放送終了後の翌年に第2シリーズがスタートするも…

——『コレクター・ユイ』はグロッサーの人類支配の野望を阻止したところで一旦終了する。そして2000年に、コムネットに新たに出現して大騒動を巻き起こす「バグルス」との対決を描く第2シリーズが始まった。当初から2部構成だったのか。
麻宮騎亜(以下、麻宮) 最初は第1シリーズだけでした。第2シリーズの話が出たのはよかったんですけどね。まぁ、いろいろとありましたね。
——第2シリーズでは脚本が隅沢克之から西園 悟(※1)に代わった。
麻宮 西園さんのシリーズ構成と脚本はすごくよかったですね。本当に上手い方。もちろん隅沢さんもベテランだし、僕の企画書から上手くピックアップしてシリーズ構成をしてくれていましたし。隅沢さんにしても西園さんにしてもとても上手い方が脚本を書いているのでとてもよかった。隅沢さんのその第1シリーズと西園さんの第2シリーズでは色が全然違いますよね。監督が同じでもやっぱりにじみ出る作品の世界観とか設定もなんか温度差があります。西園さんはすごく日常感があるんだけど、温かいなかにも冷たいものがちょっと垣間見える。隅沢さんの方は結構全体的に元気というか。今もアニメのコンテとかやっていると、本当に脚本って大事だなあって痛感しています。
——アニメが進んでいくと脚本や演出の影響でキャラクターは肉付けされていく。麻宮にとって自身が考えていたキャラクターの印象の変化はあったのか。
麻宮 おもしろいと思ったのはやっぱり第2シリーズのiちゃんと篠崎 愛という2人の対比。そして空気の流れを中心にした周りのユイとコレクターズっていう、あの展開の具合は西園さんのプロの仕事を見ていた気分。また、如月春菜の性格づけは僕のイメージとは違ってる部分はあるけれども、だから駄目だということでは全然なくて。やっぱり人がいる分だけイメージはあるから。でも、春名にはもうちょっといい目を見せてあげてもよかったんじゃないかな。なかなかつらいことをやらされていて、実は意外と大変なキャラクターっていう気がします。
——麻宮のなかで、特に思い入れがあるキャラクターは誰だろう。
麻宮 春菜、愛、ユイの3人とも思い入れはありますね。ファイナルスーツのデザインとかその辺まで全部のデザインの原案をやっているんで。そういうのもあるし、春名のコスチュームも僕のデザインとは全く違うデザインで室井さんが上げてきちゃったんで僕のデザインから全然変わってる。しかも緑じゃないですか。まぁ、それがアニメ版ということで納得はしてます。でも僕のイメージではハルナは白。ユイが妖精で春菜が天使、愛がメイドというイメージなんですよ。思い入れという点では、このトリプルコレクターに尽きるんじゃないんですかね。
※1…脚本家。1989年にアニメ脚本家デビュー。代表作は『Z.O.E Dolores,i』(2001年)など。


放送25周年に合わせてデジタルリマスター版の配信スタート
——2000年にテレビ放送が終わると再放送もなく、2017年にDVDボックスは発売されたものの25年間には空白の期間もある。今このタイミングで、しかもデジタルリマスター版が配信されることにはどんな感想をもつのか。
麻宮 空白といっても僕はいろんなことで、ユイには結構関わっていました。DVDボックスのパッケージイラストを描きましたし、いろんなイベントとかを自分でやったりしていたので久々だという印象は全くない。今年は25周年だからいろいろ動くでしょう。綺麗になって、いろんな人に見てもらえるっていうのはすごくいいことだと思います。リマスターされる作品の方が少ないですからね。
——麻宮が自身で運営していたファンクラブの会報でユイを取り上げると、反響が大きかったという。ファンから本作に関する意見や感想で最も多かったものは。
麻宮 「早すぎた」と…。確かに『ユイ』の企画を立てた96年は、インターネット普及率がまだ20%ほどって言われていましたよね。当時はISDN回線だったから絵をネットで送るなんてなかなか大変で。94、95年からデジタル原稿だったけれど、当時のメディアのMOで渡しても印刷所が対応してないとプリントアウトして入稿していました。マーベルやDCコミックの仕事でアメリカに3週間ぐらいアパートを借りて活動していた時に、東京に画像を送らなきゃいけなくなって。しょうがないんで電話回線で送ったら、日本に帰ってきて電話料金明細を見たら14万円! 原稿料よりかかっちゃったんですよねぇ。
——『コレクター・ユイ』には腕に巻いて使用する通信機「コムコン」やバイザー型の機器「バーチャライザー」といったガジェットが登場する。こうしたアイデアの源はどこにあるのだろう。
麻宮 『サイレントメビウス』ではiPadみたいなのを出してました。ところで、映画『2001年宇宙の旅』(68年)にはもうiPadみたいなのが出ているんです。ディスカバリー号でボーマン船長たちがそれをテーブルに置いてニュースを見ながらご飯を食べて。後にそれがわかった時に「うわっ、すごいなこれ!」って。そうしたものを観てきたから、『コレクター・ユイ』の世界観は作れたんじゃないでしょうか。全くのゼロから自分で考えましたってことではない。やっぱりいろんなマンガ家をやってる以上は、アンテナは立てておかないといけない。

