ファッションの分野からアーティストへ転向。服飾の技術を活かしながら生み出される、山口大樹のファンタジックな世界。

ビジュアルで魅了する各界のクリエイターに迫るTHE VISUAL PERFORMER。今回は3月に渋谷で個展を開催したばかりのアーティスト・山口大樹さんが登場。ストーリーを感じさせる作品を絵画や立体作品などで表現する山口さんは、もともと歩んでいたファッションの分野から、数年前にアーティストへと転向。服飾の技術を活かしながら生み出される、ファンタジックな世界の原点とは。

写真/個展会場にて。インタビューのために持ってきてもらった立体作品。左は実際に被れる王冠型の作品、赤いドラゴンのぬいぐるみは高さ50センチほどもある。

自分が見てきた物語の世界の一部を作品として表現している

今年3月、渋谷パルコにある「OIL by 美術手帖ギャラリー」で個展を開催した山口大樹さん。ギャラリーの壁一面に大小の絵画が並び、その鮮やかで楽しげな作品に多くの人が足を止めて見入っていた。美術大学ではテキスタイルを専攻し、ファッションの道を歩んでいたが、手作業でしかできないことを極めようと数年前にアートの世界へ。服飾の技術や知識と、持ち前の色彩感覚が存分に発揮された作品は、キャンバス、ぬいぐるみ、紙粘土の立体など多岐にわたる。ジャンルを軽やかに行き来する山口さんに、最新の個展からその創作の源について話を聞いた。

アーティスト・山口大樹|1994年神奈川県生まれ。2016年多摩美術大学卒業。2019年、kit gallery(東京・原宿)で個展を開催。2022年、カイカイキキ主催のアートコンペ「GEISAI#21」に参加。2024年3月、OIL by 美術手帖ギャラリー(東京・渋谷)で個展「HUMANS SLOWLY BUILD A LONG SOUL」を開催。Instagram: @daiki_yamagucci

── 今回の個展のテーマについて教えてください。

今回は、過去3年間の作品を展示しました。ただ、もともと明確なテーマがあったわけではなく、展示が決まってから「核となるものが必要なのではないか」と考え始めました。しかし、なかなかしっくりくるテーマが見つからず、とにかく描き続けることで答えを探していました。その過程で、自分の作品に対する基準が変化し、より厳しい目で見るようになりました。そうして作り上げたものを今回発表したのですが、実際に展示をしてみて、ようやく「こういうことだったのか」と気づいたことがあります。それは、もともと好きだったファンタジーやSFの物語、映画の影響が、自分の作品にも表れているということです。キャラクター的な要素や空想のモチーフが含まれていて、ある意味、自分が見てきた物語の世界の一部を作品として表現しているのかもと感じました。決まった意思やコンセプトがあって作っているというよりは、できあがったものが勝手に動いているという感覚ですね。

── 子どもの頃から空想の世界に惹かれていたんですね。具体的にはどんな作品が好きでしたか?

「かいじゅうたちのいるところ」の作者モーリス・センダックや、もともとファッションが好きだったので、特に高校生の頃は、ファッションデザイナーのクリストファー・ネメスから影響を受けました。ちょっと奇抜だけど、世界観がかっこいいファッションデザイナーの人が好きで。ほかにベルンハルト・ウィルヘルムのような、自分の世界観があり「これ普通に着れるのかな?」というようなものを作っている人にも憧れました。そういう影響が、自分の作品にもあるかもしれないですね。今作っているものがどこからインスピレーションを受けているかをひと言で説明するのは難しいのですが、いろいろ見てきたものが合わさっている感覚です。

── ファッションに興味を持ちつつ、アートの道に進んだ理由はなんだったのでしょう?

服の仕事に携わってみて、服は量産しなきゃいけないという考えがずっとあって。でも、自分は一点一点を自分の手で作るほうが好きだなと思うようになりました。デザイン画を描いているときに「絵を描くのが楽しい」と感じることが増えて、一枚ちゃんといい絵を描けるようになりたいと思うようになりました。そんなときにフランシス・ベーコンの作品を見て「こんなすごい絵が描けたらいいな」と思ったのも大きかったですね。それで、大学を卒業してから少しずつ絵を描き始めました。

──個展の作品ではアクリル絵の具や布を使ったり、額装を自作するなど、さまざまな素材や技法が使われていますね。どのように選んでいるのでしょうか?

その時々で手近にあるものを使っています。例えば、ぬいぐるみなら、もともと自分が着ていた古着に、古着店で見つけた「作品にしたい」と思った服を加えたり。額も、発注すると費用がかかるので「じゃあ自分で作ろう」と思って近所のホームセンターで素材を探したり。思いついたらまずやってみる、という感じですね。

──個展のステートメントの中で、「環世界」というキーワードが出てきました。環世界はどういった経緯で出てきたのでしょうか。

「環世界」は、生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した生物学の概念です。動物はそれぞれ種特有の知覚世界をもって生きており、普遍的な時間や空間も、主体にとって独自に知覚され、その感覚をもとに行動しているという考え方です。アーティストも、それぞれの視点で表現を行います。僕の場合、雲の形に動物を見たり、壁の染みに顔を見たりするように、蓄積された記憶をたどりながら絵を描いています。それが僕にとっての「環世界」であり、見聞きした事物の投影として確かに存在するものなんです。「環世界」という言葉自体は、昨年展覧会のテーマを考えているときに読んだ本のなかで見つけました。ダニやイソギンチャク、ツバメなど、生物それぞれに時間の流れや感じ方が異なるように、人間にも個々の世界があるのでは、と思ったんです。

── お客さんの反応はいかがでしたか?

