自然の中に入っていく感覚にハマるSUPフィッシング。
近年、人気になりつつあるSUP(サップ)と呼ばれるスタンド・アップ・パドル・ボード。サーフボードのような板の上に立ってパドルを漕いで水上を移動し楽しむアクティビティだが、そのSUPを使用して釣りをしているのが、神奈川県・西湘エリアを中心に活動する「ネイチャーギャング」だ。
そのメンバーである友田さんがSUPフィンシングを始めたのが10年ほど前。
「当時からサーフボードに乗って釣りをしている人はいたんですよ。それなら、SUPの方が安定感があっていいんじゃないかって思ってやり始めたんです」
プロボディボーダーであり、サーフィンなどマリンスポーツに精通している友田さんだからこその発想だろう。同じようにSUPで釣りをする人はいたものの、まだそれが確立されていない時代。友田さんは、先駆けとなって自ら模索していったのだ。
そんな友田さんの誘いでSUPフィッシングに魅せられていったのがレゲエミュージシャンであるサミーTさんだ。
「ずっと誘われていたんですけど、あまり乗り気じゃなかったんです。でも、実際にやってみたら一発でハマりました。一匹釣ったら、もう帰って来られない(笑)。それくらい楽しかった。それまでは朝5時位まで(レゲエの)プレイをしてたんですけど、今はSUPの前日は21時に寝て、午前2時には起きて海に出発する生活に変わりましたね」
音楽活動で多忙な毎日を送るサミーTさんであるが、少しでも時間があれば海へとクルマを走らせ、SUPフィッシングに興じるという。実際、この取材も、ハワイから前日に帰国したばかりであり、明朝にはまた海外へと飛び立たなければならないという超過密スケジュールだったが、それでも海に来てしまうほどSUPフィッシングは魅力的なのだ。
しかし、友田さんもサミーTさんもサーファーでもある。彼らのように、この手のマリンスポーツの経験がないと、少し敷居が高い気がするが……。
「最初は立ってやる必要はないんですよ。バランスが取れなければ膝立ちで漕げばOK。慣れるまでは、それでいいんです。一度やってみればその楽しさがわかると思いますよ」
さらに友田さんは、
「風と潮の流れを読んで自然の中に入っていくっていう感じがいいんですよね。この感覚で釣りを楽しむにはSUPが一番! あとは自由度が高い。自分で考えて釣った時の充実感は最高ですよ」
自然の中に溶け込むSUPフィッシングは、これほどまでに男たちを魅了してやまないのだ。
道具にもこだわるのが、男の趣味の醍醐味。SUPフィッシングの必須&こだわりアイテムを紹介。
男の趣味たるもの道具ひとつにもこだわりたい。それはネイチャーギャングの二人も同じ。
まず、彼らがこだわっているのがボード。SUPボードにはハードボード、インフレータブル、そしてソフトボードがあるのだが、その中でももっとも釣りに適しているのがソフトボードだと言う。それはサミーTさんの経験からのこだわりだった。
「以前は、インフレータブルだったんだけど、マダイを釣った時にヒレのトゲが刺さって、空気が抜けちゃって焦りましたよ。その点、ソフトボードはスポンジですから穴が開くようなこともない。魚を絞めている時にナイフが刺さっちゃっても大丈夫ですからね」
沖で空気が抜け始めたら一大事。安全面でソフトボードが最適だというわけだ。
ここで紹介した道具はそれぞれこだわりがあって使用しているものだが、もうひとつ忘れてはいけないのがスマホである。
「海図アプリを利用してポイントを探ります。かけあがり(高低差のある坂状の海底)など、魚がつく場所がわかるんですよ」
このように釣りにも役立つ上、海上でのアクシデント時の連絡手段としても必須。実用性と共に安心、安全にも気を使っているのだ。
SUPボード
ハードボード、インフレータブルなどボードには種類があるが、Nature Gangが釣りにオススメするのはソフトボード。ヒレにトゲのある魚が釣れても、トゲが刺さって空気漏れをしないからだ。
パドル
SUPの推進力を生み出すのがこのパドルだ。カヤックのようにダブルではなくシングルパドルを使用。長さ、重さなど自分に合ったものを選んだり、自分が使いやすいように調整することが大事。
フラッグ
SUPは船体も小さく、水面から出ている部分も少ないため、船などから発見されやすいように目印となるフラッグを使用することが事故防止に繋がる。Nature Gangでは、オリジナルフラッグも販売中。
ロッド
釣り方に合ったロッドを選択。Nature Gangでは50〜200m以上の中深海でのジギングが中心のため、ジギング専用ロッドを使用。細身ながら、巨大なブリやタイを釣り上げることも可能。
