2ページ目 - ビートルズ・サウンドのふざけた魅力、その本質。【ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.11 川口法博】

『赤盤』の最新リミックスの「オール・マイ・ラヴィング」

82年リリースのオフコース『NEXT』

竹部:82年のビートルズ・シーンにおけるオフコースの影響って大きかったと思うんですよ。それで、川口さん。『ビートルズ・ベスト20』の次はどういう流れでビートルズにハマっていくようになったのでしょうか。

川口:4人のユーモア精神。さきほどふざけてるって言ったけど。そこがほかのバンドと違うような気がしたんですよ。人に嫌な気持ちにさせない気の利いたユーモアっていうか。とくにジョンのイギリス特有の皮肉を込めたジョーク。キャラクター込みでだんだん好きになって、当然音楽もめちゃめちゃ掘り下げて行く感じですね。

竹部:その後はオリジナルアルバムを聞きはじめるわけですか。

川口:図書館や貸しレコード屋でレコードを借りたり。順番はランダムだったんですが、初めて『アビイ・ロード』を聞いたときはすごく覚えていて。帯に書かれた「A面の野生味、B面の叙情性」ってコピーが印象的でした。『ベスト20』にも入ってはいたけど、そこで聴いた1曲目の「カム・トゥゲザー」が食い足りなかったわけですよ。Aメロが20小節あるのにサビが2小節しかない。あと8小節ぐらい別のメロディがあればもっと盛り上がるのにって。この人の作る曲、いびつだなって。

竹部:ファンになり立てでそんなことを思ったんですか。たしかに「カム・トゥゲザー」はシンプルで、その単純な曲をボーカル力と演奏力で聴かせてしまうのがすごいんだけど。歌謡曲だったら絶対に大サビを作りたくなるじゃないですか。

川口:Aメロ、サビ、終わり。みたいな感じが、歌謡曲にはない世界で、そういうところに逆に惹かれちゃったというのはありますね。

竹部:これはジョージの曲だけど「サムシング」のサビ「♪You’re asking me will my love grow」の部分って1回しか出てこないんですよね。普通なら2回繰り返すと思うけど、そこが潔いというか、ジョージらしいというか。ポールはライブで「サムシング」を歌うときサビは2回にしていますけどね。

川口:「アイ・ミー・マイン」は無理やり尺を倍にしていますもんね。

竹部:さすがに1分では短いだろうといううえでの判断だったんでしょうね、でもそういうとこなんですよ。物足りなさを自分のイメージで補填しちゃうみたいなとこないですかね。

川口:聞き手に食い足りなさを感じさせてストレスを強いるから飽きさせない(笑)。

竹部:ビートルズの曲って短いし、アルバムのトータルタイムもだいたい30分弱。そういう物足りなさがいいのかもしれない。ぼくが最初にビートルズのCDをCDプレイヤーにセットしたときに驚いたのは、トータルタイムの短さだったんですよ。LPではすごく長く感じていたのに、現実では30分弱だったという。だから最初の頃はビートルズをCDでは聞けなかった。

川口:それはわかります。あと最初に『アビイ・ロード』を聞いたとき、中3だったんですけど、ジョンの曲は捨て曲ばかりじゃんって思った。まだ研究を始めていない時期だったんですけどね。

竹部:だからメドレーにしたというのはあるかもしれない。では川口さんはジョンを基準にビートルズを聞いていったということ?

川口:いや、ジョンとポールのセットですね。ひとりで作った曲は二人の共作曲に比べるとつまらないなって思うことが多くて。やっぱりコンビで補い合っていたんだなって。ジョンって『ホワイト・アルバム』以降、曲作りにおいてはスランプじゃないですか。シングル曲はほぼポールになってしまうし。だからヨーコを理由にビートルズに興味がないふりをして解散まで行っちゃったんだろうなって思っていて。

