『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』著者が語るホントの90年代と平成という時代|長井英治インタビュー

  • 2025.03.25  2025.03.24

今年は令和7年、昭和の思い出は益々我々の記憶の彼方になりつつあるなか、最近は昭和レトロブームに続いて、平成も再評価の対象となっているという。平成元年からすでに35年ということで、それなりに熟成されてきたということだろう。失われた30年といわれる平成ではあるが、様々なムーブメントやトレンドが生まれては消えていった。それを象徴するもののひとつが8㎝CDである。コンパクトなサイズ感、カラオケ人気などを背景に90年代の音楽産業に大きく貢献したメディアこそ、当時の空気が最も詰め込まれたアイテムといえるだろう。今では完全になくなってしまったが、当時を知らない若者たちに受け、8㎝CDのみのDJイベントが行われていたり、復刻8㎝CDがリリースされるなど再評価が進み、先日は『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』なる書籍がDU BOOKSより刊行された。その著者、長井英治さんに本書の狙い、8㎝CDの魅力を聞いた。

長井英治監修『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』(DU BOOKS)

8cmCDは捨てやすいサイズ

――最初からなんだけど、付き合いが長すぎて、2人で会うとなんか気恥ずかしいよね。なんかベテランの漫才コンビみたいな感じかもね(笑)。しかもインタビューとなるとさらに変な気持ち。

長井:楽屋は別でお願いします、みたいなね(笑)。そうか、このインタビューはそのまま記事になるんだよね。

――そう。ほぼほぼノーカット。

長井:でもちゃんと質問を考えてきてくれたみたいで嬉しいな(笑)。

――では質問を始めます。長井にとって『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』は2冊目の著作になるけど、それについての率直な感想はどう?

長井:嬉しい。もう自分の本を出すことは二度とないと思っていたんだけど、2冊目を出すことができてホント嬉しい。まさか本になるとは思ってなかったから。この本を出せたので、もういつ死んでもいいみたいなところはある(笑)。

――8cmCD で本ができるとは思っていなかったということ?

長井:全然思ってなかった。去年、同じDU BOOKSから8cmCDのネタ本的なものが出たんだけど、それはマニア向けだったんです。ディスク百合おんという人が監修した『短冊CDディスクガイド 8cmCDマニアックス』っていう本。自分の企画が通ったときには、もうすでにその本の発売が決まっていたんだけど、それはヒット曲が全然紹介されていなかったんですね。だったらヒット曲を中心に構成したらいいかもと思って提案したら、すぐに企画が通った。こういうタイプのガイド本はまだ世の中に存在してないからって。

――誰もやってない企画というのは強いね。

長井:アーカイヴァー鈴木さんが『昭和50年男』で8cmCDの連載していたじゃない。8cmCD本は鈴木さんが出すんだろうなって勝手に思ってた。8cmCDはノベルティソグの宝庫だったという側面もあるので、鈴木さんがそういう本を書いた方がいいのかなと思っていたんだけど、世の中から求められているのはそういうことじゃなかったみたいで。フカミマドカさんに言われたんだけど、「8cmCD本って前例がないから、まず王道をやってからマニアックなものを出さないと」って。

――確かにね。そもそもどういうきっかけで8cmCDを集め始めたの?

長井:コロナのときに父親が死んで、断捨離を始めたのね。そのときにLPを全部売っちゃったわけ。そうしたら、また何か集めたくなって最初は紙ジャケを集めようと思ったんだけど高くて続かなかった。だったら8cmCD が手軽かもと思って始まったの。で、コロナで時間があったから、しょっちゅうハードオフに行って買いまくって、その期間に1500枚ぐらい買ったかな。

――集め始めたとき平均的な価格って。

長井:2010年代はハードオフで22円だったんだって。だけど、自分が集め始めたときは55円になっていて。それでもそんなに高くなかったからわりと手に入りやすいけど、最近はどんなに安くても290円ぐらいになっているかな。ディスクユニオンで100円盤というのもあるけど。全体的に市況が上がっちゃっている気がする。

――なるほど。再評価が高まっているんだね。

長井:途中から8cmCDのミリオンセラーを意識的に集めだして170枚ぐらい買ったの。それでスイッチが入って、オリコンの1位獲得曲を全部集めようと思って調べたら310曲ぐらいあって、それが思った以上に難関で。1位と言っても、枚数が売れているとは限らなくて……。

――1位っていうのはリリースタイミングもあるからね。90年代はミリオンでも1位取れない曲もあったよね。

長井:いっぱいあったよ。シャ乱Qの「シングルベッド」ってミリオンセラーだけど、最高位9位だから。ロングセラーだったというのもあるけど、そういう曲たくさんあるんだよ。それで自分が買った8cmCDを色分けしてSNSにアップしていたら、クスオクさんっていう人から「この色ついていない8cmCD、僕持ってますよ」っていう反応があって、40枚ぐらい送ってくれたの。その人、自分より15歳ぐらい年下なんだけど、「自分は4万枚持っている」って。加えてCDを6万枚も持ってるって。8cmと12cm合わせて10万枚。

――10万枚!

長井:それから仲良くなって、この本に載っている8cmCDは全部そのクスオクさんから借りたものなんだ。

――長井のコレクションじゃないんだ?

