世界に一つだけの刺繡ジャケット。これはもはや至高のアート。

刺繡の入ったジャケットを着たいという願望から刺繡の技術を一から独学で学び、自分の感性に重きをおいて制作する世界に一つだけの刺繡ジャケットがある。想いの丈を刺繡に乗せたオリジナルのメッセージは、製作を手掛ける手刺繡アーティスト、ヘンリー・ハーパーの等身大であり、見るものを魅了する。

好奇心から生まれた珠玉の芸術品。

制作を始めるときはまず始めにメッセージが浮かんでからジャケットを選ぶ。数多くのジャケットの中からピンときたものを選ぶが、しっくりこないときは何年も寝かせるときもある

手刺繡アーティスト、ヘンリー・ハーパーはテキサス州・オースティン出身。10年前、21歳の時、チャンスに溢れたニューヨークへ魅力を感じて移住。生まれ育った小さな街にはない世界を見たいと思った彼にとってニューヨークへの移住は自然な選択だった。

現在はブルックリンをベースにヴィンテージジャケットに刺繡を施した作品制作をしている。きっかけは、刺繡の入ったジャケットを着たいというピュアな願望から。

マンハッタン、ガーメンツディストリクトにある縫製工場に電話をかけたところ、聞いた値段は当時のヘンリーには優しいものではなく入手するのは難しかった。「ならば自分で作ろう」と決意をし、右も左もわからない刺繡の技術を一から独学で学び、アーティストへと成り上がった。

もちろん当初は苦労や苦悩も多く、自分でも何をやっているのか分からなかったが、現在の技術やスタイルは失敗による功績であり、努力の賜物。ベースであるジャケットは新しいものではなく、ヴィンテージをセレクトしている。ヴィンテージにこだわる理由は自分が手にする前の時間をどう過ごしたのか、破れていたり、縫い直されていたり、その洋服の物語を感じられるから。

背中一面に施された刺繡に目を奪われるが、よく見るとチョークで書いた下書きがうっすらと残っている。これもまた味があってより魅力を引き出す

ひとつの作品を制作する時間は文字数にもよるが大体40~100時間ほど。まず、チョークで下書きをしてからその上を手で刺繍していく。旧いワックスジャケットなどは生地がとてもデリケートなので、通常よりも時間を要する。

ワークジャケットなどは分厚くて扱いやすいが、部分的に破れていると丁寧に縫う必要があったり、ポケットなどの生地が重なっているところは硬くて針が通らないので、ペンチを使って糸を通す。刺繡だけでなく、すべてのプロセスに時間を要するのだ。過去には6mの大きなキャンバス生地の作品制作をし、制作に300~400時間、仕上げるのに数カ月かかったこともある。

また、ヘンリーを語るうえで欠かせない刺繡のメッセージは全てオリジナル。自身が普段感じたことや重要だと思っていること、街でふと目に入る言葉などからインスピレーションを受け、複雑な文章は使わずにシンプルかつ印象的なメッセージを発信し続けている。インプットとアウトプットを繰り返し、ヘンリーにしか作り出せない芸術でより高みを目指す。

最近では、刺繍を施したブランケットの周りに、ウッドボードを文字にカットしたものを配置して、手法を超えた壁全体のコラージュ作品も制作している
手刺繡アーティスト・ヘンリー・ハーパー|唯一無二のメッセージと真心込めて作るこだわりが散りばめられたオリジナルの刺繡アーティスト。ブルックリンを拠点とし、デトロイト、テネシー、メンフィス、マンハッタン・ローアーイーストなどで展示の経験を持つ

インプットとアウトプットを繰り返し、自身も成長しながら作り続ける作品。

刺繡の制作は時間をとるため、時に「なぜ僕はコンピュータの仕事をして稼ぐことを選ばなかったのだ?」と自問自答するときもあるが、やはり何かのプロジェクトに着手しているこの時間が好きで気持ちが落ち着く。

こんなにも繊細な針で、屈強なジャケットを全てハンドメイドで刺繡していく。誰にも想像できない、自分の頭の中を具現化していくための商売道具であり、パートナー的存在だ。

ヴィンテージジャケットの良さは風合いや背景に想いを馳せられるだけではない。ポケットからユニオンタグやレシートなど不思議なものを発見することもある。

誰かが使用していたことが形としてわかるのはヴィンテージならではの面白さであり、抜け出せない魅力。

青いブランケットは昔エアラインで使用されていたもので、あえて旧く破れたりしていたものから制作をした。旧いものをリメイクして命を吹き込み、新しいものへと昇華させる。

