ティーンエイジで経験したファンクラブ仕事|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.10

年が明け、1981年を迎えた。新年というのにジョンの事件による精神的苦痛は晴れず、相変わらず沈んだ気持ちのままジョンとビートルズのことばかりを考えていた。1月4日に文化放送で放送された大友康平のビートルズ特番を聴き、11日に千代田公会堂で行われたジョン・レノン追悼フィルムコンサートに参加、18日にヨーコが「感謝をこめて」というメッセージを寄せた朝日新聞を読んだ。1月後半もしくは2月前半には、NHK『ニュースセンター9時』で「ウーマン」のプロモビデオが流れた。日本でただ一度きりのオンエアという前説があったが、のちに一般的に定着していく映像(ジョンとヨーコがセントラルパークを散歩するシーンをフィーチャーしたやつ)であった。

81年初頭からジョンの追悼本の刊行が相次いだ

『ダブル・ファンタジー』からの2枚目のシングル「ウーマン」

この年最初に買ったレコードはジョンのベスト『シェイブド・フィッシュ』だった。地元葛西駅前のレコード屋兼本屋で購入したのだが、当時出ていたジョンのベストはこの1枚だけで、ジャケはいまいちと思うもこれを買うほか選択肢はなかった。同時に「ジョン、凶弾に倒れる」の見出しが目に入り、『ミュージック・ライフ』の特別増刊号を手に取った。誌面の前半はニューヨークからの最新レポート、事件の経緯、著名人のコメント(財津和夫の「ポールには愛の深さを、ジョンには愛の深さを教えてもらった」という一言が刺さった)、また最新情報として3月に日本公演が予定されていたという記事もあった。後半は66年のビートルズ来日記念号の特集が転用され、なんとか水増しして一冊にまとめたという急場しのぎの内容であったが、それでもファンには待望の書であった。

しばらくして、『宝島』の増刊として『JOHN ONO LENNON』が出た。A5判で200ページ超のなかにレア写真、英字新聞の翻訳記事(この事件がアメリカではどういうふうに報道されたのかに焦点を当てたもの)、さらにはジョンに会ったことのある日本人の証言やレアグッズ、はては海賊盤やレア映像まで紹介されていて、一癖も二癖もある、見応え読み応え十分の濃厚な内容。企画構成を担当していたのは、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブの松本常男さん。初見のときはそれを知る由もなかったが、後に知って納得した。その後のビートルズ人生及び、編集者キャリアにおいて『JOHN ONO LENNON』から受けた影響は大きい。

傑作だった宝島別冊の『JOHN ONO LENNON』

『JOHN ONO LENNON』

同時に、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブ入会後初めての会報『ビートルマガジン』のジョン・レノン追悼号が届いた。表紙はブートの『Come Back Johnny』のジャケをフィーチャーし、表2に「For John Lennon,we miss so bad」という追悼メッセージを配置、こちらの特集を手掛けているのも松本常男さんということで、『JOHN ONO LENNON』同様に充実の内容であった。全体的に黒を配した、沈痛な誌面が悲しさを増幅させた。アルバムレビューページに『ダブル・ファンタジー』が紹介されているところがなんとも皮肉である。

3月に集英社から出た『ジョン・レノン PLAYBOYインタビュー』も忘れられない。使用写真は1点ながら箔押しなど、横尾忠則が手掛けた装丁が印象的。本文もジョンがビートルズの曲解説をしているくだりはとても興味深いもので何度も読み返した記憶がある。この年はその後も続々とジョン及びビートルズ関連の書籍が刊行され、小遣いの許す限り購入していったが、まさに活字ビートルズの始まりであった。

中2でファンクラブのボランティアスタッフに

コンプリート・ビートルズ・ファンクラブ会報『BEATLE MAGAZINE』

次なるアクションは、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブへのボランティアスタッフであった。ファンクラブの会報(前出のジョン・レノン追悼号)の奥付でスタッフ募集の告知を見たわたしはすぐに電話で問い合わせ、翌週には荻窪の事務所に出向いた。まだ、地下鉄の乗り継ぎさえままならない当時中学2年にとって葛西から荻窪までの道のりはそこそこ遠く、ちょっとした旅であったが、ビートルズのなにかしらに関われるのであったらという熱い思いが自分を動かした。

所要時間は約1時間半。駅に着くとスタッフの人が迎えに来てくれていて、そこから2人で事務所へ向かった。荻窪駅から青梅街道を渡り、小路地を歩いた先の古い木造アパートの1階の小さな部屋が事務所として使われていた。ビートルズ関連の書籍・資料が並ぶなかで、数人のスタッフが執筆なのか、調べものなのか、それぞれが各々の作業をしていた。音楽は流れておらず無音で、早速そこで告知物の発送準備的な簡易仕事を任された。作業机の横の本棚にあった『ハード・デイズ・ナイト』と書かれた赤い書籍が気になって仕方なく、作業の合間の休憩時間にちらりとページをめくってみると、映画『ハード・デイズ・ナイト』の細かいスチール写真の横に台詞が書かれた洋書で、この本があれば映画が楽しめる!こんな本があるのかと驚いた。その日は、夜8時くらいまでそこにいただろうか。あたりはすっかり暗くなっていて、駅までの帰り道で冷静になってみると、ずいぶん遠くまで来てしまったという不安感が襲ってきた。とにもかくにも、編集者としての小さな一歩が始まった日と言える。

秋葉原・石丸電気で予約した『マッカートニー・インタビュー』

1981年2月21日発売の『マッカートニー・インタビュー』

ジョンのことで頭がいっぱいになっていた2月、ポールのインタビューアルバムがリリースされた。たまたま親に連れられて秋葉原に家電を見に行った際、石丸電気2号館で予約受付しているのを知り、そこで予約の手続きを行った。『マッカートニー・インタビュー』というタイトルで、価格は1200円、7500枚限定とのことだった。子供のころから折に触れ秋葉原には行っていたが、石丸電気がレコードに力を入れているのは知らなかった。いや、目にしていたのだろうが、レコードに興味がなかったので目に入っていなかったというべきか。

石丸の驚くべき点は、2号店、3号店、レコード館という店舗をベースにした在庫の豊富さに加え、購入者への手厚いサービスである。とりわけ購入額1割の金券はありがたかった。ほかにもレポート用紙やチョコレート、さらにはポスターのプレゼントまでという至れり尽くせりというサービスが用意されていて、レコード袋に和田誠の描いたビートルズがプリントされているのもうれしかった。レコードを買うなら石丸。以降、わざわざ電車で秋葉原まで出かけることが増えた。

『マッカートニー・インタビュー』の中で今でも覚えているポールの発言がある。「大人になるなんて最悪なことだろ。できれば大人になりたくないと願っているよ。僕の気持ちはいつまでも子供のままさ」というもの。この発言は、ラジオ『ザ・ビートルズ』の中で大友康平が紹介したことがあり、その影響を受けたわたしは中学の卒業文集でそのまま引用してしまった。今思い返せばちょっと恥ずかしい。

和田誠のイラストがあしらわれた石丸電気のレコード袋
この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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