ドリッパーと豆の相性を知るのもマスターへの近道。
長年に渡ってハンドドリップを追求してきた向山さんが語る、ドリッパーの違いとは?
「ドリッパーは形状や素材も様々だけど、基本的にはお湯が落ちるスピードの違いが、最大の特徴です。豆との相性でいえば、深入りや細挽きはゆっくり落とした方がよく、浅煎りや粗挽きは早く落としたほうがいいと思います」
しかし、どんなドリッパーでも共通するのはお湯の注ぎ方。「ドリッパーの中で豆が暴れないように、なるべく丁寧にお湯を注いでください。これがハンドドリップの基本です」
向山さんが、どのドリッパーでも使う共通の道具。
ビタントニオのエレクトリック ドリップケトル“アクティ”
細口ノズルとハンドルの絶妙なバランスを備えたドリップケトル。専用の台にセットするだけで好みの温度を設定でき、そのまま30分保温が続く。
ハリオのハンドミル
ハリオの’70年代のハンドミル。今ではアンティーク品としての側面も強いが、もちろん現役で使用可能。向山さんが父親から譲り受けた大切な逸品。
ボンマックのコーヒーサーバー
安定感抜群のガラス製サーバー。様々なサイズがあるが、こちらは700mL用。ハンドルの形状がしっかりしているため、注ぎやすくこぼれにくい。
コーヒー豆はなるべくドリップ直前に挽くべし。
今回はすべてのドリッパーに共通して、バランスよく注げる一回分となる28gの豆を使用。もちろんドリップ直前に挽くのがベスト。この豆の分量で使うお湯は、330mLから350mLが理想。
1.「Karita 3つ穴式ドリッパー 102」で淹れる。
まずは定番ドリッパーとして人気が高い、カリタの3つ穴式ドリッパーでの注ぎ方を指南。無漂白の針葉樹パルプを使ったカリタのペーパー102とセットで使用。
【使用アイテム】
ペーパー:カリタのペーパー102
推奨豆:少し細かく挽いた深煎り豆(グアテマラ産VISTA BOSQUE)28g
①ペーパーを折る
カリタ専用のペーパーのため、当然ながらドリッパーとの相性も抜群。下は継ぎ目ギリギリを折り、サイドは少し深めに折り曲げよう。
②ペーパーをセットする
ペーパーはなるべくドリッパーに密着するように、しっかりとフィットさせる。これはカリタに限らず、すべてのドリッパーに共通する基本。
③ペーパーを濡らす
豆を入れる前に沸騰したお湯でペーパー全体をしっかり濡らす。「これは紙の雑 味や匂いを抜くと同時に、サーバーを温める効果があります。使ったお湯は捨ててください」
④豆を入れる
豆を入れるときはドリッパーの中にさらっと落とし、それ以降は手を加えない。「中心が1番高い山になっている状態がベストです」
⑤お湯の適正温度は95度
カリタのドリッパーと相性がいい、お湯の温度は95度。温度計がない場合は、お湯を火にかけて沸騰しきる直前の、大きな泡が出始めた頃。
⑥蒸らし
少量のお湯をゆっくり回し掛けして、豆全体を蒸らす。「このドリッパーは、お湯抜けがゆっくりなので蒸らし時間は20秒ほどが理想」
⑦抽出
続いては抽出作業。ハンドドリップの要であり、最も重要な部分。お湯の注ぎ方によって、味や風味も変わってくるためしっかりとマスターしておきたい。
【ポイント①】中心から外側に円を描くように注ぐ。
お湯の注ぎ方は、中心から外側に円を描くようにゆっくりと注ぎ、外に向かうにつれスピードを上げていく。
【ポイント②】数回に分けてゆっくりと注ぐ。
お湯抜けが遅いドリッパーは、お湯は回数をわけてゆっくり注ぐ。「それにより、深みと苦味がしっかり出ます」
【ポイント③】注ぎ終わった後の豆にも注目。
4、5回にわけて、ゆっくりとお湯を注ぎ終える。その後の粉は、ペーパーの底でフラットになっているのが理想。
⑧サーバーを揺らす
抽出を終えたら、カップに注ぐ前にサーバーを少し回してコーヒーを馴染ませる。「香ばしい匂いも広がるし、空気も入って味わいも、よりまろやかになります」
⑨FINISH!