竹部:その説はおもしろいですね。

川口:ヨーコが好きっていう気持ちは確かで間違いない感情なんだろうけど、それは一種のポーズでもあって、ポールに主導権が移ってしまったビートルズに興味をないふりしていたっていうのが、私の思うところなんですよ。ポールが絶好調でいい曲を作ってくるから、ビートルズはお前がやってりゃいいじゃんみたいなね。

竹部:ビートルズを聴きだした初期の頃からそんな想像を巡らせていたと。

川口:いろいろなことを思いつつ、その根底にあるのはやっぱりビートルズってふざけているな、いい加減だな、自由すぎるなっていうことでしたね。たとえば、「ホワイル・マイ・ギター、ジェントリー・ウィープス」では、急にタンバリンが出てきて、それが急になくなって、また出てきたり。どういうことよって思うわけですよ。

竹部:ほかにもいろいろありますよね。「アイ・コール・ユア・ネーム」のカウベルとか、「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」のハンドクラップとか。

新装された『赤盤』

川口:テープの消し忘れもあったりとか、それオッケーにしちゃうの? って言いたくなる。最近びっくりしたのが、『赤盤』の最新リミックスの「オール・マイ・ラヴィング」。聞きました?

竹部:聞いたけど、なんだろう。

川口:2番のアタマ、「I’ll pretend that I’m kissing~」のところでスネアが四分音符で4拍連打している箇所があって。それを新しい『赤盤』で聴いてびっくりした。なんだこのドラミング!と思って。

竹部:それは気づかなかった。

川口:それまでのレコードやCDを聞いても気づかなくて。今回のリミックスで初めてこれ気が付きました。

竹部:初期の曲のドラムって、ハイハットが目立っているじゃないですか。ハイハットに消されて、スネアがあまり聞こえてないのかもしれない。

川口:聞くとびっくりしますよ。あとは、ジョンのダブルトラックのボーカルのズレ。味だとは思うけど、個人的には合わせてほしい。そういう部分を全部OKにしちゃっているっていうね。そのふざけた感じが逆に後々まで語られる議論の種を残してくれたっていう意味では楽しくていいんですけど。

竹部:『赤盤』の「オール・マイ・ラヴィング」聞いてみます。ぼくが最近気づいたのは「ユー・ウォント・シー・ミー」。この曲って、最初から最後までずっとギターのコードカッティングが裏で入っているんだけど、途中で一か所だけ抜けていて。なんでここ入んないの。絶対おかしいでしょ、って。

川口:あの曲のカッティングは音の長さも微妙に違うんですよね。

竹部:実にいい加減(笑)。ほかにも「プリーズ・プリーズ・ミー」のステレオ版や「ホワット・アー・ユー・ドゥーイング」のジョンとポールの歌詞違いとかあるけど、そんなところどうでもいいっていうことなんですよね。

川口:「アクロス・ザ・ユニバース」は最初にテープ操作で半音上げたのをチャリティアルバムで出した後に、『レット・イット・ビー』では半音下げで出していて。最初にOKテイクを作ったらキーはそのままにしてよって思うんですよ(笑)。

竹部:「シーズ・リービング・ホーム」もステレオとモノでは速度が違いますよね。混乱しますよね。どっちが正しいのかって。

川口:最初に速いテイクを聞いてしまうと、遅いテイクはだるく聞こえるじゃないですか。わたしはたまたま最初に鳥の羽ばたきバージョンの「アクロス・ザ・ユニバース」を聞いちゃったんで、『レット・イット・ビー』の「アクロス」を聞いたときは「不良品?」って思ってしまった。あれは絶対に鳥のはばたきバージョンの方がいい!だって、サビのNothings gonna change my world~という後にある♪アアアアアアっていうジョン自身の追っかけコーラス、これ大事でしょ!!それから、アウトロで突然出てくるジョン自身によるサビ三度上のハーモニー。これも聴きどころなんだから取ったらダメでしょう。でも、連中にすれば「細かいことにこだわるな。木を見て森を見ない状態じゃダメなんだ」っていうことなのかもね。

