書籍概要
場所の文脈と不可分で、万人に開かれていたはずの表現が、広く価値を認められたがゆえに切り取られ、囲われてゆく。この皮肉な構造すら「バンクシー的」と言えるのか?
–宇多丸(RHYMESTER)
故郷であるイギリス・ブリストルを中心に、世界各地で30年以上にわたり作品を描いてきたバンクシー。壁、ドア、歩道、車両など、多種多様な「キャンバス」に描かれてきた作品は、一過性というストリートアートの特性に加え、その爆発的な人気ゆえ、今ではそのほとんどが描かれた場所から消えてしまっている。
本書では、バンクシーの重要作品50点を中心に、なぜ、そしてどのようにして、姿を消したのかに迫る。清掃員による徹底的な除去、建造物の解体工事、アートディーラーによる「保護(保管・販売)」を目的とした撤去、他のグラフィティアーティストとの確執による上描きなど、作品消失の背景を豊富な写真、具体的事例、関係者へのインタビューなどを通じて明らかにする。
また、本書の翻訳監修には、バンクシーの活動を初期から注目し続け、『バンクシー アート・テロリスト』『覆面アーティスト バンクシーの正体』(監修)などの書籍を手掛けてきた社会学者、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授の毛利嘉孝氏が務める。
バンクシー芸術の本質、作品の金銭的価値、
内容紹介

消えるダイヤモンド(The Disappearing Diamond)
アメリカ・デトロイトの荒廃した地域に描かれた《ダイヤモンド・ガール》。ファンが裕福な人に買われるのを防ぐため撤去しようと試みるも、最終的には誰かに持ち去られ、行方不明になっている。

80万ポンドの馬小屋(The £800,000 Stable)
イギリス・グレートヤーマスの模型村、メリベール・モデルビレッジにバンクシーがこっそり置いた馬小屋の模型は、コロナ禍で苦しむ村の観光客を50%増加させた。しかし、毎晩馬小屋を隠さなければならない恐怖に怯えたオーナーは、オークションに出品し、80万ポンドで落札された。

木の外科手術(Tree Surgery)
ロンドンのホーンジー・ロードに描かれた、枯れ木の背景に緑のペンキで葉が描かれた作品。Googleマップにも掲載されるほど注目されていたが、過剰なアクリルガラスと保護壁によってほとんど見えなくなってしまっている皮肉な現状があった。

沈みたくなければ泳ぐしかない(Sink or Swim)
ヴェネチアの運河の岸壁に描かれた《移民の子ども》。運河の水位上昇と船の波の影響で徐々に消えつつある。この作品を修復すべきか、それとも自然に消滅させるべきかという議論があった。地元の銀行によって保存の動きが出ていることが語られている。
著者プロフィール
ウィル・エルスワース=ジョーンズ(Will Ellsworth-Jones)
イギリス、サンデー・タイムズ紙の主任記者、同紙ニューヨーク特派員を務めたほか、テレグラフ紙、インディペンデント紙、サガ紙で編集部門の要職を歴任。著書『バンクシー 壁に隠れた男の正体(原題 Banksy: The Man Behind the Wall)』(パルコ出版、2020年)は世界8カ国で展開されている。
毛利嘉孝(もうり・よしたか)
社会学者。専門はメディア/文化研究。東京藝術大学・大学院国際芸術創造研究科長・教授、音楽学部音楽環境創造科教授。現代美術や音楽、メディアなど現代文化と都市空間の編成や社会運動をテーマに批評活動を行う。主著に『バンクシー:アート・テロリスト』(光文社新書)、『ストリートの思想』(日本放送出版協会)など。
書誌情報
発売:2025年8月下旬
書名:失われたバンクシー あの作品は、なぜ消えたのか
著者:ウィル・エルスワース=ジョーンズ
翻訳監修:毛利嘉孝
判型:B5変
総頁:144頁
製本:上製
定価:2,970円(本体2,700円)
ISBN:978-4-86152-989-4 C0071
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