元自衛官がつくった、テキサス仕込みのBBQ店。

千葉県富里市の富里ベース内にブリスケットやプルドポークなど本場テキサススタイルのバーベキュー料理専門店がある。それが「T’s BBQ.JAPAN(ティーズ バーベキュー ジャパン)」。オーナーの鈴木猛さんが、実際にダラスでピットマスター(テキサスバーベキューの料理人)から学んだ味を提供し、人気だ。そんな鈴木さんは何と元自衛官。なぜBBQ店を出すことになったのか、話を聞いた。

「T’s BBQ.JAPAN(ティーズ バーベキュー ジャパン)」オーナー・鈴木 猛さん|1983年群馬県沼田市生まれ。映画の影響で学生時代からミリタリーにハマり、23歳で自衛隊に入隊。2年務めたのち、バーベキューのケータリングやイベント出店を手掛けるように。本場の味を確かめるべくテキサスに渡り、レシピを学ぶ。2021年「T’s BBQ.JAPAN」をオープン。

「T」の店名に込めた “らしさ”とプライド。

ハマったら、突っ走る。鈴木猛さんはそっちのタイプだ。鈴木さんが使う、肉を焼き燻すBBQトレーラー。実は鉄板や廃材を材料に自作したものだ。

「アメリカのネット動画で牽引式のバーベキュートレーラーを見かけ、シビれたんです。『これで肉を焼きたい』と買おうとしたら日本にない。だから作っちゃった」

同じノリだ。2021年、千葉県の成田空港の近く、富里市に鈴木さんはバーベキュー専門店『T’s BBQ.JAPAN(ティーズ バーベキュー ジャパン)』を起ち上げた。

店は東関東自動車・富里ICからクルマで5分ほど、コンテナを店舗として利用した千葉県富里市の複合施設「富里ベース」内にある。外壁を黒く塗ったのも本場風。「テキサスのバーベキュー店はたいてい煙で真っ黒なんですよ(笑)」

「T」はファーストネームの頭文字、そしてアメリカ南西部、テキサス州からとった。テキサスは牛肉の肩バラ肉を燻製させたブリスケットという名物もある19世紀以来のバーベキューの聖地である。だからって偉大なその地名を気安く拝借するような男じゃない。

「5年前、テキサスでブリスケットの焼き方を学んできたんです。ハマって突っ走った結果です」

もっとも、幼少時からハマっていたのはまた違った。アメリカンカルチャーには、バーベキューやテキサスよりも先にハマり、突き進んでいたものがあった。

「ミリタリーです。アメリカ海兵隊に入りたかったんですよね」

ダッジバンのシートやテキサスで買ってきたアンティークに混じり、来店した米軍兵たちが部隊のパッチを記念に貼ってあるのが良い。「内外装はほぼ仲間と自作。好きなものだらけです」

ハリウッド映画に憧れて、道を定めた。

きっかけはハリウッドだった。

1983年、山に囲まれた群馬県沼田市で生まれた鈴木さんは、家族でキャンプや川遊びにいそしむアウトドア派。同時に自室にこもって『グーニーズ』や『ET』のレンタルビデオを流し続けるインドア派の映画好きでもあった。

千葉に引越し、中学に入ると、お気に入りが『ハートブレイク・リッジ』など戦争モノに変わった。

「戦争映画って仲間が助け合う。あれにぐっと来て。『入隊したい』と本気で思っていた。アメリカ国籍がないからムリなんだけど」

結局、専門学校を出た後、介護の仕事についた。プライベートでは専門学校の頃から仲間とチームを組んでブレイクダンスに熱中。ただダンスファッションをまとうも、迷彩柄が多かったという。ようは諦めきれなかった。だから「自衛隊」に入隊する。

