リバプールFCとビートルズに魅せられて【ビートルズのことを考えない日は一日もなかった 特別対談 VOL.14 半澤則吉】

ビートルズの故郷リバプールには2つの古豪サッカークラブがある。『赤盤』『青盤』のモチーフになったとされるリバプールFCとエバートンである。以前からポールはエバートンサポであることを公言し、08年にはリバプールFCの本拠地アンフィールドでコンサートを行っている。が、なかなかサッカーファン視点でビートルズを語る機会がないなか、近年一緒に仕事をしているフリーの編集者でライターの半澤則吉さんは根っからのKOP(リバプールサポ)でビートルズファンと聞き、ならば一度、わたしはユナイテッドサポではあるが、お互いイングランドフットボールファンとしてビートルズを語ってみたいと思い、今回の対談が実現しました。

リバプールはビートルズとサッカーの街

リバプールのマシュー・ストリートにあるモニュメント

竹部:今日はイングランド・プレミアリーグとビートルズというテーマで話をしたいと思っていまして。というのも、半澤さんはリバプールサポ、わたしはマンチェスターユナイテッドサポ。実は両者はリンクしているのに、このテーマで話ができる人がいないんですよ。いい機会かなと思いまして。

半澤:光栄です。ファン歴24年、KOP歴は27年です。

竹部:早速ですが、半澤さん、リバプールに行ってきたんですよね。

半澤:そうなんですよ。5月末に行ってきました。

竹部:いかがでしたか。初めてのリバプールは。

半澤:一生に一度だと思って行ったんですが、実際に行ってみたらあと2回、3回と行かなければいけない場所だなと思ったくらい、特別な体験でした。ビートルズのゆかりの地も回りきれなかったですし、クラブがある続ける限りリバプールを応援し続けるので、この2つの目的のためにもまた行かないといけないと思いました。

竹部:その気持ちわかる。ビートルズ観光はどうしたか。

半澤:バスツアーで一通り名所を回りましたよ。ペニー・レイン、ストロベリー・フィールズ、あとはメンバーの家とか。

竹部:マジカル・ミステリー・ツアーかな。

半澤:そうです。隣に座ったアメリカ人のおばさんと仲良くなって、ビートルズ話をしたりして、楽しかったですね。自分の英語力は日常会話もままならないぐらいなのに、おばさんがいろいろしゃべってくれて。ジョージのファンらしくて、ジョージの家に喜んでいました。

竹部:ビートルズ話は国境を超えるんですよね。

半澤:今回ひとり旅だったから自分が映っている写真はほぼないんですが、ストロベリー・フィールズに着いたときにおばさんが「写真撮ってあげる」と言ってくれて、そこでの写真だけは自分が映っていて。おばさんと一緒に撮ればよかったな。

竹部:リバプールではどこ泊まったの?

半澤:ハード デイズ ナイト ホテルです。ホテル内はエンドレスでビートルズの曲が流れていて、すごく雰囲気がよかったですよ。ここで衝撃的な出来事がありまして。ハード デイズ ナイト ホテルは100以上部屋があって、部屋ごとに異なるメンバーやアルバムの絵がかけられているんですね。入ってみないと誰の部屋にあたるかわからないんですが、なんとぼくの部屋はヨーコで……。

竹部:それはなんとも言いがたい(笑)。

半澤:普通に考えて4人のうちの誰かだと想像しているじゃないですか。「なんだリンゴか」みたいなところを超えてきたから、びっくりで(笑)。ということは、エプスタインの部屋もあるのかなとか思ったり。

竹部:それは驚く(笑)。熟睡できなそう。

半澤:(笑)。マシュー・ストリートにあるキャヴァンクラブもよかったです。ぼくが行った日は運よくビートルズ・デイで、コピーバンドが演奏していてすごく盛り上がっていて。みんな普通に歌えるんですよね。イギリスにおけるビートルズの存在を生で感じることができました。すごく楽しかった。リバプールのジャージを着ていたら案の定地元の人に声をかけられて、「リバプールが好きなのか?」って。

竹部:ビートルズとサッカーがあるリバプールの人は人生を楽しんでいるね。

半澤:ほんとそうですよね。毎週サッカーを楽しめるなんて。

竹部:リバプールにはリバプールとエバートンの2チームあるから。有名な話だけど『赤盤』『青盤』って、その2つのチームに敬意を捧げる意味があるっていう話だけど、現地の人にとっての隔たりっていうのはどうなんだろうね。ちなみにポールはエバートンらしいけど。

半澤:よく聞くのは、家の中に両方のファンがいるから、ダービーには一緒にスタジアムに行くって。どこまでほんとなのかわからないですけど。

竹部:マージーサイド・ダービーって、ほかのダービーほど憎み合ってない気はする。

半澤:そうはいってもさすがにダービーはピリピリしますよ。エバートンはリバプール相手だといつも以上に気合が入っているので強いし。

竹部:そうか。2つのスタジアムってすごく近い距離なんだよね。現地を歩いて驚いた記憶ある。今シーズンからエバートンって新しいスタジアムに変わったんだよね。

キャヴァーン・クラブでの一夜

半澤:そうですね。でも行ってみてわかったけど、リバプールは本当にビートルズとサッカーの街でした。

アンフィールドで観たプレミアリーグ優勝セレモニー

リバプール・アンフィールドでの04/05シーズン最終戦のようす

竹部:イギリスでのサッカーは文化であり伝統だから。でも今回半澤さん、アンフィールドでリバプールの優勝セレモニーを見たんですよね。

半澤:最高でした。今回、37節のアウェイのブライトン戦と最終節のホームのクリスタルパレス戦を観ることができたんです。冒頭にも言いましたが、一生に一度のことだと思って、半年前からシーズン後半を狙ってチケット取っていたんです。最初はその前の週の36節のアーセナル戦を取ろうか迷っていました。優勝争いしていた場合、そこは天王山になり得ると思って、そっちの試合の方が見たいなと思っていたんですけど、結局最終節で。