「アクロス・ザ・ユニバース」が収録された『No One’s Gonna Change Our World』

読み倒したジョン・レノン『ビートルズ革命』

『ビートルズ革命』

竹部:物事を全体で考えろっていうことなんでしょうね。この曲に限らず、ビートルズって、いやジョージ・マーティンって微妙なスピード調整で曲の印象を変えていますよね。だからコピーバンドが同じように演奏してもビートルズのようには聞こえない。

川口:そうですよ。ジョージ・マーティンはいろんなテクニックというか小技を入れていますよね。プロデューサーとしての第3者の目で見て、「ちょっと足りないかな、テンポを上げてみるか」みたいな感じで調整していたんじゃないですかね。ジョージ・マーティンの『耳こそはすべて』って読みました?

竹部:読みましたよ。内容はもう覚えてないですが。

川口:あれを読むと、ジョージ・マーティンが技術的にもすごいことがわかるんですよ。「キーを半音上げるのに、テープの回転数をどのくらい上げたらいいか、なんてことも計算機を叩いてすぐに割り出していた」とか、本当のプロなんだなと思った。「ストロベリー・フィールズ」のテープ編集だって、そういう知識がなかったらできなかったことだろうし。

竹部:キーの違う別曲を違和感なく合わせているわけですよね。

川口:そういうテープオペレーター的な知識もあった人で、ほんとにジョージ・マーティンでよかったなって思うんですよね。そもそもは社内不倫のペナルティで罰ゲーム的にビートルズを振られたみたいですけどね。

竹部:そうそう。

川口:いまではビートルズとジョージ・マーティンの出会いは伝説になっているけど、実は……でも、そのおかげでビートルズがデビューできたとしたら、それも神の采配としてよかったんだろうなって思いますけどね。

竹部:ビートルズってそういう偶然的必然が多いんですよね。

川口:ほんとそう思いますよ。ビートルズって、要はリバプールの地元の悪ガキじゃないですか。その4人が世界を制するっていうロマン。そこに惹かれますよ。スーパースターを寄せ集めたんじゃなくて、田舎の悪ガキっていう。解散して50年も経ってもみんなが惹かれるのは、そういうところもあるんだろうなって気がしますけど。

竹部:今ちょうどブライアン・エプスタイン唯一の自伝『ビートルズ神話』を読み返しているんですけど、あの本って、すごく生々しく書かれている一方で、なんか現実離れしているところがおもしろくて。要は、ローカルバンドだったビートルズにブライアンがマネジメントを名乗りでて、最初はギャラの数パーセントを受け取るという契約からレコード会社に売り込んだけどダメで、という流れから2年後には世界のバンドになるという、そのブレイクの規模がでかすぎて、読んでいてあまり理解できないというところがある。歴史としては理解できるんだけど、ブライアンが書くブレイクの規模感にリアリティが感じられない。そういう意味でも『ビートルズ神話』はおもしろいんですよ。

川口:本を読みながら音楽を聴くとさらに楽しくなってくるじゃないですか。わたしがいちばん読んだのは……、読み倒したといってもいいのは『ビートルズ革命』ですね。『回想するジョンレノン』『レノン・リメンバーズ』とか何度も改題して再発売されたけど、全部持っていますから。さらに原書まで買って自分で訳してみたり。

竹部:訳も違うってこと?

川口:ちょっとずつ改訂されているんですよ。あの本は片岡義男の訳がまたいいんですよね。「子供の頃、自分は天才だと思っていたけど、私が天才であることに誰も気がつかなかった。私を天才だと認めなかった周囲を絶対に許しません。そしてもし天才というものが存在しないのなら、私はもうどうだってかまいません」とか、おかしな発言を真面目な文章で載せるおもしろさがあって(笑)。

竹部:『ビートルズ神話』も片岡義男で。片岡義男の訳はいいんですよ。

川口:『絵本ジョン・レノンセンス』ってあるじゃないですか。あれも片岡義男で、狂気すら感じさせる訳がいいんですよ。

竹部:我々にビートルズを教えてくれた重要な人物って何人かいるけど、片岡義男もそのひとりですよね。

川口:間違いないですよ。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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