「アメリカがダメなら日本かなと。偵察部隊に配属されました。少人数で行動して、前線の情報をあげる部隊でした。登山の経験と適正があったから選ばれたのでは」

富士裾野で戦車の免許をとったり、冬山で単身息を潜めたり。ストイックな訓練の日々は過酷だったが充実感もあった。ただ重装備に耐えきれず、膝を痛める。

「結局、2年で除隊しました。短いけど、やりきった感もあった」

やりきったあと、何をやるか?バーベキューとの再会だった。

「またイベント、やりたいね」

介護職に復帰しつつ、かつてのダンス仲間と盛り上がった。とまれダンスは膝が許さない。そこでバーベキューを選んだ。趣味と副業を兼ね、地域のイベントでステーキのケータリングをはじめた。

「炭火で肉を焼くのだけは、小学生の頃から筋金入りでやっていたので。これがまたおもしろくて」

大胆かつ繊細な調理の難しさ。ワイワイと皆の笑顔が集まるバーベキューならではの時間。濃厚だった自衛隊の日々から抜け出し、ズレを感じていた心のギアが噛み合い、勢いよく駆動し始めた。そしてテキサスまで走り出す。

店で出しているブリスケット。10種の香辛料を混ぜたドライラブを塗り、15時間燻製させている
燻製によって中身はキレイなスモークリングが!!

テキサスで出会ったピットマスター仲間たち。

「コレをつくりたい!」

冒頭で触れたように、ネット動画で見たBBQトレーラーにまず魅かれた。その後、ブリスケットなど、テキサス生まれの肉料理を自分でも作りたいと思い始める。

「ただどんな香辛料をどう使うのかわからない。もとよりどんな味かも知りませんでしたからね。だからもう、行っちゃったんです」

2019年、初めてのアメリカ旅行がテキサスで一カ月半、バーベキューを食べまくる旅だった。初日に食べたブリスケットの味と香りが「忘れられない」と言う。

「真っ黒な燻製肉で肉々しいのに、意外とぺろりとイケる。肉の食べ方を知ってる人たちだよなと」

テキサスバーベキューの職人は彼の地では「ピットマスター」と呼ばれ、尊敬される。インスタで先に「BBQトレーラーを自作する変な日本人」に興味を持ってくれた現地のインスタグラマーが、フェスや大会で現地有数のピットマスターと店を紹介してくれた。「あそこは美味いぜ」「プルドポークならあっち」とまた彼らが数珠つなぎに名店も教えてくれた。仲間として受け入れてくれた。

ブリスケットは牛の前足の付け根あたりの肉。硬めの赤身だがコラーゲン豊富な希少部位。LOW&SLOWで燻製し、柔らかく旨味たっぷりに仕上げるのがピットマスターの技術

「各店を回るたび、個性とプライドの強さも感じた。何せテキサスはアメリカで唯一、国旗と州旗を同じ高さに掲げるほど独立心が強い。食にもそれが根付いている」

テキサスでの日々が50日ほど過ぎた頃、突然インスタのDMが入った。デインというフェスで知り合ったピットマスターだった。

『明日、ブリスケットを仕込むけど手伝ってくれないか?』

このとき学んだレシピと経験にインスパイアされ起ち上げたのが『ティーズ・バーベキュー』だ。フードコートスタイルの複合施設で、コンテナを店にした。そこで売るテキサス仕込みのブリスケットは近隣はもちろん、在日外国人やインバウンド客の心をつかむ。「この味を求めていた」「日本で本格的なブリスケットが食べられるとは!」なんて具合だ。そうそう。在日米軍の客も多いらしい。

「入隊はできなかったけど、彼らが入店してくれるようになった」

日本が誇るピットマスターは嬉しげに、誇らしげに言った。

(右上から時計回りに)ブリスケットサンド、プルドポークサンド、タコス、スモークハーブソーセージ、ブリスケット、キューバサンド、スモークドギードッグ。おすすめのメニューを、テキサスのようにワンプレートに乗せてもらった。眺めるだけでワクワクしてくる肉の遊園地、オープンです! すべてのサンド&バーガーメニューにはフライドポテトが付きます

【DATA】
T’s BBQ.JAPAN
千葉県富里市七栄532-279 富里ベース内
TEL090-4675-5609
営業/11:30〜15:00、17:30〜19:30
休み/月・火曜
https://tsbbq-japan.com
Instagram:@tsbbq.japan

(出典/「Lightning 2024年3月号 Vol.359」)

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