余韻の消し方の美学。地元に愛されるために。
元々は、ただ純粋にコーヒーが好きで始めた僅か数坪の恵比寿のコーヒーショップ。当初は自家焙煎ではなく卸売りの豆を使用していた。やがてシェアロースターを経て仙川に焙煎所を構え、さらに調布に約150坪の敷地面積を誇る「調布焙煎ホール」を立ち上げたのが6年前。
ロースタリードリームとも言うべき成長を果たした猿田彦珈琲だが、代表の大塚氏と共に創業メンバーである都築尚徳さんは、現在技術部門全てのリーダーであり、焙煎、カッピングなど猿田彦珈琲のスペシャルティコーヒーを品質向上に日々努める。
店舗に併設された巨大な焙煎施設は、ガラス張りで客席から丸見えの状態。4台の焙煎機は、70kg釜、36kg釜、10kg釜、2.5kg釜。さらにテストサンプル用に小さな釜も加わる。とくに70kgの熱風式焙煎機は日本全国でもこの規模はめったにお目にかかれない。都築さんはいう。
「猿田彦珈琲の生豆はここですべて焙煎され、海外も含めて各店舗に配送されます。ガラス張りにしたのも生体展示のようなもの。動物園のように僕らの動きが外から眺められたら、お客さんも楽しいでしょ?」
そんなユニークな形態は、ここ焙煎ホール のコンセプトプランナーであるブックディレクター・幅允孝氏によるアイデア。また、落ち着いてコーヒーが飲める空間設計は、サポーズデザインオフィスの谷尻氏の手によるものだ。
猿田彦珈琲は、世界13カ国の農園や農協から最良の豆だけを仕入れ焙煎する。その焙煎方法、焙煎機の選び方にもこだわりがある。
「旧来は、コーヒーの余韻を残すかが大事とされてきました。濃厚なチョコレートのように口の中でずっと残ってくれるような。でも、一方で日本料理はほどよくその余韻が消えてくれるものが多い。僕らのコーヒーも消し方の美学があります。余韻を引かせすぎないように心がけています」
そのために、熱風式のローリングの焙煎機が活躍する。「このタイミングで消えてほしいという匙加減をコントロールしやすいんですよ」
余韻を引きずり過ぎずすっきりと飲みやすいコーヒー。東京にたくさんカフェが乱立するなか、いかに自分たちが選ばれるかを考えた結果。地元住民たちの「ホーム」になる必要があるという結論にたどり着いた。
「同時に地元の方にも馴染みやすく、美味しいコーヒーを飲んでほしい。だから、うちはホームメイドであることを大切にします。シロップひとつとっても自家製。焙煎だけでなく些細な積み重ねが、このカフェに来てくれる理由に繋がっているんです」
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