いろいろな感想をいただきました。「気持ちが軽くなった」とか「色使いが楽しい」と言っていただけたことが嬉しかったですね。制作中はネガティブになることもありますが、描き上がるとなんとなく浄化されたような気分になるんです。その感じが伝わったのかなと思っています。アートを見ることや、作品を作ることが、自分にとって楽しいことであり、癒やしなんです。あまり物事を楽しめるタイプではなかったのですが、作品を描いているときは夢中になれました。

この記事を書いた人
2nd 編集部
この記事を書いた人

2nd 編集部

休日服を楽しむためのマガジン

もっと休日服を楽しみたい! そんなコンセプトをもとに身近でリアルなオトナのファッションを提案しています。トラッド、アイビー、アメカジ、ミリタリー、古着にアウトドア、カジュアルスタイルの楽しみ方をウンチクたっぷりにお届けします。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

上質な馬革をシンプルに愉しむ。石炭(COAL)を運ぶために使われていたコールバッグという選択肢

  • 2025.12.27

きめ細かく美しい銀面を持つことで知られる馬革。軽くて強靭、上品な質感、そして使うほどに味わい深い経年変化で、多くのレザーファンたちを魅了し続けてきた。そんな馬革をシンプルに愉しませてくれるのがINCEPTIONのコールバッグだ。 ヴィンテージをベースに、実用性を加味し再構築。 19世紀末から20世紀...

デニム界の異端児・ラングラー、製造期間は約1年のみの“幻の名作”がついに復刻

  • 2025.12.27

ロデオ・ベンをデザイナーに迎えてカジュアルウエアに参入したという歴史やカウボーイカルチャーとの結びつきなど、独自の発展を遂げてきたラングラー。膨大なアーカイブの中から、王道から希少な隠れ名作まで全6型が復刻を果たした。 幻の名作が華麗なる復刻を遂げた。 アメリカ三大デニムブランドのなかでも特異な歴史...

オリジナル建材で古民家をスタイリッシュにリニューアル! ビフォーアフターを大公開!!

  • 2025.12.28

2025 年の夏の時点では床だけが施工されただけの古民家を再び訪れると、当時とはまったく違う姿になっていた。カントリーベースはこの家にどんな魔法をかけたのか? 何でもない空き家が宝物なる材料と技術 [caption id="attachment_887933" align="alignnone" w...

【KERRY WOOLLEN MILLS×2nd別注】本物のアランは暖かさだけじゃない! アランケーブル クルーセーター登場

  • 2026.01.24

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【KERRY WOOLLEN MILLS×2nd】アランケーブル クルーセーター もともとは海の男たちを守るための、...

「ORGUEIL」が提案する、凛冬を彩る大人のガーメンツ。

  • 2025.12.26

凛とした寒さが日に日に増し、コーディネートが重くなりがちな季節。クラシックなデザインと丁寧な作り込みのORGUEILのクロージングが、いつものスタイルを格上げしてくれる。さりげなく上質で存在感のある一着が、冬の日々を彩ってくれるはずだ。 Aniline Steer Oil A-1 Jacket 19...

Pick Up おすすめ記事

アメリカンヴィンテージやヨーロッパのアンティーク品や建築物からインスパイアされた「ホリゾンブルー」のジュエリー

  • 2025.12.28

宝飾品と呼ぶべき繊細で美しいジュエリーを世に送り出し、国内外で人気を集めるHorizon Blue Jewelry。アメリカンヴィンテージだけでなく、ヨーロッパのアンティーク品や建築物など様々なものからインスパイアされた逸品は、大量生産できないため入手機会の少ない希少な存在だが、ここでは今後発売する...

ヘビーデューティど真ん中! レトロなデイパックに注目。

  • 2026.01.26

1977年に発売された『ヘビーデューティの本』という名著をご存知だろうか。当時数々の雑誌で、イラスト・ルポ(自ら現地に赴いて取材した内容をイラストを用いながら報告すること)を描いていた小林泰彦さんが手掛けた1冊で、いまだファッション好きにとってのバイブルとなっている。ヘビーデューティとは、「耐久性が...

日本屈指のインディアンジュエリーブランドが放つ、美しき馬蹄のシルバージュエリー。

  • 2025.12.24

日本屈指のインディアンジュエリーブランド・ファーストアローズがこの冬新たにリリースした「馬蹄」を象った「ホースシュー」シリーズ。奇しくも2026年は午(うま)年。ファッション面だけでなく、来年こそは飛躍を願う人にとって最高の開運アイテムとなるはずだ。 新作「ホースシュー」シリーズを一挙紹介! 1. ...

こんなコスパのライダース、見たことある? 「中田商店」のオリジナルブランドのライダースを侮るなかれ!

  • 2025.12.29

東京・上野にある老舗ショップ、中田商店。そのオリジナルブランドが「モーガン・メンフィスベル」だ。中田商店というと、ミリタリーのイメージが強いが、モーガン・メンフィスベルでは、ミリタリーをはじめ、様々なレザーウエアを展開している。もちろん、ライダースのラインナップも豊富。今回は珠玉のライダースを紹介す...

映画で観た欧米のクラシックな世界観をモダンに昇華。“好き”が詰まった空間で暮らす!

  • 2025.12.30

衣食住は、私たちが生活するうえで必要不可欠な要素である。なかでも日々の生活と最も密接に結びつく住居には、ひと際こだわりたいもの。自分のお気に入りの空間を作るための選択肢のひとつに、リノベーションがある。 “三人四脚”で作り上げた理想の居住空間 兵庫県芦屋市。豊かな自然と落ち着きのある街並みから関西で...