長井: 8cmCDは状態のいいものは本当に珍しいの。レンタル落ちも多いし、だいたい汚い(笑)。でもクスオクさんの8cmCDは状態よく保管されていて、クスオクさんのコレクションはすごく貴重なんだ。この本にジャケットがきれいに載せられたのはそのおかげ。

――状態のいい中古8cmCDって見ないかも。

長井:おもしろいのが『SLAM DUNK』の主題歌はだいたい汚い。なぜかというと、子ども聞いていたから。それで今はアニメのタイアップ曲の8cmCDはやたら高い値がついているんだ。まんだらけなんか行くと、1枚1万円以上する8cmCDがガラスに入っていたり。

――カラオケで使うとか、実用性もあったからかね。

長井:カラオケも大きかったよね。8cmCDで歌詞を覚えてカラオケで披露するということは、当時みんなやっていた。だから汚い。

――で、使わなくなった8cmCDは捨てられてしまうと

長井:引っ越しとか、結婚をしたりして環境が変わるときに最初に捨てられるのが8cmCD。レコードって捨てにくいじゃない。でも8cmCDは捨てやすいサイズなんだよね。

8㎝CDでわかる90年代の面白さ

「おどるポンポコリン」/ B.B.クィーンズ

――悲しい。文字通り消耗品だったんだね。8cmCDはあのサイズだからこそ捨てられるし、あのサイズだからこそあれだけ大きなマーケットなったんだろうね。

長井: CDショップで働いていたときのことなんだけど、レジ横に新譜の8cmCDを置いておくじゃない。そうすると、会計するときに一緒に買っていってくれるの。だから、スーパーのレジ横に置いてあるチューインガムみたいなだねって言ってた。本当にそういう感覚だったんだと思う。

――おれも1枚も残ってないな。残ってた8cmCDは全部長井にあげたよね。ところで、集め出した頃って8cmCD再評価の機運はあったの?

長井:2018年ぐらいに若い人たちが8cmCDだけのDJイベントをやっていて、それに遊びに行くようになって、こんなに8cmCDって若い人たちに支持されているんだと思ったのも、こういうことをやろうと思ったきっかけでもあるかな。

――若い人たちは8cmCDの時代を知らない世代なわけだ。

長井:それが新鮮だったみたい。

――こうやって見ると、8cmCDという長方形のフォーマットは異様だよね。その時代感を感じるよね。正方形に慣れていたから当時は違和感あったもん。

長井:この形でデザインしろという方が無理あるよね、本当はね。

――デザインしにくかっただろうな。デザイナーさんの苦労と凄さを感じるよ。

長井:信藤さんは偉大だよね

――そういう特異なフォーマットであることも8cmCDが注目される一因なのかもね。この本に並ぶ8cmCDを見ていると90年代オマージュというのを強く感じたんだけど、冒頭の1年ずつの検証がいいね。

長井:それは嬉しい。冒頭の検証文は全部自分で書いたんだけど、ここをまずやりたくて。90年から2000年までCDショップの店頭に立っていたので、8cmCDが当たり前だと思っていたから、当時はまったくありがたみを感じていなかったんだけど、そうじゃなかったのかもと思って。携帯からスマホに変わって、ガラケーっていう言葉が生まれたけど、8cmCD はガラパゴスCDなのかなって思ったり。

――もう30年も前のことなんだよね。世の中が全然違う。

長井:最近の世の中を見ていると、90年代ってまだいい時代だったんだなって思う。エンタメ業界も街も面白かったし。たとえばHMVの渋谷店で働いていたとき、ちょうどアムラーブームでセンター街に普通にコギャルがいたのね。でも片やオリーブ少女もいて、という感じでいろいろな人種が混在していて、それが当たり前だったときはとなんとも思わないっていうね。本の中で分析したり、こうやって話をしたりしていると、90年代の面白さがわかるけど、リアルタイムでは、なんてつまんないんだろうって思っていたよ。

――まあそういうものだよね。90年代はまだ日本は元気だったのかな。何事もそうだけど、ブーム時はバカにされて、時間が経ってから評価されるというのはあるよね。

長井:うん。売れ線は正当に評価されない傾向にあるんで、ちゃんと評価したいっていう気持ちがあった。去年、B’zが『紅白』に出たとき、SNSで「B’zダサい論争」が起きたのよ。それを見て、王道を真正面からやることが90年代だったんだろうなと改めて思ったの。

――『紅白』のB’zは普通に感動したけど。とくにファンではないのに。90年代の勢いを感じた。

長井;90年代の音楽はジャンルも幅広いしさ。なんだろう、業界自体が潤っていたから予算にも余裕があって、新人でもアルバム1枚作るのに1000万ぐらいかけられていた時代だった。先行投資もできたから才能のある人が音楽業界に寄ってくるっていうのはあったと思う。たとえば、小室哲哉が華原朋美のためにレコード会社作ってデビューさせたりしていたでしょ。今では考えられないよね。

――ORUMOKね。

長井:ヒット記念パーティーのお土産がMDプレイヤー。そういう豪華なパーティーやコンベンションもたくさんあって、音楽業界には夢があったよね。

――小室哲哉で思い出したけど、オリコンで1位から5位まで小室作品が独占という週があったんだ。オリコンの業界誌でその見出しを書いたことを覚えているよ。

長井:96年。あれはすごかったよ。90年代はエイベックスとビーイングがシーンを引っ張っていた印象だけど、どちらも最初はいちレーベルだったんだよね。そこからヒットを量産して独立して巨大になっていく様子をCDショップの店員として見ていたことになるんだ。

――90年代はこの2社を抜きには語れないとても大きい存在。とにかく売れていたからね。

長井:90年代のJ-POPって、「ポンポコリン」から始まって、2000年に倉木麻衣がミリオンを記録して終わるんだけど、そういう意味でいわゆる平成J-POP、90年代 J-POPの象徴はビーイングだったのかなっていう感じもして。

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