「アイネックス」並木孝之さん
本格ネクタイの製造から、国外ブランドの輸入販売代理を務める「アイ ネックス」の商品戦略部リーダー。 Instagramでは、自身こだわりの スタイルを頻繁に発信している。
スタイリスト 四方章敬さん
1982 年京都生まれ。スタイリスト武内雅英氏に師事。独立後は『LEON』 をはじめ、数多くのメンズ誌から引っ張りだこの人気スタイリスト。意外とアメトラスタイルも大好物。
ライター 小曽根広光さん
『メンズEX』の編集部に所属ののち、フリーの編集/ライターとして独立。 ドレススタイルに対する並々ならぬ知識と情熱を活かし、数多くのメンズ誌で活躍している。
【テーマ①】昨今のドレストレンド事情。
これまでアメカジなどカジュア ルな装いを中心に、トラッドスタイルなどにコミットしてきた2nd本誌。一方メンズシーンの世界的なカジュアル化の影響を受けて、ドレススタイルのなかにもアメカジやモード、それにスポーツの要素が持ち込まれだしている。
そしてそのムーブメントに影響を受けたカジュアリストたちが、ドレススタイルに足を踏み入れるという流れが広まりつつあるという。つまり、2nd本誌の世界観とドレスシーンのかつてない接近が感じられる状況なのだ。
そこで、現在メンズシーンで活躍するドレスな賢人の集まりにこっそりジョイン。彼等が繰りだすドレストークから、2ndスタイルを進化させるキーワードを聞き出してみようという算段だ。今宵訪れたのは恵比寿のシックなバー。オトナのお洒落スタイルを聞きだすのにベストな場所だ。お気に入りのお酒を前に、賢人達はいつもより饒舌に語り始めた。
編集部 2ndがドレススタイルに興味を向けだしたのは、メンズシーンのカジュアル化トレンドにも少し関係があると思っています。また、カジュアルなセットアップ・スーツなどが非常に増えたのも切っ掛けとなっている気がします。そこで、まずはシーンに詳しい識 者の方から、リアルなドレススタイルの状況をお伺いしたいと思います。
小曽根 ドレスのカジュアル化傾向に関しては、いろいろな要素があって、地球の温暖化やパンデミックの影響等だと説明する人もいます。
四方 より快適に過ごしたいという大きなニーズが、そのベースに なっていると僕は思っています。
並木 それによってアンタイドスタイルやストレッチウエアなどが 急速に広まっていきました。
小曽根 ITメディアなどの新しい産業が台頭し、封建的な背景を持たない新時代のエグゼクティブは、スポーティな装いで働くことにも抵抗がないですからね。そういった人達のニーズも少なからず影響しているように思います。
四方 読者年齢層高めのファッション誌のスタイル提案では、スーツではなくセットアップ特集のほうが昨今は多いくらい。
並木 銀行員であっても夏ならTシャツ姿で出勤するご時世ですからね(笑)
小曽根 ジャケットすらヘビーと言うことで、カーディガンをジャケット風に着こなす提案なども見
掛けますよ。
四方 最近で言えば、ドレスブランドがアメカジ要素を取り入れだしたのも、トレンドと言えばトレンド。スタイル的にもスーツにダウンベストや、スーツにベースボールキャップを被るようなスタイルにも注目が集まりだしています。
並木 そうそう、スーツにアウトドアウエアを合わせるような着こなしも、今っぽい着こなしと言えるのではないでしょうか。
四方 逆に本来のドレススタイルが非日常的なモノとなり、趣味の特別な装いとして注目される流れも出てきましたね。
小曽根 ハイクラスなスーツをオーダーする30代男性なども増えていると聞きます。
並木 ひとつの新しいモードとして、ドレススタイルがまたぞろ注目されている部分は確かにあるでしょう。
【テーマ②】カジュアルスタイルから学んだこと。
編集部 そんなカジュアル化が著しいドレスシーンとのことですが皆さんにおいてドレスのコーディネイトを構築する上で、カジュアルの流儀を取り入れることはあるのでしょうか?