ルアー
釣り方はメタルジグというルアーを使ったジギングがメイン。メタルジグは60g〜80gのタングステン製のものを中心に時には150gを超える重い物を、さらにタイラバ、ワームを使用することも。
フィッシングベスト
SUPフィッシングはなるべく身軽にやりたいもの。そのため小物やスマホなどを入れられるフィッシングベストが重宝する。また浮力体が入っているフローティングベストなら落水や転覆した時でも安心だ。
サンダル
トングサンダルとスポーツサンダルの良いとこ取りをしたハイブリットサンダル。トング部分が足の横ズレを防ぎ、上部ストラップが踵をがっちりホールドし安心してエントリー可能(freewaters/9350円〜)
サングラス
曇天や朝夕など光の量が少ない時でも凹凸をはっきりと見せてくれる高視認性のULTRA LENSに加え、サイドについた風防が横からの光や風の侵入を防ぎ、釣りに集中する事ができる。(OUTLAND/1万2100円)
津本式計測マルチハサミ
魚をおいしく食べるための「究極の血抜き」を提唱する津本光弘氏が考案した、切る、締める、鱗取り、内臓かき出しが全て可能なマルチツール。メジャー内蔵で魚の計測もできる(ハピソン/オープン価格)
水筒
釣りに集中していると忘れがちなのが水分補給。SUPで移動する際の運動量も多いので、意外と汗をかいているもの。特にこれからの時期は、水分補給のための水筒は必需品だ。
GoPro
YouTube「Nature Gang」でSUPフィッシング動画を配信している彼らにとって、GoProは必須。ヘッドバンドで頭に装着する他、純正ポールを装着し、カゴなどに挿して撮影している。
SUPフィッシング、エントリーで重要なのはタイミング。
SUPフィッシングをする場合、ボードの上に立てるかどうかが気になってしまうが、前述した通りSUPフィッシングにおいては、必ずしも立って漕ぐ必要はない。となると、一番の関門となるのが、海へのエントリーだ。SUPボードは比較的安定感があるとはいえ、やはり波には弱い。真横から波を受ければ転覆してしまう可能性もある。
「波が途切れるタイミングを見計らって一気に出るのが大事。膝立ちで漕いで素早く沖に出るのがエントリーのコツですね」
その言葉通り、まずは膝丈ほどまで海に浸かり、波の切れ間を待つ。立て続けに波が押し寄せる中、わずかに収まった瞬間を見逃さず、ボードを前に押し出して飛び乗る。そして、一気にパドルを漕ぐ。これで、岸際を凌げば安定して、それほど心配なく釣りができるのだが、周囲に注意を払うことも忘れてはならない。風で流されてしまうことがあるからだ。
「SUPは風に弱いからね。慣れてくれば、海の色を見て風が近付いているとかわかるようになります。最初は、経験者と行くか、スクールを受けてもらった方がいいでしょう」
釣りをすることだけに気を取られそうなSUPフィッシングだが、なにより安全が優先条件である。
自分で考え探り手にした、最高の一匹! SUPフィッシングの魅力とは?
SUPフィッシングの魅力といえば、なんといっても陸からの釣りではあり得ない釣果だろう。マダイやブリ、ノドグロなど超高級魚も釣る事ができる。これを現場で処理し、もっともおいしい状態で食べられるのは、SUPフィッシングならではの特権だ。その特権は、魚だけには限られない。
「みんな海で夕日を見たことはあると思うんだけど、朝日を見た経験のある人はそんなに多くないと思うんですよ。下がっていく太陽と上がってくる太陽って違うんです。普段は見えない自然の変化も感じ取れるのがSUPですね」
と友田さんが語ると、サミーTさんも続ける。
「やっぱりSUPだから見られるカラーってありますね。海面の色を見て『あそこ黒いから、あと10分で風が吹くよ』とか友田さんに教えてもらって知りましたから。そういう自然を感じられるのは最高ですよ」
最後に、この項を見てSUPフィッシングに興味を持った人たちに一言いただいた。
「最初はひっくり返ったらどうしようと心配だと思うんですよ。でも、うちのYouTubeに来るゲストもほぼ落ちる人はいない。まずは、チャレンジしてみてほしいですね。絶対おもしろいから!」
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning2023年6月号 Vol.350」)
Text/S.yasuda 安田真悟 Photo/S.kai 甲斐俊一郎 取材協力/Nature Gang
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