ほぼ史上最高、2億2000万円超えの万年筆を握ってみた。

ほぼ史上最高の値段が付いた万年筆が目の前にある。値段は1本で軽く2億を超える。雑誌の記事を作るための撮影をまず始める。カメラとストロボの三脚のすき間越しに、レンズの前に万年筆をそーっと差し出す。その手はわずかに震えていた。上の写真はその時に撮影したものだ。

北極の氷の世界と探検家アムンセンの世界観を最高級のダイヤモンドとサファイアで表現。

2021年某日、「ハイアーティストリーが日本に来たので見にいらっしゃいませんか」と、モンブランから連絡が来た。このシリーズは世界限定10本以内で、価格は最低でも2000万円以上する。例年はお披露目のイベントが海外で開催され、そこには主要なVIPが世界中から招待される。しかしイベント開催が世界的に難しい状況となり、2021年は主要国を巡回することになった。この時は珍しく日本にやって来たのだ。2億超えの万年筆に触れる機会はまずない。もちろん、飛んでいきました。

ロアール・アムンセン リミテッドエディション1には「氷」というモデル名が付いている。参考価格は2億2062万円。北極の氷の世界と探検家アムンセンの世界観を最高級のダイヤモンドとサファイアで表現している。天冠にはバゲットカットした四角のダイヤを半球状に配置してイヌイットの住居を再現し、首軸には極地を含めた世界地図をダイヤで描いている。天冠を指で回すと外れて、中から5.1カラットの巨大なダイヤが出現する。

ペン先の仕様はモンブランの定番モデル「ル・グラン」とほぼ同じだそう。ル・グランは82,500円。みんなの憧れル・グランの2674倍の価値がこの万年筆のどこにあるのか。相変わらず震える手でキャップを外し、そーっと握り、紙面にペン先を落としてみた。価値をすぐに理解することはできなかったけれど、モンブランの職人が極限に挑戦し、意地と根性で作り上げた気合いは十分に伝わってきた。

軸に目を近づけて見ると、金無垢の不規則なフレームに合わせて四角いカットのダイヤモンドが美しく貼り付いている。これが1層目で、この上にアクアマリンを配置した2層めが乗っている。複雑な構造なのに、握る手に凸凹はほとんど感じない。宝石のカットが独特で、たぶん握る前提でカットの形状を工夫し、軸全体がなめらかなラインになるように計算してあるようだ。軸全体はかなりの重さだけど、軸の先にある首軸がかなり長く、重心は絶妙のバランスを保っている。

インクを吸わして書いてみたい、と心から思った。機能を超越した佇まいが筆欲を激しく揺さぶった。

(出典/「趣味の文具箱2021年10月号 vol.59」)

この記事を書いた人
清水茂樹
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清水茂樹

編集長兼文具バカ

雑誌「趣味の文具箱」編集長。1965年福島県会津若松市生まれ。文房具に関する雑誌の編集、オリジナル文具の開発を担当。2004年に「趣味の文具箱」創刊し、世界中の文具メーカーの取材を勢力的に続け、最新の文具情報を発信。筆記具や文房具の魅力と、手で書くことの楽しさを伝えている。
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