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タンザニアの乳幼児死亡率をアプリの力で下げる【Mother to Mother SHIONOGI Project】

  • 2024.01.10

塩野義製薬のCSR活動のひとつである『Mother to Mother SHIONOGI Project』と、キャスタリアのAfrican Mothers、そして京都大学の原田英典准教授がタッグを組んで、アプリを開発。アプリの力で、タンザニアの乳幼児死亡率を下げようという活動を開始した。

元電通マンが、タンザニアの母子死亡率を下げることに取り組む

基本的には、人は自分のメリットのために行動する。筆者もそうだ。自分が利益を得る方法を考えて行動しないと生きていけない。

しかし、時に人は他人のメリットのために行動する。社会に貢献しようとする。人の幸せを、自分の幸せのように感じることもある。世界の幸せの総和が増すことが、結局のところ、我々自身を幸せにする……ということもあるかもしれない。

「僕ね。残りの人生のライフワークとしてタンザニアの母子の死亡率を下げることに取り組もうと思っているんですよ」と、筆者に話してくれたのは、African Mothersの代表取締役である川端康夫さん。川端さんは元々電通で20年ほど勤めて、その後KDDIで新規事業開発に携わられた。筆者がお会いしたのはKDDIにいらっしゃる時。10年あまり前だ。

その後、ご自身がいろいろな新規事業に携わるようになり、EdTech(教育テクノロジー)の会社であるキャスタリアの取締役も務めている。African MothersもキャスタリアからスピンアウトしたEdTechとMedTech(医療テクノロジー)の中間的な事業だ。

1000回の出産で、5人のお母さんが亡くなる現実

「タンザニアの妊産婦死亡率がどのぐらいかご存知ですか? 10万人あたり524人です(2017年)。つまり、おおよそ1000人あたり5人。日本でいえばちょっと大規模な小学校ぐらいの人数の中で5人が亡くなる。これはあまりに多い。たとえば、日本だと10万人あたり5人。1/100です。十分な教育と医療があれば、これらの人たちは亡くならずに済むんです」と、川端さん。

子だくさんな国だから、お母さんが出産で亡くなると、多くの先に生まれた兄弟姉妹たちが、母親のいない子として残される。それも、問題だし、悲しいことだ。

筆者はタンザニアに行ったことがないし、リアリティはあまりなかったが、それでもそんなに多くのお母さんが亡くなるのは辛い話だと思う。ちなみに、タンザニアはアフリカの東岸、ケニアの南側のある国。ケニアから見えるアフリカの最高峰キリマンジャロも、実はタンザニアにあるものらしい。

人口は急速に増えており、現在約6000万人なのだが、2050年には、現在の日本の人口を超え1.3億人を抱えることになるのだそうだ。

川端さんは、この国のお母さん、子供たちの不幸を少しでも減らそうとしている。

お母さんの出産に関する知識を高めるAfrican Mothers

多くのお母さんが亡くなる原因のひとつは、お母さんたちの出産に対する知識が少ないことにある。

WHOの推奨する妊婦検診受診回数は8回なのだそうだ。日本の平均は14回。しかし、タンザニアのお母さんたちは、平均で3〜4回。中には、出産の時に初めて産院に来るような人も少なくないのだという。それでは知識が少ないのも当然だ。

妊婦検診の病院は大変混雑していて、長い間待たなければならない。つわりで辛い時に、そんなところに行くのは大変だ。だから、妊婦検診に行かないのだという。

African Mothersは『Taarifa za Mama(ママの記録)』というアプリを開発、提供している。このアプリは、『母子手帳』のような記録アプリとして、お母さんにとっては妊娠の記録を残せて、助産師にとってはカルテなような役割を果たす。さらに、さまざまな妊娠・出産に関する知識を提供する教育アプリとしての機能も持っているし、掲示板のように質問をして、回答を得ることのできるコミュニケーションアプリとしての機能も持っている。

お母さんたちは知識を得ることができるし、産院の負担は減り、混雑が解消し、本当に産院の手助けが必要な人に社会資本を集中することができる。教育が人の命を救うことができるのだ。

(ちなみに、貧しくてトイレも十分に普及していないような地域にも、スマホは普及しはじめているのだそうだ)

衛生環境が悪いと、多くの子供たちが下痢で亡くなる

一方、塩野義製薬は、アフリカで母子支援活動を行ってきた。出産環境の改善、電気、水・衛生などのインフラ改善も含む衛生環境、医療環境の改善に取り組んできたのだ。

その第3期の活動として、子供の下痢症の低減が掲げられた。

タンザニアの5歳未満児の死亡者数は年間510万人にも及ぶ(日本は1930人/2021年)。そのうち、死亡原因の30%近くを占める早産、出生児仮死などを除くと、ほぼ同率2位が8.7%となっている下痢症だ。

子供の消化能力の形成は出産後1000日に行われるのだそうだ。その間の衛生状態が良いかどうかは、5歳児未満の死亡率を大きく左右する。しかし、衛生的な水を得られず、トイレ設備が十分でなくて、目には見えなくても雑菌がトイレの床などから他のエリアに広がって汚染されているような状態ではしばしば問題解決が難しくなる。

たとえば、衛生的な水だけを供給しても、トイレ設備だけを作っても問題は解決しないことが多いのだそうだ。意外と水は清潔でも、備蓄しているタンクなどからは大腸菌が検出される。トイレの床を掃除する。手を洗う。食器やコップを洗う……などの習慣の教育が大切なのだそうだ。これられは、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科の原田英典准教授の研究で示唆されている。

母親の衛生知識が、子供たちの下痢罹患率を下げる

母親の衛生知識が向上することで、子供たちの下痢罹患率は低下する。単に、作法を強制するだけでは知識は増えるが衛生行動が持続しない。教育を届けていくことが大切。母親の知識と、認識レベルの向上が、子供の下痢有病率を大きく低下させる。

そこで、African Mothersと、塩野義製薬のMother to Mother SHIONOGI Project、京都大学の原田英典准教授が協力して取り組もうとしているのが、母子手帳的アプリである『Taarifa za Mama』への、下痢予防コンテンツの追加である。

コンテンツはすべてスワヒリ語にローカライズされる。文字を読めないお母さんのために、音声での再生もできるように作られる。また、既存の『Taarifa za Mama』に挿入されているイラストは、日本人が描くと違和感があったり、納得感が低下したりするかもしれないのでタンザニアの人が描いている。その工夫は下痢予防コンテンツにも活かされる予定。

CSR活動とは何なのか?

筆者を含め、多くの人にとって、タンザニアは遠い国だし、「タンザニアの子供たちやお母さんの死亡率を下げることをライフワークにする」と言う川端さんのことを、最初は「ちょっと不思議な人だな」と思った。なにしろ、我々の前にだって問題は山積しているのだから。

でも、お話を聞いていると、タンザニアのお母さんや子供たちだって、ひとりひとり大切な命だし、川端さんたちの努力で救える命はおそらく長い目で見ると驚くほど多いと感じた(日本だって、昔は乳幼児死亡率は高かった。無数の川端さんのような人の努力で今の日本があるのだ)。そして、世界の貧困や格差、不幸せを減らしていくことは、ひいては世界を平和にして、我々自身の明るい未来に繋がっていくように思う。

筆者は、川端さんたちの活動を少しでも応援したいと思ってこの記事を書いた。みなさんも、この情報を共有していただけると幸いだ。

African Mothers
https://africanmothers.net

(村上タクタ)

 

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