
工場作業員に重宝されたエンジニアブーツ
1918年にアメリカはオレゴン州にて創業したウエスコ。100年以上を誇り、「キング・オブ・ブーツ」との呼び声高いヘリテージブランドだ。日本におけるウエスコの舵取りを担う「ウエスコジャパン」のディレクター・河北さんは、「ウエスコの歴史=エンジニアブーツの歴史といっても過言ではないと思います。エンジニアブーツがアメカジの定番靴として定着しているのは、ウエスコの功績が大きいのではないかとも考えています」と明かす。そこで、実際にオレゴン州の工場にて腕利きの職人らとともに靴作りをしてきた経験も持つ彼に改めてエンジニアブーツの成り立ちやその魅力を語ってもらった。
「まずエンジニアブーツ特有のシューレースがなく、ストラップで固定するデザインについて。これは個人的な見解なのですが、馬乗りのためのブーツ、ホースライディングブーツが起源にあるのではないかと考えています。エンジニアブーツが登場したのは1920年代後半から30年代前半ごろという説がありますが、それはこの時期のアメリカの大手百貨店「シアーズ」のカタログにシューレースのないブーツが登場したことから有力とされています。
つまりエンジニアブーツ自体はアメリカ由来のもの。では、ホースライディングブーツはどうなのかといいますと、その歴史はさらに古く、アメリカ南北戦争が勃発した1860年代には既に履かれており、その起源はヨーロッパにあると言われています。これも私見ですが、エンジニアブーツのデザインは、ホースライディングブーツの延長線上にあるのではないかと推測します」
では、デザイン的な特徴に共通点のあるアメリカ生まれのエンジニアブーツとヨーロッパ生まれのホースライディングブーツの違いはどこにあるのか。河北さんは“ソール”にあるとの見解を示す。
「当時のホースライディングブーツはアウトソールがレザー製でしたが、エンジニアブーツはラバーソールを採用していました。エンジニアブーツに関しては、時代的に技術の進歩もあってラバーソールの製造が可能となっていたので、工場で働く技術者が、油などが付いた床で足を滑らせないといった、働くうえでの理にかなった機能を備えているのです」
では、どのようなエンジニアブーツが生まれ、労働者の間で重宝されるようになったのか。それはアメリカの工業化の歴史とも大きく関係している。
「ウエスコも創業当初は森林作業に従事する木こり(=ロガー)に向けたブーツをメインとして製造していました。木こりのような肉体労働の需要が大きかった時代背景に比例するように、ロガーブーツの需要も高まっていた時代だったと推測されます。ロガーブーツは、足全体を保護するためにハイトが高く設計され、しっかりと固定することができるようにシューレースが付いていますが、着脱がしにくいというデメリットもあります。その点、のちに登場したエンジニアブーツは、工業化が進んだアメリカにおいて、工場作業員のための靴として耐久性や堅牢度の高さは担保しつつ、シューレースではなくストラップ仕様になることで、着脱が容易になっています。時代のニーズに合わせて取り入れられたデザインだといえると思います」
洗練されたデザインと高い汎用性も魅力
ワークブーツとして誕生したエンジニアブーツもいまでは、ファッションアイテムとして定着。20年以上にわたってウエスコに携わり、多くのエンジニアブーツを見てきた河北さんにとってのエンジニアブーツの魅力とはなんなのか。そしてなぜ、アメカジ好きをこうも惹きつけるのか。その理由は、ワークブーツとして生まれたというそのルーツだけにとどまらず、時代の流行を経てエンジニアブーツの位置付けが変化していったことにあると河北さんは推測する。
「ワークウエアやミリタリーウエアのような“実用品”として生まれた、背景のあるモノに惹かれるというのは個人的にもすごくわかります。また、エンジニアブーツがバイク乗りに愛されたという点にも魅力を感じています。自分自身もバイクカルチャーが大好きなのですが、エンジニアブーツもワークブーツとして生まれてから、今日のようにファッションアイテムとして定着するまでの過程のなかでいくつかの分岐点がありました。そのひとつがバイクカルチャーとの結びつきです。ほかにも音楽カルチャーとの結びつきもあったりと、時代の流れのなかでそのプロダクトの立ち位置が変化していくというのも面白いポイントではないか
さらにエンジニアブーツの魅力として挙げられるのが、そのデザインだ。先述したように、シューレースがなくストラップでの調整が可能で着脱が容易であるという機能的なデザインであるが、その無駄のない洗練されたデザインこそがコーディネイトに取り入れるうえでも重宝されるポイントとなっている。ことボトムスとの組み合わせについていえば、シャフトが収まるほどの太ささえあれば、合わないパンツはないといっても過言ではないだろう。
「近年は若い世代や女性もエンジニアブーツを選ばれる傾向が強くなっているように感じます。それはやはり普遍的なデザインで、どのようなスタイルにもハマりやすいという点が理由だと思います。ジーンズはもちろん、ミリタリーパンツやスラックスにも合いますし、一足持っていれば幅広いコーディネイトに合わせられるので、個人的にもかなり重宝しています」
そして、より深きエンジニアブーツの魅力を体感できるのが、ウエスコが力を入れているカスタムメイドだ。自身の好みや普段の装いに合わせて、アッパーの革の種類や色を選ぶことができるほか、ストラップやアウトソールなどの各パーツを選んで自分好みにカスタムすることができる。
「旧くは1950年代からアメリカではエンジニアブーツをカスタマイズして楽しむというカルチャーがあったのですが、当時は黒や茶の馬革や牛革を使用するのが一般的でした。いまでは、ラフアウトであったり、革を染めて色を入れたものを使ったりと、ファッションアイテムとしてのカスタマイズをすることができます。2004年にウエスコジャパンがスタートしてからは、ファッション感度が高い日本の市場に合わせてよりカスタマイズの幅を広げる取り組みを行なってきました」
このようにエンジニアブーツは、ワークブーツとしての理にかなったデザインから多くのワーカーたちの支持を集め、時代を超えて愛されるマスターピースとなった。次に、ウエスコのこれまでの歴史とともに、時代の流れのなかでどのようにエンジニアブーツが発展を遂げてきたのかを解説する。
そもそもエンジニアブーツとは……

エンジニアブーツの登場は諸説あるものの、1920年代後半〜30年代前半ごろであるといわれている。造船所や工場で働く技術者(=エンジニア)のためのブーツであったためその名で呼ばれるように。
今更聞けない、エンジニアブーツの各部の名称をおさらい!


