オレゴンが生んだ長き歴史を持つ、ワークブーツの最高峰「WESCO ウエスコ」誕生秘話。

ウエスコといえば、今では最高峰のカスタムブーツとして、リアルで屈強なワーカー達からファッションに関わる者まで幅広く愛用される「キング・オブ・ワークブーツ」という存在。

1918年、オレゴン州ポートランドでウエスト・コースト・シュー・カンパニーを創業さたジョン・ヘンリー・シューメイカー

創業者は「John Henry Shoemaker(ジョン・ヘンリー・シューメイカー)」。その名の通り、ブーツを作るために生まれてきたのかと思いきや、実は当初はブーツ職人などに全く興味がなかったというから驚きだ。

彼がブーツ作りを学んだのは16歳のとき。当時やっていた新聞配達の仕事が嫌になり、ミシガン州グランド・ラピッズにあった「Rindgen Kalmbach Logie&Co.」で働くことにしたのがきっかけだった。そこでブーツ作りのノウハウを習得したジョン・H・シューメイカーは、1903年に新たなチャンスを求めて西部に向かった。目指す先はシアトルだったのだ。

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2022年12月12日

オレゴンという環境がタフな靴を求めていた。

提供/WESCO JAPAN こちらは1940年代~'50年代頃のカタログ。主力商品がロガーブーツであることは、表紙もロガーであることから窺える。ラインナップもロガーブーツが圧倒的に多かった

しかし、ポートランドに到着した頃、彼の所持金は底をついてしまったが、幸運だったのは、ポートランドのシューズメーカー「Bradley Shoe Company」がブーツの作れる人間を探していたことだった。そこで5年間働いた後、「Goodyear Shoe Company」へと渡り、1918年、遂に彼は家族7人で「West Coast Shoe Company」として独立することとなる。ミシガンを出て15年、ポートランドでWESCOが誕生したのだ。

創業当時から今も変わることのない伝統の「ステッチダウン製法」で作られたブーツは、ここからハードワーカーたちの足元へと送りだされていたのだ

シューズのメーカーが連なるように存在するオレゴン州において、ウエスコはロガーブーツで業績を伸ばしていった。ミシガン州と同様、山に囲まれたポートランドでも、やはりロガーブーツが主力商品となったのだ。

そして1929年までに4回も移転するほど大きく成長していったが、同年10月に起きた世界恐慌によってアメリカ経済は崩壊。ウエスコも事業閉鎖に追い込まれてしまう。

小さな自宅で再開したブーツ作り。

提供/WESCO JAPAN 右端これらは1930年代初頭のオーダーシート。個人の足のサイズを細かく計測し、それに基づいたブーツ作りを当時から行っている証である。大抵が11インチ近くある足のサイズ。ロガー達の大きさが推測される。シートにあるブーツは、 1931年7月15日にオーダーされたもの。足の細かな部位までサイズが測定され、その数値が全て記載されている。ブーツ丈は8インチだったようだ。オーダーしたのは、ウエスコのあるオレゴン州の2つ隣りのモンタナ州の人物だ

世界恐慌によって事業も閉鎖に追い込まれ、ブーツ作りの技術以外の全てを失ったジョン・H・シューメイカーだったが、ポートランド郊外の自宅に作った小さな工房でブーツ作りを再開。職人を雇えないことで、良い日でも8足しか製作できなかったが、それをロガー達に売り歩きながら業績を少しずつ上げて、1930年代後半には2400平方フィートの2階建てファクトリーを作るまでに成長した。

提供/WESCO JAPAN 当時からウエスコには、オーダーした人物からたくさ んの手紙が届けられた。その手紙には、ウエスコのブーツに対する感謝の気持ちが綴られている。ウエスコのブーツがいかに素晴らしいものであるかの証明だ

さらに第二次世界大戦の影響で、造船業者から〝エンジニアブーツ〞の注文が殺到。アメリカ国内の経済も回復に向かい、それに伴ってウエスコも業績を伸ばした。それも「タフなブーツを作る」という企業姿勢があったからこそ。〝キング・オブ・ワークブーツ〞の精神は、当時から今日まで途切れることなく受け継がれているのである。

こちらは1930~'40年代頃に作られたウエスコの1足。この年代のブーツで使用されているにもかかわらず、これほど美しい状態を保っていること自体、奇跡に近い。ウエスコのクオリティだからこそ、このコンディションで残っていたのだろう
提供/WESCO JAPAN こちらは1920年に撮影された一葉。ウエス コの所在地であるオレゴン州のロガー達が、大きな切り株の上で記念撮影したものだ。3メートル以上ある大きなノコギリを使った重労働は ブーツにも大変な負荷がかかるため、並大抵のブーツでは耐え切れない。堅牢でタフなウエスコのロガーブーツが、彼らにとって必要だった

(出典/「別冊Lightning Vol.112「THE BOOTS MASTER」