GWにNHKで放送されたウイングスのラストライブ|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.11

1981年3月末日、アメリカのレーガン大統領がピストルで撃たれるという事件があった。あやうく死は免れたものの、現職大統領の暗殺未遂という衝撃は大きく、またジョンの事件からまだ間もないなかでの出来事ということもあり、ジョンの件を引き合いに出して伝えるメディアも多く見られた。あの日を思い起こさせ、悲しい気持ちにさせられた、ちょうどその時期、文化放送で「ジョン・レノン愛の遺言」という番組が放送された。3月30日から4月3日にかけてラストインタビューが小林克也のナレーションで紹介された。

杉並公会堂で開催された「BEATLEFEST ’81 SPRING」

文化放送で放送された『ジョン・レノン愛の遺言』

その翌日、新学期を直前に控えた春休みの一日、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブのフィルムコンサートを観るために杉並公会堂に出かけた。今回も単身参加だったが、さすがにひとりでの移動も鑑賞も慣れてきた。が、思い返せば小5の頃、スーパーカーを見るためにカメラをぶらさげて田園調布駅の高級中古車屋(環八チェッカーモータース)までひとりで通っていたことがあった。この頃から関心のあるものであれば、調べてひとりで行動してしまう習性があったようだ。

コンプリート・ビートルズ・ファンクラブ主催「BEATLEFEST ’81 SPRING」チケット

「BEATLEFEST」というタイトルが付けられた今回のイベントで上映された映像は「1964USAツアー」(「ワシントン・コロシアム・コンサート」とドキュメント「What’s Happening」)、「アイ・フィール・ファイン」のプロモ、ジョンの「ワン・トゥ・ワン」、ウイングスの「ヴィーナス&マース」など、貴重映像の目白押し。今となっては簡単に視聴可能なものだが、当時は一期一会ゆえすべてを脳裏に焼き付けるべく、瞬きも惜しんで一生懸命鑑賞した。「What’s Happening」は後に補正・増量・再編集され、「US 1st Visit」としてソフト化されたが、個人的には「What’s Happening」に馴染みがあり、いつか「What’s Happening」がソフト化されることを期待したい。「ワン・トゥ・ワン」の上映前には「この会場にポールがいて、一瞬映っています」と説明があったことも覚えている。

始業式に教えてもらったウイングス解散の報

ビートルズとは関係ないが、このときの会場が杉並公会堂だったことは非常に印象深い思い出として残っている。ウルトラ好きにとっても忘れられない場所なのだが、歴史と伝統を感じさせる外観と、昭和の建築物らしい雰囲気の内観がたまらなく、また行きたいと思うもこれが最後になってしまったことが残念でならない。

『ウイングス・グレイテスト』に封入されていたウイングスのポスター

その数日後、始業式で久しぶりに会ったビートルズ友達のCくんからウイングスの解散を教えられた。たしか、『セブンティーン』か『プチセブン』の雑誌に載っていた記事の切り抜きを見せてくれた。Cくんはショックを受けていたけど、その頃の自分はウイングスに思い入れはなく、ウイングスが解散してもポールがソロでやってくれればそれでいいのではないかと考えていた。『ウイングス・グレイテスト』にもソロの曲も入っていたし。でも落ち込んでいるCくんの前ではそんなことは言えず、すると、Cくんはゴールデンウイークにウイングスのコンサートがテレビで放送されることを教えてくれた。

5月4日の夕方5時半からNHKの『ヤングミュージックショー』の枠で『カンボジア難民救済コンサート』が放送されるというのだ。なんでもそれは、成田での逮捕劇の一ヶ月前、79年12月にロンドンで行われたチャリティーコンサートのもようで、ウイングスの演奏も流れるという。これには心が躍った。

新鮮だったソロで歌うポールの「レット・イット・ビー」

『カンボジア難民救済コンサート』LPの内ジャケット

しかし、問題があった。5月4日は家族で高尾山を登山する計画があったのだ。なぜ中3にもなって家族で外出し、しかも登山なんかをしなければならないのか。胸の奥ではそんなもやもやを抱えていたが、これで参加拒否の理由ができたと親に告げるも、結局言いくるめられて参加しなければならない運びとなってしまった。だが条件がある。夕方5時までに帰ってくること。ならばと渋々高尾山行きを承諾した。そして当日、山の景色を楽しむことよりも、山登りのきつさに苦しさよりも、途中で食べた弁当の味よりも、ウイングスのことだけを考えて歩を進めていたといっていい。山頂までいった感慨もなく、ただ家に帰りたいと言う気持ちだけであった。

予定通り、夕方に帰宅。まもなくして『カンボジア難民救済コンサート』が始まった。クイーン、スペシャルズ、ロックパイル、ザ・フーに続いてウイングスが登場。丈が長めの黒ジャケットにジーンズという服装、短髪なのに襟足を少し伸ばしたポールがカッコいい。ここでは「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」「エブリナイト」「カミング・アップ」が演奏された。3曲とも素晴らしく、これが日本で観られたのかと思うも、79年12月の段階ではポールを認知していなかったわけで、なんとも複雑な心境であった。

最後はスペシャルバンド、ロッケストラのバンマスとしてポールが登場、「ルシール」と「レット・イット・ビー」を演奏したのだが、「レット・イット・ビー」での今まで聴いたことのないアレンジとポールのボーカルスタイルに心底驚いた。ビートルズのバージョンとは違うぞという気合が、ちょっとかすれ気味の声とうまく相まってオリジナルとは違ったロッカバラッドになっているところが気に入った。85年のライブエイドでも歌い、89年のツアー以降は必ずレパートリーに入っているライブの定番だが、79年の「カンボジア難民救済コンサート」での「レット・イット・ビー」がいちばん好きかもしれない。

「BEATLEFEST」で購入したポールの生写真
この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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