アフタービートルのターニングポイントとなったプリンストラスト|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVol.41

『プレス・トゥ・プレイ』のリリースから間もない頃、テレビ朝日の深夜で『プリンストラスト1986』が放送された。『プリンストラスト』とは英国チャールズ皇太子によって設立された若年失業者を支援するための慈善団体である。それを冠にしたチャリティコンサートが毎年ロンドンで行われていた。その名を有名にしたのは83年に同イベントに出演したデュラン・デュランがダイアナ妃と面会したことによる。ダイアナ妃がデュラン・デュランのファンだったということでバンドは王室お墨付きとされ、かつて女王から勲章をもらったビートルズになぞられて、デュラン・デュランは80年代のビートルズかと騒がれた。そのニュースは日本にも伝えられ、デュラン・デュランが紹介されるたびに、そのことが枕に使われていた。

ビートルズ時代のロックンロールという選曲

86年の「プリンストラスト」に参加したメンバー

86年6月、その『プリンストラスト』にポールが出演した。この年10周年を迎えたとのことで、元ビートルズの大物に白羽の矢が立ったのだ。ポールはトリに登場して、「アイ・ソウ・ハー・スタンディグ・ゼア」「ロング・トール・サリー」「ゲット・バック」を歌唱。ビートルズ時代のロックンロールという選曲もにくいし、エリック・クラプトンやエルトン・ジョン、フィル・コリンズなどが顔をそろえたオールスター的なバックバンドも特別感を出していて見応えがあった。ポールが公の場においてバンドセットで歌うのは久しぶりのこと。PV撮影でそのようなシチュエーションは何度かあったものの、公のライブで歌うのは79年12月の「カンボジア難民救済コンサート」以来であった。ベースやピアノでなく、アコギを弾くポールというのも新鮮で、60年代のような高音でロックンロールをシャウトする姿にしびれた。

イベントの開催は6月20日だが、日本(テレビ朝日)で放送されたのは秋口だったと記憶する。確か小林克也の司会ではなかったか。リアルタイムで視聴した後、録画したビデオを何度も見返して、シーンの隅々までを頭の中にインプットしたものだった。実家のどこかにビデオが残っているはず。翌年この模様を収めたライブ盤が出て、その中にポールの歌唱だけを抜いた7インチシングルが入っていたが、日本盤は出ずにイギリス盤だけでのリリースであった。

ポールのファンクラブ紙「クラブ・サンドウィッチ」

今振り返ってみるとこの『プリンストラスト1986』はその後のポールの活動を知るうえでとても重要なイベントと位置付けることが出来る。前年暮れの『ベストヒットUSA』のインタビューで「もう二度とコンサートツアーはやらない」といっていたポールが、前言を翻し徐々にバンドモードになり、89年からコンサート活動を再開したのは、このときの好印象なり影響が大きかったと考えられるからだ。

容姿にも変化があり、『ベストヒット』のインタビュー時は短髪だったのが、86年6月にはかなり長髪になっていて、「ポールはツアーに出るときに長髪になる」という松村雄策さんの言葉を借りれば、この時点ですでにその気になっていたのではないか。それゆえの『プリンストラスト』出演だったのではないかと勘繰りたくもなる。が、それにしても、たった半年でここまで伸びるのか。それくらいの変わりようであった。

ジョージとリンゴが出演した87年のプリンストラスト

『プリンストラスト86』のLPに封入されていたシングルレコード

『プリンストラスト』についてもう少し触れておくと、翌87年もビートルズ周りにとっては重要なコンサートであった。この年はジョージとリンゴが参加し、ポールと同じように特別待遇でビートルズナンバーを披露したのだ。現地で開催されたのは87年6月5日と6日、日本では9月18日と19日に今度はTBSで放送された。元ビートルズの2人が出たのは2日目だったと思う。エルトン・ジョンの紹介でジョージとリンゴは一緒にステージに上がり、まず「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、続いて「ヒア・カムズ・ザ・サン」を歌唱した。前者はクラプトン、後者はジェフ・リンが伴奏し、久々のステージで多少緊張がうかがえたジョージを好サポートしていたのが印象的だった。

オオトリはリンゴの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド」。オールスターバンドをバックに朗々と歌うリンゴにほっこりさせられた。実は2人のライブシーンを見るのはこのときが初めてだった。フィルムコンサートで「バングラデシュ・コンサート」がかかることはなかったし、VHSでも出ていなかった。ブートも出まわっていなかったような気がする。それゆえの二人のライブシーンを見たことがなかったから、この3曲は特別感があり、ポール以上に興奮したことを覚えている。

その後、リンゴはオールスターバンドを率いてツアーに出るようになり、ジョージも『クラウド・ナイン』発表してから間もなくしてコンサートのために日本にやってきたわけだから、2人にとっても『プリンストラスト』がいかに重要であったかがわかる。

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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