——今このタイミングで本作を初めてご覧になる方や昔からのファンの方へのメッセージを。
麻宮 これが25年前に作られたってことは一切気にしなくていいので、今の世界、今の時代にこれを見てほしいっていうのはありますよね。どんな感想をもつかというのは個々によるものですけれども、結構エモーショナルな作品だと思います。“魔法少女もの”と言いながらもあまり魔法の部分は強く出してないんですけれども、ユイ、春菜、愛、三者三様にいろいろなことが起こりますから彼女たちと登場するキャラクターにちょっと感情移入して見てほしい。あと、ユイって「結」って書くんで、人の縁を結ぶという視点で観ててくれれば。ユイのキャラクター名前にはネットワークもかけています。あんまり人に言ってないんですが、キャラクターの名前っていつもなんとなく直感でつけているのにストーリーやその性格とつながってくるんです。自分でも不思議ですね。

SF・メカニクスを中心とした原画展を開催
—— マンガ家、アニメーター、そしてイラストレーターとして活躍する麻宮が、SFメカニクスを中心に自らセレクトしたイラストの数々を展示する『麻宮騎亜メカニクス原画展「黒鋼 -KUROGANE-」』が3月16日まで開催されている。39年にわたる広範囲な仕事ぶりと、多彩なアプローチを体感できる貴重な機会だ。
麻宮 初めての有料原画展イベント。昨年、星雲賞(※2)を受賞したんです。考えてみたら麻宮騎亜ってマンガ家ではあるけど、イラストレーターとしての原画展を今までやったことないねって。せっかくなら僕の名前からぱっとイメージされる範囲内とは違うやつをやってみようと、メカニックに焦点絞りました。『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河英雄伝説』が中心で、残念ながら『コレクター・ユイ』は入ってないです(笑)。開催期間中にトークショーがあって、初日の相手が『銀英伝』のプロデューサー郡司幹雄さん(ProductionIG)、最終日は、もう業界で唯一の親友の羽原信義さん。カフェではオリジナルグッズ付きのコラボメニューもいろいろ作っています。ぜひご覧ください。
※2…優れたSF作品および活動のなかからSFファンの投票によって選ばれる。麻宮は第55回星雲賞アート部門を受賞した。
【プロフィール】
麻宮騎亜/あさみやきあ 1963年、岩手県生まれ。アニメーターとしては菊池通隆名義で活動。86年『神星記ヴァグランツ』でマンガ家として活動開始。『サイレントメビウス』や『彼女のカレラ』シリーズなど、代表作多数。
麻宮騎亜メカニクス原画展「黒鋼 -KUROGANE-」

【会期】
2025年3月8日(土)〜3月16日(日)※3月11日(火)は営業。11:00〜18:00(最終入場17:30)
【会場】
GALLERY ZENON(東京都武蔵野市吉祥寺南町2-11-1)
【チケット】
大人(中学生以上。小学生以下は無料、要保護者付き添い):平日 WEB予約1000円/当日券1300円 土日祝 WEB予約1300円/当日券1600円
【主催】
ラボ・ガルニエ
【協力】
コアミックス
【公式ホームページ】
https://gallery-zenon.jp

『コレクター・ユイ』
【配信プラットフォーム】
アニメタイムズfor Prime Video、アニメ放題、ニコニコ支店、バンダイチャンネル、ムービーフル、ムービーフルplus、dアニメストア、dアニメストアfor Prime Video、DMMTV、FODプレミアム、 HAPPY 動画、hulu、J:COM STREAM 、milplus(みるプラス)、NHKこどもパーク for Prime Video、 Ongenムービー、TELASA、U-NEXT
【第2シリーズ スタッフ】
原案:麻宮騎亜/シリーズ構成:西園 悟/監督:ムトウユージ/キャラクターデザイン:室井ふみえ、中島美子/美術監督:川口正明、川本征平/撮影監督:森下成一/音楽:川井憲次/音響監督:高橋秀雄/アニメーション制作:日本アニメーション/キャスト(声優):大本眞基子、西村朋紘、麦人、矢尾一樹、天野由梨、三石琴乃 他
取材・文:金丸公貴(『昭和50年男』編集部) ©STUDIO TRON・NHK・NEP
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