以前はスリフトストアにヴィンテージのジャケットを探しに行っていたが、最近はインターネットで探すことが多い。頭の中にあるイメージに近ければ、少しプライスが高くてもプロから買うのがヘンリーのスタイルだ。

この10年で刺繡のスタイルは変化した。当初は、自分のイメージに合うフォントのサイズが見つけられず苦労したが、今使用しているレターサイズには満足感を得ている。現状でとどまらず試行錯誤してベストな状態へ。

(出典/「CLUTCH2023年6月号 Vol.91」)

この記事を書いた人
CLUTCH Magazine 編集部
この記事を書いた人

CLUTCH Magazine 編集部

世界基準のカルチャーマガジン

日本と世界の架け橋として、国外での販路ももつスタイルカルチャーマガジン。本当に価値のあるモノ、海外記事を世界中から集めた、世界基準の魅力的コンテンツをお届けする。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

憧れの平屋が実現できる! かつてスクリーン越しに憧れたアメリカンハウスで暮らす

  • 2025.12.31

かつてスクリーン越しに憧れた、夢が詰まったアメリカンハウス。到底叶わないと思っていたその景色が、実は日本でも実現できるそうなんです。新婚ホヤホヤの編集部員、パピー高野とジョージが、アメリカンスタイルを得意とする、埼玉県を中心に海外スタイルのお家を手掛ける注文住宅・輸入住宅の専門店「古川工務店」の住宅...

上質な馬革をシンプルに愉しむ。石炭(COAL)を運ぶために使われていたコールバッグという選択肢

  • 2025.12.27

きめ細かく美しい銀面を持つことで知られる馬革。軽くて強靭、上品な質感、そして使うほどに味わい深い経年変化で、多くのレザーファンたちを魅了し続けてきた。そんな馬革をシンプルに愉しませてくれるのがINCEPTIONのコールバッグだ。 ヴィンテージをベースに、実用性を加味し再構築。 19世紀末から20世紀...

「ORGUEIL」が提案する、凛冬を彩る大人のガーメンツ。

  • 2025.12.26

凛とした寒さが日に日に増し、コーディネートが重くなりがちな季節。クラシックなデザインと丁寧な作り込みのORGUEILのクロージングが、いつものスタイルを格上げしてくれる。さりげなく上質で存在感のある一着が、冬の日々を彩ってくれるはずだ。 Aniline Steer Oil A-1 Jacket 19...

こんなコスパのライダース、見たことある? 「中田商店」のオリジナルブランドのライダースを侮るなかれ!

  • 2025.12.29

東京・上野にある老舗ショップ、中田商店。そのオリジナルブランドが「モーガン・メンフィスベル」だ。中田商店というと、ミリタリーのイメージが強いが、モーガン・メンフィスベルでは、ミリタリーをはじめ、様々なレザーウエアを展開している。もちろん、ライダースのラインナップも豊富。今回は珠玉のライダースを紹介す...

Pick Up おすすめ記事

前代未聞! “自立する”ジーンズ。「EIGHT’G」から職人泣かせならぬトラウマな超極厚ジーンズ登場。

  • 2026.02.04

前代未聞。エイトジーがまたしてもやってくれた! 超ヘビーな27.5オンスのジーンズの登場。生地の厚みと重量感はデニム史上でも圧倒的で、まるで穿く甲冑のような迫力。縫製は熟練職人の手作業のみで行われ、普通のジーンズでは味わえないタフさと存在感を誇る。穿くだけで男の背筋が伸びる、気合十分の究極仕様、“自...

【VAN×2nd別注】スポーティなレタードカーティガンでひと味違うアイビースタイルを。

  • 2026.02.03

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【VAN×2nd】トラックカーディガン[レタードワッペンセット] 日本にアイビーの礎を築いたブランド、「VAN(ヴァ...

「ORGUEIL」が提案する、凛冬を彩る大人のガーメンツ。

  • 2025.12.26

凛とした寒さが日に日に増し、コーディネートが重くなりがちな季節。クラシックなデザインと丁寧な作り込みのORGUEILのクロージングが、いつものスタイルを格上げしてくれる。さりげなく上質で存在感のある一着が、冬の日々を彩ってくれるはずだ。 Aniline Steer Oil A-1 Jacket 19...

憧れの平屋が実現できる! かつてスクリーン越しに憧れたアメリカンハウスで暮らす

  • 2025.12.31

かつてスクリーン越しに憧れた、夢が詰まったアメリカンハウス。到底叶わないと思っていたその景色が、実は日本でも実現できるそうなんです。新婚ホヤホヤの編集部員、パピー高野とジョージが、アメリカンスタイルを得意とする、埼玉県を中心に海外スタイルのお家を手掛ける注文住宅・輸入住宅の専門店「古川工務店」の住宅...

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。