ショベルヘッドが抱える問題点の根本と解消法とは? サンダンス流ショベルヘッド解体新書

登場から既に半世紀以上が経過しているもののいまなお高い人気を誇るモデル、ショベルヘッド。この企画では、その問題点や解決策を世界的H-DエンジニアであるZAK柴崎氏がレクチャー。医術にも似た工学理論についてをお伝えしたい。

「サンダンスエンタープライズ」代表・柴崎“ZAK”武彦|ショベルが現役だった時代である82年にサンダンスを創業し、それ以降、数々のオリジナルエンジンやパーツ、カスタムを生み出した世界的H-Dエンジニア。今回は実践に基づいたショベルの問題点と解決法をレクチャーしよう。

いまの技術と知識で行うべきショベルの根本的治療法

1966年に登場したアーリーショベルから数えると販売されてから既に60年近くの時間が経過しているショベルヘッドであるが、いま現在、それを手に入れ、走らせている多くの人が抱えてる悩みが「いつトラブルが起こるかわからない」というものだろう。

例えばこれからハーレーを買おうという人でも現行の「ミルウォーキーエイト」から「エボリューション」あたりを購入するならば、さほど不安を感じないだろうが、こと『鉄シリンダー』のショベルとなると途端に二の足を踏んでしまうという人が多いのも現実だ。

造られた時代や構造、金属の経年劣化などを考えれば、確かにそれは正しい感覚だろうが、しかし、いまの技術で正しく組み上げ、欠点を改善した車両に関していえば決してその限りではない。事実、今回もレクチャーを依頼した「サンダンス」のZAK柴崎氏が手がけたショベルといえば、決して大げさな表現ではなく、現行の車両と遜色ないどころか「面白さ」という点でH-Dの中で随一といえる官能の走りを見せつける。そして、それを生み出す要因をあえていえば、当たり前のことに聞こえるかもしれないが、ZAK柴崎というエンジニアが「機械を機械として正しく捉える」感覚をもち合わせているからにほかならない。

ハーレーを修理や整備するにあたって、まったく知識のない人間なら、まずマニュアルをひとつの基準とし、そこに書かれたことに則って作業を開始するだろう。しかし、その内容にまったく疑問をもたず「まるで聖書のような感覚で読んでいる人間」に問題があるともZAK柴崎氏は言う。

「例えばコンロッドのベアリングやピストンのクリアランスなどマニュアルに書かれた数値だと、適正値の倍以上。実はかなりユルいんだよ。その理由としてあるのが『AMF』の時代にエンジンの焼き付きによるクレームを恐れたメーカーが、あえて各部のクリアランスをガタガタの状態で出荷していたことが原因なんだけど、その数値を妄信的に信じている人が機械を正しく直せるワケがない。ショベルは最終型からでも既に40年以上経過しているのでエンジンにまったく手が入っていないものはないけど、調子の悪い車両の原因の多くは残念なことに直す側の技術的なクオリティが問題となっている場合が多いんだ。

例えば“ショベルにマルチグレードの化学合成油ってどうなの?”という人がいまだにいるけど、70年代はオイルシールやガスケットが化学合成油に対応していなかっただけ。だから不向きといわれていたんだけど、むしろいまの時代に鉱物油を使うほうがナンセンス。機械としての理屈、構造を考えればおのずとわかるはずだよね」と彼。

まるでレントゲンを覗き込むように、この記事で紹介するショベルの問題点を一つひとつ発見し、40余年に渡って治療を施してきたZAK柴崎氏だが、その姿勢はまさに名医の如し、だ。無論、彼の言葉の中には「ショベルはこんなもの」というフレーズはない。このマシンは必ず完治することを既にサンダンスが過去に手がけたマシンたちによって証明している。

