火曜日深夜の白井貴子と「デイ・トリッパー」|ビートルズのことを考えない日は一にもなかったVol.30

84年はビートルズに関するトピックスが乏しかった一年。なので、今回はビートルズに関係した日本人アーティストの話で本項を進めることにする。前回の最後に書いたサザンオールスターズの流れで続けると、84年の1月から桑田佳祐の『オールナイトニッポン』がスタートした。桑田佳祐にとってこれが『オールナイトニッポン』二度目の登板。前回の79年~80年はまったく聞いていなかったので、この再登板はうれしかった。というのも、『ビートルズ白書』なる本によれば桑田の『オールナイト』で「ビートルズ・ベストテン」という放送回があったらしく、リスナーからのリクエストで1位から50位までがカウントダウンされたという。

楽しみにしていた『桑田佳祐のオールナイトニッポン』

レオン・ラッセル『カーニー』

同様の企画を文化放送の大友康平の『ザ・ビートルズ』で聴いたのだが(81年1月)、桑田佳祐版も聴いてみたく、再登板に際してまたそのようなコーナーが企画されるのではないかと密かに期待した。とはいうものの、この頃のわたしは『オールナイトニッポン』のヘビーリスナーで、月曜から土曜日まで毎晩深夜1時にニッポン放送にダイヤルを合わせていた。それゆえ前任の高橋幸宏の『オールナイト』も欠かさず聴いており、その流れで桑田佳祐を聞きはじめたに過ぎない。が、桑田佳祐の『オールナイト』再登板は気持ちが上がった。

84年~85年にかけてのサザンはアルバムでいうと『人気者でいこう』から『KAMAKURA』にかけての時期になる。とくに2枚組の大作となった『KAMAKURA』は前期サザンの最高傑作とされているので、まさに脂ののったタイミング。番組内のフリートークではその制作エピソードや近況が事細かに語られ、そこに自身のルーツである音楽を紹介していくという構成は、いまTOKYO FMでやっている『やさしい夜遊び』とほぼ同じ。テンションも下ネタも音楽トークもほぼ変わっていないというのがすごい。

この時期の特徴としては、やたらとレオン・ラッセルを推していたことだろうか。ほぼ毎週のようにその名を出しては曲をかけていたので、気になって仕方なく、神保町の中古屋で『カーニー』や『ソング・フォー・ユー』を買ったほど。ジョージやリンゴが参加しているので、ビートルズ関連作として聴けることはもちろん、桑田佳祐へのボーカルスタイルの影響に納得であった。その少しあとだったか、渋谷陽一が構成をしていた音楽番組(確か日曜の昼にテレビ朝日でやっていた)で桑田佳祐が「ソング・フォー・ユー」を披露したことがあった。

桑田佳祐からの白井貴子の『オールナイト』二部

「デイ・トリッパー」を収録したチープ・トリックのEP盤

結局のところ、期待した『桑田佳祐のオールナイト』で「ビートルズ・ベストテン」は企画されなかった。が、ビートルズの話題はよくしてくれて、初めてビートルズを聞いた時のことやジョンとヨーコが結婚したと聞いてお姉さんと二人で藤沢のヨーコの実家に行って石を投げて帰ってきたという昔話を聞かせてくれたりしていた。

スタジオライブでビートルズを歌うこともあり、よく覚えているのが85年2月放送のバースデイライブでのこと。タモリやさんま、小林克也、石橋凌、山下久美子とかがゲストで出てきて1曲デュエットするという、今考えればラジオではもったいないような贅沢な内容だったのだが、そこで鮎川誠と「ハード・デイズ・ナイト」をカバーしていた。ハードロックにアレンジされた演奏がよかったことが忘れられない。今この音源を聞き返すと、冒頭で「29歳になりました」と言っていて、なんと40年も前。月日の経過を感じずにはいられない。

85年10月まで放送された桑田佳祐の『オールナイト』の時期の二部をやっていたのが白井貴子だった。当時の彼女は新進気鋭の女性ロックボーカリストという印象で、ブレイク直前というタイミングだったが、飾らないキャラクターと小気味いいトークに好感を持った。とくに印象的だったのはオープニングに「デイ・トリッパー」をかけていたこと。2部はおなじみの「ビター・スウィート・サンバ」ではなく、各人とも独自セレクトの曲でスタートしていたのだが、白井貴子は「デイ・トリッパー」の、なんとチープ・トリック・バージョンをセレクトしており、これがなんともよかった。

そこに「今夜は今夜しかないのさ!」という彼女の決め台詞がカッコよくて、それが聴きたいがために起きていたといってもいいほどであった。といっても午前3時からの放送なのでフルで聴いたことはないのだが、番組内にビートルズ・コーナーもあった気がする。それゆえ、この年「CHANE!」でブレイクしたときには少々誇らしい気持ちになったものであった。

この時期は本当に毎日ラジオばかり聞いていて、深夜1時からの『オールナイト』が始まる前には『サウンドストリート』をこちらも毎晩10時にダイヤルを合わせていた。お気に入りは渋谷陽一と佐野元春。前者は「ヤング・パーソナル・ガイド」という硬派なものから「著作権料よこせリクエスト大会」という下世話なものまで幅広い内容で楽しませてくれ、後者はニューヨークから届けられる近況と最新音楽情報に耳を傾けた。この年の佐野元春は『VISITORS』をリリース。大傑作にして問題作を前に戸惑いを隠せなかった人も多かったと思うが、ご多聞に漏れず、私もその一人だった。「SHAME」という曲にジョン・レノンを感じられたことがうれしかった。

84年夏の原田真二ライブ初体験

原田真二がゲストだったフォーライフ・コロムビアオーディション

そんな84年の夏、正確に言うと7月25日水曜日、日本青年館で原田真二&クライシスのライブを観た。この日は高校の1学期の終業式だったのだが、通知書授与のあとクラスメイトのNと二人で制服のまま原宿へ向かった。

なぜ、観ることになったのかというと、その頃わたしは、日々曲を作り、オーディションに提出するということを行っており、その一環でこの年開催されていたフォーライフ&日本コロムビア新人オーディションにテープを送ったところ、後日、「審査には落ちたが、決戦大会を見に来ませんか」という案内の招待状が送られてきたのだった。この頃はNとも共作でいくつかオリジナル曲を作っていて、そのつながりで観に行くことになった。開場は5時だったので、念願だった原宿ペニーレーンでお茶をして、あたりをぶらつきながら明治神宮の横を抜けて日本青年館まで歩いて行った。

原田真二「モダン・ヴィジョン」

その公開オーディションイベントのゲストアーティストが原田真二&クライシスだったのだ。これが、その後現在に至るまで何度観たかわからない原田真二のライブの記念すべき第一回目。この頃の原田真二は『モダン・ヴィジョン』を出したばかりで、この日のセットもそのアルバムからの曲のみの、30分くらいのミニライブだったのだが、これがとんでもなく素晴らしかった。

複雑で難解な曲をサポートメンバーを加えるわけでもなく、音源を同期させるでもなく、たった4人でコーラスはもちろんダンスまで交えて乱れることなく演奏するパフォーマンス力の高さに激しく心を打たれ、これがプロかと、自分の浅はかな考えを恥じたものであった。音量もバカでかかったことも、強く印象に残っている。このあと数日間耳の奥がキーンとしていた感触は今も耳の奥から消えることはない。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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