並木 そうですね。その質問をいただいたとき、当初はないだろうと思いました。しかし“サイズ感”については、カジュアルのそれを意識することがあります。オーバーサイズとはまでいきませんが、ちょっと今風にユルく着てみたいと思ったとき、カジュアルのサイジングを流用しているように感じます。
四方 ドレスシーンで用いられるカラーは、ある意味種類が限られています。しかしカジュアルシーンに関しては、非常にその範囲が膨大。極端な例で言うと、蛍光カラーなどはドレス系では使われません。ただ、あえてそういったイレギュラーなカラーをドレスコー ディネイトに取り入れて見る。そういったことを僕も時々実践しています。
小曽根 レイヤードに関しても、カジュアル手法の流用がドレスの現場でも幾つか見られるような気がします。例えばタイドアップにラグビーシャツを被せるなどなど。なかでも特に顕著にカジュアル化が表れているのがアウターだと思っています。
四方 そう。本来スーツの上に羽織るアウターと言えば、クラシカルなコートが定番。しかし最近はダウンやテック系アウターの合わせも普通になってきました。それに最近、街中でよくスーツの上にバブアーを重ねる人を見掛けます。ああいったスタイルは、恐らくカ ジュアルからの発想だと僕は思っています。
並木 昨今はテクニカルな化繊系素材を用いたアイテムを軸とする、スポーツやアウトドア系ミックスも盛んに行われていますね。
編集部 そういったカジュアル手法の導入というのは、いわゆる“崩し・ハズし”のテクニックと言えるものでしょうか?
四方 そう言えるモノと、そうで はないものがあると思います。
編集部 なるほど、恐らく単純な話ではないだろうと思いまして、今回は特別に皆さんのお気に入りのハズしコーデをご用意いただきました。
四方 まず僕が用意したのは、誰にでもできるカジュアルなハズし と言えるコーディネイト。スーツはダルクオーレのパターンオーダーで、素材、シルエット的にも 英国的な仕立て。そこにダブルポケットのワーク風シャンブレーシャツを合わせています。ドレスに ラギッドなアイテムを取り入れるという、比較的誰にでも実践しやすいスタイリングです。
ただしストライプタイはいわゆるアメトラ直球のレジメン系ではなく、スーツやシャツの色合いに馴染む穏やかなカラーのストライプ柄をチョイスしています。あまり大声で「ハズしてますよ!」という感じではないのが自分流なので(笑)
編集部 確かに上着のボタンを留めたら、一瞬普通のドレススタイルとの違いが分からない人もいるかもですね。そして、これならスーツビギナーでも自分らしく真似ができそう! 小曽根 僕が今回用意したコーデも、ベースはグレースーツで生地はヘリンボーンというオーセンティックな一着。同じく細かいグレーストライプのシャツにブラックのナロウタイという合わせがポイントです。
ご存知のように、いわゆるクラシックシーンでは、ブラックタイはフォーマル寄りのアイテムであり、日常のドレススタイルでは使われてきませんでした。ある意味モードなテイストのブラック&シャ ープな細身タイの導入が、ハズしとなっているのです。
ただこの要素だけですと、どうしてもお葬式や半端なモードスタイルと誤解されかねません(笑)。なので、あえてワンポイントあるブ ラックタイにすることで、クラシックをハズしたものであること を、さり気なくアピールしてい るのです(笑)
編集部 なるほど。パッと見では普通にシックなコーディネイトに見えますが、そういった配慮が組み込まれているんですね。
並木 僕のコーデはソラーロスーツをベースに、タブカラーシャツにスカーフタイを取り入れたスタイリング。まあ説明するまでもなく、一般的なネクタイではなく軽やかなスカーフタイを結んでいるところがハズしのポイントです。
編集部 このコーデに関しては僕にもはっきり分かりました(笑)。 スーツスタイルでありながら、実にキレイでフレッシュな感じがします! こちらのスカーフはドレスシーンでは定番のものですか?
並木 いえ、この巻き物はアスコット・タイとスカーフをミックスさせたようなデザインで、僕が企画したアイテム。ネクタイに変わるエレガントなVゾーン用の小物を作りたいと考え編み出しました。写真のようにタブカラーシャツと 合わせると、引き締まりつつフワッと広がるメリハリある胸元が作りだせます。
(出典/「2nd 2022年10月号 Vol.187」)
Photo/Satoshi Ohmura Text/Tsuyoshi Hasegawa 取材協力/アーティーズ モヒート ラボラトリー TEL03-5860-2836
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