ゆえに今回の企画でショベルの治療法と特効薬を貴方が見つければ、我々としても幸いである。

ショベルヘッドが抱える問題点の根本と解消法とは

数あるヴィンテージハーレーの中で最も完成度が高いといっても過言でないショベルだが、エボ以降のモデルと比較するとさまざまな問題点を抱えているといわざるを得ないのが正直なところ。構造的なウィークポイントが数多くあるのはもちろん、例えば「修理済み」「フルOH済み」と謳ったものでもキッチリと直っていない車両が多いのも現実だろう。その理由は本文中に触れるが、多くは人為的な要因が問題だ。

現代的なアップデートが要求されるヘッド&燃焼室

有鉛ガソリン時代に生産されたモデルゆえ、バルブシートの素材変更が必須なのはいうまでもないが、ガイドやバルブの変更などさまざまな箇所に改善の余地があるヘッドまわり。現在の化学合成油に対応したシールやガスケットの使用を念頭におくことが基本だ。

正しいオイルの選択とそれに伴う改善策の施工

ショベルが生まれた70年代はマルチグレードの化学合成オイル対応のシールやガスケットが存在しなかったゆえ、鉱物油のシングルグレードが純正指定されていたが、いまや明らかに時代錯誤。そうした点を考慮してもオイルフィルターの変更は必須だ。ちなみにオイルポンプは破損などがなければ純正でOKとのこと。

ピストンも鋳造から鍛造への変更がベスト

純正では鋳造製が採用されていたもののピストンに関してもいまは鍛造製を選ぶのがベスト。90年代までは「どちらでもいい」という風潮だったが、2000年代を越えてから技術が進化し、圧倒的に鍛造に分があるというのが実状だ。軽量な上、強度と耐久性も高い。

この記事を書いた人
CLUB HARLEY 編集部
この記事を書いた人

CLUB HARLEY 編集部

ハーレー好きのためのマガジン

ブランドとしての知名度が高く、独自のアパレルにもファンが多いハーレーダビッドソンは、バイクにあまり馴染みのない『ごく普通の人』にも大変な人気を博しています。バイクの知識がない人はもちろん、今日ハーレーのことが気になり始めた人、そしていまハーレーが好きで好きで仕方ない人たちも満足のいく情報を詰め込んだ雑誌が『クラブハーレー』です。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

決して真似できない新境地。18金とプラチナが交わる「合わせ金」のリング

  • 2025.11.17

本年で創業から28年を数える「市松」。創業から現在にいたるまでスタイルは変えず、一方で常に新たな手法を用いて進化を続けてきた。そしてたどり着いた新境地、「合わせ金」とは。 硬さの異なる素材を結合させるという、決して真似できない新境地 1997年の創業以来、軸となるスタイルは変えずに、様々な技術を探求...

この冬買うべきは、主役になるピーコートとアウターの影の立役者インナースウェット、この2つ。

  • 2025.11.15

冬の主役と言えばヘビーアウター。クラシックなピーコートがあればそれだけで様になる。そしてどんなアウターをも引き立ててくれるインナースウェット、これは必需品。この2つさえあれば今年の冬は着回しがずっと楽しく、幅広くなるはずだ。この冬をともに過ごす相棒選びの参考になれば、これ幸い。 「Golden Be...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

Pick Up おすすめ記事

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

決して真似できない新境地。18金とプラチナが交わる「合わせ金」のリング

  • 2025.11.17

本年で創業から28年を数える「市松」。創業から現在にいたるまでスタイルは変えず、一方で常に新たな手法を用いて進化を続けてきた。そしてたどり着いた新境地、「合わせ金」とは。 硬さの異なる素材を結合させるという、決して真似できない新境地 1997年の創業以来、軸となるスタイルは変えずに、様々な技術を探求...

「アイヴァン」からニューヨークに実在する通りの名前を冠した新作アイウエアコレクション登場

  • 2025.11.21

ニューヨークに実在する通りの名前を冠した「アイヴァン」の新作コレクション。クラシックな要素をサンプリングしながらも現代の空気感を絶妙に捉え服と同等か、それ以上にスタイルを左右する究極のファッショナブルアイウエア。 Allen 2023年、NYに誕生した「ビースティ・ボーイズ・スクエア」。その付近で出...