスして印刷場で印刷物からスキャンして再生しなければいけないものがあったりと何パターンの原稿がまずあって。そのうえで、僕が加筆・修正をする・しないというのがあって。全部まとめて「これは直したものです」と渡せればいいんですけど、五月雨式に次々送るわけですよ。そうしますと編集担当さんも混乱しましてね。修正したものと差し変えているはずなのに変わってないとか途中に細かいトラブルもあったんですが、最終的には大した事故もなくまとめてくださいました。他の仕事も抱えていらしたので、大変だったと思います。その結果、ちょっと厚ぼったい、振り回したら人を殺せちゃうような本になったのですけれども(笑)。
最後の一苦労というのは、カバーの絵は、実は今年のお正月に描かなければという状況だったんですが、インフルエンザにかかり、それをきっかけに体調とかいろいろ崩しまして、1月半ばぐらいほとんどダメで作業が遅れてしまって。発売予定日が3月前半から3月末にずれたのは、僕が体調を崩して遅れたせいです。自分的にはね、40年前の絵が載るっていうのは拷問と言いますかね(笑)。レイアウトとデザインを確認する時も「デザインはともかく、絵がひどいよな」みたいな感じで、ちょっとつらい部分もあるんですけれども。でも、その時の勢いっていうのもありますしね。今同じものを描けと言われても、描けるものではありませんので。それがいい形の本に残ってくれるのはありがたいなと。
※1…『超時空要塞マクロス THE FIRST』。2009年より『マクロスエース』(角川書店、現・KADOKAWA)にて連載開始。その後、『サイコミ』(Cygames運営)に移籍。
※2…雑誌・マンガ編集者およびアニメ・実写映画のプロデューサーを歴任し、2007年に角川書店代表取締役社長、2019年にKADOKAWA代表取締役副社長に就任。現在は合同会社ENJYU代表社員。
※3…企画が上がった時点では、マクロスの何周年とかっていうのはなかったんです。延びているうちに40周年が引っかかってきた。ここまで手間暇がかかったら全部まとめた。幸い版権元のビックウエストさんも「これを機会になるべく全部まとめるぐらいの気持ちでやった方がいいんじゃないか」っていう話をしてくださって。KADOKAWAさんも了解してくださって、途中から路線が変わっているんですよ。(同日のトークイベントより)
