青野賢一|音楽、ファッション、映画、文学、美術などを横断的に論じる文筆家。また選曲家としての歴も長い。著書に『音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットーミュージック)がある。
シャツの持つ品格が着こなしに艶を与える
ここ数年、比較的オーソドックスでつくりのいいテーラードジャケットやスーツを着る際に意識していることがある。それは、1970年代後半の東京のメンズファッションのムードである。
1970年代後半の日本のメンズ・ファッションを語るにあたって、必ずといっていいほど引き合いに出されるのは1975年に出版された『Made in U.S.A catalog』(読売新聞社)と、その成功をもとに1976年に創刊された『ポパイ』(マガジンハウス、当時は平凡出版)だろう。ご存じのとおり、いずれもアメリカのウエアやギア、そしてそれを身につけまた使用するアメリカの人々とそのライフスタイルを紹介するものであり、これらをきっかけにファッションを含むアメリカ文化にのめり込んだ人も多い。
ただ、みんながアメリカにかぶれていたわけではなかった――とりわけ東京において――は、以下に引く菊池武夫(ファッション・デザイナー)の言葉を読むとよく理解できる。すなわち「当時のメンズ業界はアメリカンアイビーリーグの影響を強く打ち出していたVANの全盛期が過ぎ、一般的には具体的に何が来るのかわからない混沌とした状況であった。JUNの台頭もあり、ヨーロッパ的メンズファッションも浸透してきてはいたが、まだ先は見えない」(菊池武夫著、マガジンハウス刊『菊池武夫の本』)。これは菊池が「メンズ ビギ」を立ち上げた1975年を振り返っての話。
そんななか発表したスーツは「上半身はぴったりフィットしたダブルブレスト、その下のパンツは腰回りはぴったり、裾幅ゆったりのバギーパンツ」(同前掲)で、テレビドラマ『傷だらけの天使』放映と重なっていたこともあり、同ドラマにしびれた若者を中心に人気を得たという。一般的なビジネスウエアとは異なるムードを放つこのスーツを、当時の若者が「アンタらみたいなサラリーマンにはならないよ」と思って着ていたかどうかは定かではないが、そこはかとなく香るナイト・カルチャーの匂いと職種の多様化を想起させるところが実に東京らしい服だ。
こうした「東京テイスト」を感じる服とスタイリングでいうと、加藤和彦『それから先のことは…』とサディスティックス『We Are Just Taking Off』のレコード・ジャケットが頭に浮かぶ。1976年リリースの『それから先のことは…』の加藤はヴィヴィッドな色合いのジャケット&トラウザーズの足元に「アディダス」のカントリーといったいでたち。派手なテーラードをさらりとスポーティかつエレガントに着こなしている。サディスティックスで注目したいのは高橋幸宏のスタイリング(裏ジャケットのほうがよくわかる)。1978年リリースということで、洗練されたテーラード・スタイルがシックでいい。


わたしがテーラードを着る際にはこれらの雰囲気をイメージしているだが、それにあたり参考になるのが同じ時代のデイヴィッド・ボウイのスタイル。ジギー・スターダストの頃のようなインパクトがないのであまり話題にならないが、オーセンティックなアイテムを艶っぽく現していて素晴らしいのだ。では、そんなムードを取り入れるときに自分が気を配っているのは何かといえば、堅くならないこと、控えめでシックかつ艶っぽいこと、パンツにボリュームを持たせること、そしてインナーには必ずシャツを選ぶようにすることである。
今回ご紹介しているシャツは「ランバン コレクション」の2024年秋冬シーズンのもの。英国製のワイドスプレッドを範としているが、もとはフレンチ・ブランドらしい色合いがいい。これをサラッとノータイでジャケットに合わせるのだ。シャツのボタンは軽やかに2つ開ければエレガントかつシックにまとまる。カットソーやTシャツではこうはいかないだろう。そう考えると、わたしが意識しているレイト70sの東京テイストの具現化には、シャツというアイテムの持つ品格や背筋が伸びる感じが必要不可欠といえるのかもしれない。

(出典/「
Photo/Norihito Suzuki Text/Kenichi Aono
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