あとはカップに注ぐだけ。「このドリッパーは穴が細かい分詰まりやすいので、なるべくゆっくり注いで行くのがポイント。でも繊細なのでコントロールもしやすいです」
2.「TORCH ドーナツドリッパー」で淹れる。
シンプルで美しいシルエットと、斬新な横スリットが話題の人気ドリッパー。 カリタのペーパーを応用するが、その際はワンサイズ上のモデルがオススメ。
【使用アイテム】
ペーパー:カリタのペーパー103
推奨豆:粗挽き豆(メキシコ産スペシャルティコーヒー)28g
①ペーパーを折る
ドーナツドリッパーには専用ペーパーがないため、カリタのペーパーを使用する。その際は折り方に少しコツが必要。もちろん他のペーパーも使えるので、一例として参考までに。
【ポイント①】下を少し斜めに折る。
ペーパーを開いたときに立体的になるように、下部分は少し斜めに折り曲げる。
【ポイント②】横は大胆に深く折り曲げる。
サイドは、かなり深めに折り曲げる。3cmから4cmほどの幅があってもいい。
【ポイント③】これがドーナツドリッパー仕様。
完成したペーパーがこちら。ドーナツドリッパーの形状に合わせている。
②ペーパーをセットする
変則的な折り方をしたペーパーを広げてドーナツドリッパーにセットすると見事にフィットする。隙間なくしっかりと収まっているかを確認しつつ、ドリッパーの上からペーパーが、はみ出すぎないようにも注意しよう。
③④ペーパーを濡らし、豆を入れる
カリタのドリッパーと同じようにペーパーを濡らしてから豆を入れる。ペーパー内の豆は無理に形を整えたりすると密度が変わり、お湯の抜け加減も変わってくる。そのため形が崩れてもいいから、自然の状態をキープしたい。
⑤お湯の適正温度は92度
ドーナツドリッパーと相性がいいお湯の温度は、 少し低めの92度。これはドリッパーの形状やお湯の抜け具合を考慮した結果によるもの。
⑥蒸らし
蒸らしのお湯は、かけすぎないように。28gの豆には60gくらい(約2倍)がベスト。そのまま20秒から30秒くらいかけてゆっくり蒸らす。
⑦抽出
お湯は静かに注ぐ。ドーナツドリッパーは、スリットが横になっているので、下部分でゆっくり抽出できる。「ドリップのお湯は一気に注ぐとコーヒーの粉が舞って詰まってしまうので要注意」
⑧⑨FINISH!
抽出完了。豆はフラットになりつつ、ペーパーの壁に薄く残っている状態がベスト。「ドーナツドリッパーはこれを目指しましょう。注ぐ前にサーバーを揺らして馴染ませることも忘れずに」
【こんなペーパーの巻き方はNG!!】
どのドリッパーを使おうが、ペーパーのセットに失敗したらドリップは上手くいかない。基本はドリッパーの形状にペーパーをしっかりと合わせること。なるべく隙間を無くそう。
1.ペーパーが小さ過ぎる!!
ペーパーを深く折り曲げてしまい、ドリッパーの径よりも小さくなってしまった。これは問題外!!
2.ペーパーが余り過ぎ!!
逆にペーパーが大き過ぎてもダメ。余った部分が浮いてしまい、結局ドリッパーに隙間ができてしまう。
3.「Hario V60-01」で淹れる。
ハリオはプラスチック製ドリッパーのV60-01の使い方を指南。水抜けがよいため香りが強い豆と相性がよく、香りを引き立てたいときに使いたい。
【使用アイテム】
ペーパー:ハリオのペーパーvcf02
推奨豆:エルサルバドル SANTA RITA BOURBONナチュラル
①ペーパーを折る
今回はハリオ専用の漂白ペーパー vcf02 を使用する。丁度いい大きさになっているため、底も横もギリギリの部分を折り曲げても問題ない。
②ペーパーをセットする
専用ペーパーだけにフィット感も抜群。このドリッパーはスリットが深いため、他のペーパーを使う場合も、なるべくしっかりフィットさせたい。
③ペーパーを濡らす
漂白フィルターは、少しだけケミカルの風味がすることがあるので、最初にしっかりと熱湯を注いで、余計な雑味を抜いてあげることが大切。
④豆を入れる
豆を入れるときは他のドリッパーと同じく、ふわ っと置くような感覚で。「なるべく自然の状態で 山になるようにして、無駄に触らないように」
⑤お湯の適正温度は92度
お湯の量は飲みたいコーヒーの量より少し多めのお湯を用意する。その方がケトル内の温度を保ち、最後までしっかりと香りを抽出できる。
⑥蒸らし
今回は豆の香りを引き立たせるため、少し長めの40秒くらいかけてゆっくり蒸らす。「蒸らしの時間をコントロールすれば香りをより引き出せます」
⑦抽出
抽出時は、なるべくお湯の水位を上げるのがコツ。「お湯の重さで早く抽出され、さらに香りが出ます。1回でたっぷりと注ぎ、3回くらいで注ぎ切りましょう」
⑧⑨FINISH!
お湯を最後までしっかりと落としきったら完成。「このドリッパーはお湯抜けがいいぶん、コントロールが難しい側面もあります。ポイントは、なるべく壁にお湯を当てないこと。それが美味しく抽出するコツ。慣れたら使いやすいですよ」
【総評】ハンドドリップは、やればやるほど上達する。
「ハンドドリップはその名の通り“手仕事”です。そのため単純に数字やデータだけでは表現できない領域があり、淹れた数や飲んだ数などの経験が最も重要になってきます。でも逆をいえば、やればやるほど上達するってこと。慣れてくると、ある程度は自由に味をコントロールできるようになると思います。
もちろんドリッパーも種類が豊富にあるから、自分に合ったモデルを探し出すのも楽しみ方のひとつ。僕もまだまだ、いろいろと追求している最中で、最近は竹細工のドリッパーにハマっています(笑)」
※情報は取材当時のものです。
(出典/別冊Lightning Vol.215「東京コーヒーロースターズ」)
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