吊り編みこそスウェットの最高峰。
アメカジファッションの世界で、スウェットやTシャツに特別なこだわりを持つなら、必ず知っておきたいのが「吊り編み機(ループウィールマシン)」の存在だ。
糸に余計なテンションをかけずに、ゆっくりと時間をかけて編むことで、驚くほどに柔らかく、ふっくらとした風合いの生地を生み出すことができる伝統的な編み機である。かつてはスウェットやTシャツの生地製造の主役であった吊り編み機だが、1960年代以降、効率を追求したシンカー編み機の台頭により姿を消し、今では日本国内でも和歌山県の工場にわずか数台が残るのみとなっている。
しかし、そのクラシックな見た目と希少性、格別な着心地から、モノへの強いこだわりを持つ方達から根強い人気を誇り、深く愛され続けている。
吊り編み機の最大の特徴は、糸を編み機より上に配置、糸の重みを利用し自然に落としながら編む構造にある。現代の高速編み機では、速度の代償として糸に強いテンションがかかり、どうしても生地が硬くなってしまう。吊り編み機は1時間にわずか1メートルほどのスピードで編むため、生産率はお世辞にも良いとは言えないが、時間をかけて編まれることで、糸の持つ本来の柔らかさを保ちつつ、空気をたくさん含んだ、ふっくらとした生地に仕上げることができる。そのことから、肌触りが抜群に良く、着込むほどに体になじみ、独特の風合いが増していくスウェットが出来上がるのだ。
さらに、糸が無理なく編み込まれるので、生地の伸縮性、そして耐久性にも優れており、長年愛用してもへたりにくいという特徴も持っているのだ。ヴィンテージスウェットが何十年経っても風合いを損なわないのは、この吊り編み製法によって作られていることも大きな理由だ。
先述したが、現在稼働する機械の希少さ、生み出される生地の質の高さなどから、国内外様々なブランドから注目されている吊り編み。取材させていただいた「ザ・リアルマッコイズ」では、この伝統技術を活かしたスウェット作りを行い、クラシックなディテールと最高の着心地を両立させ、多くのファッション愛好者に評価されるアイテムを作っている。
現代では、効率やコストパフォーマンスが優先される中で、吊り編み機は決して合理的な手法ではない。しかし、吊り編みだからこそ生まれる特別な風合いは、大量生産では決して味わえないものである。これは、ファッションにおいて単なる「衣類」ではなく、「育てる楽しみ」を持つアイテムとしての価値も持っている。たとえば長年愛用するうちに、肩回りや袖に自分だけの味わい深いシワが刻まれ、あなただけのヴィンテージピースへと成長していくのだ。もはや大量生産品にはない個性的な存在感を放ち、ファッションとライフスタイルに奥行きを与えてくれるだろう。
また、生地がまとった空気の層は保温性にも関係し、肌寒い季節には暖かさを、汗ばむ時期には通気性を高めてくれるのも見逃せないポイントだ。もし、吊り編み生地のスウェットやTシャツを手に取る機会があれば、その柔らかさと着心地の違いをぜひ実感してほしい。袖を通した瞬間、その特別な価値に気づくはずだ。




(出典/「Lightning 2025年4月号 Vol.372」)
Text/Y.Namatame 生田目優 資料提供:ザ リアルマッコイズ
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