『マイ・プライベート・アイダホ』アウトドアジャケットは、生きるためのシェルター
孤独で居場所を見つけられず、行き場のない日々を送るリヴァー・フェニックス扮する主人公。劇中でよく着用してたのが、赤いコットン製のハンティングジャケットだ。彼はストリートで生きる男娼で、衣服はファッションではなく生き延びるための道具。ストリートで寝泊まりしたり、旅を続けるうえで、使い込まれて色あせたジャケットこそがリアルな道具ということ。程よくヴィンテージ感もあるため、真っ赤のパンツと組み合わせても違和感がない。画としてもアイダホの荒涼とした大地に映えるし、キアヌ・リーブスの比較的落ち着いた装いと対比できるのも面白いよね。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』当時の空気をまとった装いは、時代を超えて物語る
かの有名なボブ・ディランのフォークからエレクトリックへの転向を描いた伝記ドラマ。ここでポイントとなってくるのが、音楽の方向性とともにボブ自身の装いも大きく変化するという点だ。スタイルそのものが思想の延長線上にあるのが面白い。その中でも、僕ら編集部のお気に入りは、やっぱり初期フォーク期のアメリカンな出で立ち。ストレートジーンズに、スウェードのジャケット、ウエスタンブーツといった今でこその王道スタイルが、当時のニューヨークの若者やフォークシーンに与えた影響は計り知れない。今でもコーディネイトの基本形として生き続けるって凄い。
『インヒアレント・ヴァイス』70年代初頭のヒッピー文化を体現
ヒッピー探偵を演じたホアキン・フェニックスの服装は、時代そのものを映している。ファティーグジャケットにサイケデリックなシャツ、コーデュロイパンツといった、伝統的なノワール探偵像をひっくり返すアンチスタイルだ。ポイントは力の抜け方にある。ジャケットはきっちりではなく“着崩す”。パンツはスリムではなく“フレアで揺らす”。そこに色や柄を思い切って差し込むことで、時代を超えたカウンターなムードが生まれる。彼のスタイルは、過去のカルチャーをただ懐かしむのではなく、「抜け感と遊び心」を持って現代にアップデートするヒントなのだ。
『ラスベガスをやっつけろ』自由で無秩序なスタイルの中に潜む、独自の哲学
ジョニー・デップ演じるラウルのファッションは、まさに“狂気と自由の象徴”。彼の精神状態や人生観を反映している。シガレットホルダーや取材用のカメラを持ち歩き、彼が目指しているのは記事ではなく“冒険”のようだ。着こなしは、派手で雑然としていながらも、どこかで本物のジャーナリストらしさを感じさせる不思議な魅力を放っているの。そして彼の特徴的なアイテムとして、カラフルなパッチが散りばめられジャケットがある。派手な花柄シャツやバケットハット、サングラスと合わせることで、不思議とまとまりが感じられ、強烈な個性を際立たせている。
『リバー・ランズ・スルー・イット』スーツを脱ぎ捨て、川の流れに身を任せる
当時は当たり前だったかもしれないが、綿パンやレザーブーツを履いて川にザブザブと入って釣りをする姿は、現代のアウトドアのイメージとは大きく異なる。今では、化繊素材のウェアや防水機能を備えたギアがアウトドアには欠かせないものとされているが、本作品の兄弟たちの服装は、むしろその時代のシンプルで実用的な美学を感じさせる。スーツやドレスアップした服装は、社会的に“オン”の服装だが、兄弟が大好きな釣りを楽しむときの装いこそが、彼らにとっての一張羅であり、心を開放し、自然と一体になるための装備として機能しているのだ。
『ファントム・スレッド』完璧主義者が見せる柔らかさ素材感の魅力
ダニエル・デイ=ルイスがウィンドウペーン柄のカントリースーツを着ているシーンは、彼の普段のカチッとした仕立て屋としての服装とは一線を画し、よりリラックスした印象を与える。完璧主義的な姿勢を和らげ、彼の人物像に新たな深みを加えている。普段、彼が身にまとっているのは、シンプルでありながらも非常に緻密なデザインのスーツ。シルエットは完璧だが、ウィンドウペーン柄のカントリースーツは、より柔らかな雰囲気を醸し出す。緩やかなラインと、ウールの天然素材感は、都会的な洗練を残しながらも、田舎の優雅さや温かみを感じさせる。
『her/世界でひとつの彼女』近未来といえど、暖かみのある服を着ていたい
近未来のAIとの恋を描いた本作の衣装担当者は、未来を描く際に一般的な無機質なデザインは避けたそうだ。現代の衣服をベースにしつつ、色調やシルエットで未来感を表現したという。ホアキン・フェニックスの衣装は、深紅やマスタードイエローなどの暖色を多用し、控えめな性格ながらも情熱的な心を秘めていることが伝わってくる。それに合わせるのはモノトーンのトラウザー。彼の知的で冷静な一面を表し、未来的なミニマルデザインを体現する。シンプルでありながら洗練された美しさが強調され、物語のトーンにぴったりと合ったスタイリングが施されている。
『ブレードランナー』未来の都市に溶け込む、昭和感漂う男のスタイル
レトロフューチャーを体現した世界観の中で、ハリソン・フォードの着こなしもまた、いわゆる典型的なSFのイメージとは外れる。雨が降りしきるネオン輝く未来都市では、100%近未来のイメージに振った衣装よりも、むしろ昭和感のあるシルエットや、いなたい色選びのバランスがよい。主に黒やダークブラウンの色合いで統一された服装は、彼のキャラクターをさらに引き立て、未来的で荒廃した都市の雰囲気に溶け込んでいる。重厚感のあるコートに、地味なベースカラー、切り替えのあるトップスが組み合わさることで、ハードボイルドでどこか懐かしい印象となる。
(出典/2nd 2025年11月号 Vol.214」)
Text/Joji Sakaguchi
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