汎用性の高さもエンジニアブーツの魅力



元々は完全なるワークブーツであったエンジニアブーツもいまではファッションアイテムとして定着。主な装飾はストラップのみという無駄のないデザインのため、写真上からジーンズ、軍パン、スラックスと様々なパンツとうまくマッチする。アメカジ好きなら1足は所有しておきたい。
ウエスコの歴史とともに紐解くエンジニアブーツ。
「ウエスコの歴史=エンジニアブーツの歴史といっても過言ではない」。河北さんが口にしたこの言葉を元に、ウエスコというヘリテージブランドとエンジニアブーツの歴史をここに整理しておく。
1918年 ウエスコ創業

アメリカはオレゴン州・ポートランドにて創業したウエスコ。ヨーロッパ系の移民であった創業者のジョン・ヘンリー・シューメーカーは、10代の頃からブーツメイキングの修行を積み、1918年に独立する形でブランドを立ち上げた。当初は森林作業に従事する労働者のための作業靴、ロガーブーツをメインに製造。当時はアメリカ西海岸にロガーブーツを製造できる業者が少なかったこともあり、事業は右肩上がりに成長を遂げた。事業拡大のため、創業から10年余りの間に工場を4度移転するなど、順風満帆に見えたウエスコの歩みだが、1920年代後半に入ると、アメリカ全土の景気の影響を受けて大きな危機に直面することに。
1920年代後半~1930年代前半 世界恐慌→ニューディール政策
1929年に世界恐慌が起こり、多くの企業が倒産し、失業者が増加するなど深刻な不景気に陥った。ウエスコもこの世界的な不景気の影響を受け、1度廃業寸前に。しかし、33年にルーズベルト大統領が打ち出したニューディール政策により、公共事業の増加に伴ってワークブーツの需要が増加。ウエスコは再び息を吹き返し、1935年に現在の拠点でもあるオレゴン州スキャプースに工場を移転した。
1939年 エンジニアブーツ[THE BOSS]が登場
世界恐慌による廃業寸前の危機から息を吹き返したウエスコが1939年に発表したモデル[ザ ボス]。それまではロガーブーツの製造をメインとしていたが、シューレースがなく脱ぎ履きが容易で、かつストラップでフィッティングを固定できる、今日におけるエンジニアブーツと同じ型の1足をリリースした。工業化が進むなか、蒸気機関を扱う工場や造船所など、機械作業用の安全靴として重宝され、ウエスコの作るブーツの需要が再び高まることに。ウエスコの歴史を語るうえでも外すことのできないモデルが初声をあげたのであった。
1940年代 第二次世界大戦、バイクカルチャーとの邂逅
1930年代に勃発し、41年にアメリカも参戦した第二次世界大戦。戦時中は船、兵器、ミリタリーウエアなどの製造の需要が高まることで必然的に多くのワークブーツが必要となり、この間にもウエスコは大きな成長を遂げた。そして大戦が終結し、戦勝国であるアメリカの景気が良くなると、国内全土でバイクレースが流行。労働者の作業靴であったエンジニアブーツは耐久性、防水性に優れたため、レーサーたちによって着用されるようになった。こうして単なる作業靴であったエンジニアブーツが、バイクというカルチャーと結びつき、一部の愛好家の間である種のファッションアイテムとして認知されるようになった。
1950~1960年代 ファッションアイテムとして徐々に認知されるように


バイカーたちの間での認知度は上がったとはいえ、まだまだファッションという観点からいえばコアな存在であったエンジニアブーツ。1950年代に入ると、バイカーを題材とした映画『The Wild One』(日本語タイトル「乱暴者」)が公開されるなど、バイカーズスタイルが一般層へと広がりを見せるようになった。その後、60年代には『Easy Rider』など、多くのバイカーズムービーが公開された。その影響もあり、ファッション感度の高い若者の間でエンジニアブーツの認知度は大きく向上した。
1970~1990年代 音楽カルチャーと結びつき一般層へと広がる
1970年代はヒッピーカルチャーの流行もあり、エンジニアブーツに関する大きな動きはなかったものの、80年代に入るとパンクロックなどのエネルギッシュな音楽カルチャーに火が付き、彼らがレザージャケットなどのバイカースタイルを取り入れたことでエンジニアブーツがファッションアイテムとして定着。日本でも、90年代にアメカジブーツが起こったことでより認知度が上がった。
2000年代~現在 ウエスコジャパンが始動幅広いカスタムオーダーが可能に

エンジニアブーツがファッションアイテムとしての地位を確立。2004年には「ウエスコジャパン」が始動し、ファッション感度の高い日本の市場に合わせてカスタマイズのラインナップを拡大させた。現在は、革の色や種類だけでなく、アウトソールやストラップ、ステッチなど幅広いカスタムが可能に。そして、90年代のアメカジブームを知る世代だけでなく若者や女性もエンジニアブーツをコーディネイトに取り入れるようになった。
(出典/「
photo/Shunichiro Kai 甲斐俊一郎 text/Kihiro Minami 南樹広
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