竹部:早めに優勝が決まっていましたよね。

半澤:結果的に最終節でよかったなと。試合も気楽に見られましたし。

竹部:うらやましい。ユナイテッドはどん底のシーズンでしたから……。10年以上優勝していないし……。

半澤:リバプールも低迷期が長かったですし。2019/20シーズンにプレミアに優勝しているんですけど、このときはコロナ化禍で有観客じゃなかったんですよ。最終戦のトロフィーアップも無人のスタジアムでやったので、サポーターの前でのセレモニーとなると三十何年ぶり。だからぼくが行ったときも街全体がにぎやかで、浮ついている感じもとてもとても面白かったです。

竹部:それは盛り上がるよね。半澤さん、パレードも観たんですよね。事故があったじゃないですか。大丈夫でしたか?

半澤:事故は本当に痛ましかったですね。その後、数万人が押し寄せ駅が閉鎖してしまい電車に乗れたのは深夜。終電もなくなり、見知らぬ駅で数時間、野宿状態も経験しました。代替え輸送のバスと電車を乗り継いでロンドンに到着したのが朝方で。ホテルの人に気を遣ってもらい、1時間長くいさせてもらいましたが、3時間睡眠でその日の午後にはフライト……怒涛の2日間でした。

竹部:無事でなによりでした。FAとかCLとかで勝っていたとしてもやはりメインはプレミアだから。自分はリバプールには2回ほど行ったことあるんですが、2回目の2008年は街の至る所に2005年のチャンピオンズリーグ優勝のポスターが貼られていて、3年経ってもまだ盛り上がっている様子がうかがえましたよ。

半澤:イスタンブールの奇跡ですよね。ミラン相手に0-3から3-3にしてPKで勝ったやつ。

竹部:すごい試合だった。ユナイテッドもそうだけど、リバプールって昔から劇的な試合が多いんだよね。06年のFAカップファイナルのウェストハム戦も忘れられないし、09年のCLのチェルシー戦とか。つまりスティーヴン・ジェラードの時代だよね。

半澤:ジェラードはいちばん好きな選手ですね。今でも現地でも、ジェラードのチャントは人気ですし、忘れられない弾丸ミドルが何本もあります。

竹部:08年の街の子どもたちのユニは大体ジェラードかフェルナンド・トーレスだった。そのときはポールのライブを観にアンフィールド行ったんだけど、やはりアンフィールドは聖地って感じで、雰囲気は最高ですよね。アンフィールドへはバスで行きました?

半澤:はい。前日にスタジアムツアーに参加したときはバスで行ったんですけど、試合の日は歩いて行ったんですよ。

竹部:歩いて? 距離あるでしょ。

半澤:1時間くらい歩いたと思います。現地の人もたくさんいたので一緒にとことこ歩いて。それはそれで楽しかったです。天気よかったですし。それで今回、ぼくがとったアンフィールドの席はピッチサイドだったんですよ。

竹部:それはすごい。迫力あったでしょ。

半澤:興奮しました。試合後に選手たちがトロフィを掲げた場所はフィールド中央だったんですけど、終わったあとに選手がゴール付近まで来てくれて、かなり近い距離で見ることが出来ました。この写真見てください。ソボスライ・ドミニクがここまで来てくれて。

竹部:こんな席なかなか取れないよ。テレビ中継で映っていたんじゃないの。

半澤:ぼくとしてはアンフィールドで「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」をサポーターと一緒に歌うことができたのことが、いちばん最高の経験でした。

竹部:それは感激。この曲を歌ったジェリー・アンド・ザ・ペースメーカーズは、ブライアン・エプスタインがビートルズの次に契約したバンドだからね。あと、映画『エイト・デイズ・ア・ウィーク』の中で、アンフィールドの客が「シー・ラブズ・ユー」歌うシーンがあるじゃない。あれも最高だよね。ああいうのを見ると、リバプールにおけるビートルズとサッカーの関係を知るんだよね。

半澤:アンフィールドで「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」を歌うってことは、長年夢見てきたものだったから、現実とは思えませんでした。嬉しいというよりは、不思議な感覚。徐々にリバプールに来たという実感がわいてきました。

竹部:ぼくも過去にリバプールの試合は何回か見たことあるんだけど、全部アウェイで。ハイバリー、ホワイトハートレーン、あとはワトフォードってとこでも見たな。そこでも「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」は聞いたけど、アウェイだからそれほど迫力はなかった。

半澤:そうなんですね。今回来日した試合も観に行ったんですけど、多くの日本人が歌っていて感動しました!

竹部:まさか日本でリバプールのサポが歌う「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」が聞けるとは。うらやましいな。ユナイテッドの親善試合を結構見てきたけど、そういうシーンはないからね。

半澤:そういえば今回、マンチェスターにも足を延ばしてオールド・トラッフォードに行ってきたんですよ。素敵なスタジアムですね。

アンフィールド外観
この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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