少年ドラマシリーズで流れたポールのソロ曲「ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.9」

ポール逮捕に始まり、ジョンの死で終わろうとしていた1980年の12月暮れ、NHKでひとつのテレビドラマが始まった。当時、NHKが定期的に放送していた少年ドラマシリーズという枠の、タイトルは『家族天気図』という作品である。少年ドラマシリーズはその名のとおり、小学生・中学生をターゲットにしたドラマで、SF的なものから文学的なもの、そしてホームドラマまで多様な作品が作られ、当時の少年の多くが目にしたことのあるドラマシリーズであった。しかしながら、この時期はシリーズ末期ということで観ている人も少なく、ファンの間でも『家族天気図』は知る人ぞ知るというか、知らない人ばかりの幻の作品である。

ホームドラマの隠れた名作『家族天気図』

80年5月発売のポールのソロシングル「カミング・アップ」

少年ドラマシリーズの始まりは72年、第一作は傑作と名高い『タイムトラベラー』である。それはさすがにリアルタイムでは知らないが、それでも75年くらいからこのシリーズに注目しはじめ、『赤い月』『風の又三郎』など、忘れられないドラマは多い。新作が始まれば自然とチャンネルを合わせていたので、『家族天気図』もその流れで観始めたものだが、それがビートルズ(ポール)絡みの作品であることは知る由もなかった。

『家族天気図』の内容は、先ほど分類した中のホームドラマのカテゴリーに属する。新興住宅地に暮らす4人家族の平凡な日常生活のなかに起こる些細な事件から家族の問題をあぶりだし、絆を確認すると言う、この時代によく観られたものだが、山田太一や向田邦子の作品ほどの強烈なメッセージはなく、ターゲットである小学生・中学生には届くかもという、本当にありそうな出来事を膨らませていく物語展開が絶妙であった。夫婦役の土屋嘉男と小林千登勢の確実な演技が、子役を含めたキャリアの浅い役者たち支えていた。デビュー間もないころの松原千明が観られることでも貴重。

調べてみると、第一話の放送は12月22日の月曜日だったという。なんの事前情報もなく見始めてから数分後、劇中で流れる曲がいずれも『マッカートニーⅡ』に収録されていたポールの曲であることに気づいた。「カミング・アップ」「ウォーターフォールズ」「フロントパーラー」。あれ? と思いながら、観続けているとほかの曲もポールの曲のような気もしてきた。聞いたことのない曲だが、明らかにポールのボーカルである。これは偶然なのか、意図的なものなのかと思うも判断できず。こちらもまだポールのソロ作品の知識がなく、調べる手立てもない。そんなもやもやした気分のまま最終回を迎えてしまう。

年が明けた81年3月からは第二シリーズがスタート。そこで流れる曲もポールのようだが、この時点でもそれがなんの曲なのかの判別がつかないままだった。その当時、自分の手元にあるポールのソロは『マッカートニーⅡ』と「あの娘におせっかい」のシングル、友達から借りた『ウイングス・グレイテスト』のカセットテープしかなかった。

主題歌は「シンガロング・ジャンク」

ドラマ主題歌「シンガロング・ジャンク」が収録されていた『マッカートニー』

あとでわかったことだが、『家族天気図』で流れていた曲すべてポールの曲であった。前述の『マッカートニーⅡ』収録曲のほか、「ディア・フレンド」「アイム・キャリング」「トリート・ハー・ジェントリー」といった曲が劇中に流れ、オープニングテーマは「シンガロング・ジャンク」。この「シンガロング・ジャンク」こそがドラマに深い印象を与えていたように思う。普通に受け狙いを考えれば「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」を選曲してもいいはずで、ポールのソロということならば「アナザー・デイ」や「マイ・ラヴ」あたりでもいいと思うが、アルバムの中のいわば隠れた名曲を使ったあたりに、選者のセンスを感じさせるし、その妙な演出心に感心せざるを得ない。一体どういう狙いだったのだろうか。きっと、ファンなんだろうなと思いつつも、この感動を共有できる人は周りにおらず、いつの間にか『家族天気図』は私の記憶から薄れていった。

それから25年以上の年月が経った頃、『家族天気図』がDVD化されたことを知る。まさかのソフト化に、大きく驚いたあと、2つの疑問が浮かんだ。まず、少年ドラマシリーズは映像が残っていないはずではなかったか、ということ。その少し前に『NHKアーカイヴス』という番組で、『タイムトラベラー』の最終回が放送されたことがあったが、その際に「NHKには映像が残っておらず、一般視聴者の私物」という説明がなされた。もうひとつは、ポールの曲の許諾はどうなっているのか。当時はあくまでもテレビ放送だけのための許諾申請だったはずだが、ソフト化となると事情は違ってくる。再度『家族天気図』が観られることの嬉しさの半面、この2つのことがすごく気になりながらDVDを購入した。

06年にソフト化された際の音源処理

2006年にアミューズソフトからリリースされた『家族天気図』

結論から言うと、劇中にポールの曲は流れない。パッケージにも、「楽曲については権利上差し替えております」と断り書きがされている。ポールの曲の代わりに、このソフトのために作られたオリジナル曲に差し替えられていているのだ。「残念だけど当然、当然だけど残念」と見始めたのだが、驚いたことに所々ポールの曲が聞こえてくる。どういうことかというと、案の定このドラマのオリジナルマスターは存在せず、この映像は家庭用デッキビデオで録画されたものをそのまま使用しているのだ。当然のこと映像も粗い。だから音源だけを差し替えることができなかったため、曲が使われていたシーンには、原始的オーバーダビングでオリジナル曲をかぶせ、権利上問題のないように見せかけている。タイトルバックやセリフがないシーンは差し替え音源をそのまま被せてしまえばOKだが、セリフのうしろにBGMとして曲が流れているシーンは、オリジナル曲を被せてもセリフは消すことが出来ないわけだから、オリジナルで使用されていたポールの曲がかすかに聞こえてしまっているのだ。

そんな急場しのぎの対応にもかかわらず、あまり違和感がないのは、差し替え曲全てがポールの曲にそっくりに作りかえられているから。ビートルズにおけるラトルズみたいな感じといえばわかりやすいか。だが、驚くべきは、楽器はもちろん、譜割もほぼ同じに構成されているところ。「アイム・キャリング」「ディア・フレンド」「トリート・ハー・ジェントリー」「ウォーターフォールズ」「カミング・アップ」「ワン・オブ・ジーズ・デイズ」など、聴けばすぐに原曲がわかるほどのそっくり度。誰が作って歌っているのか、かなり気になる。

なぜここまでして「家族天気図」をDVD化したんだろうか……。なんて思いつつ、当時は気付かなかったけど、エピソードに合わせてポールの曲を選曲している、ディレクターの狙いも分かった。老人問題で「トリート・ハー・ジェントリー」、「友達」をテーマした回で「ディア・フレンド」など、芸が細かい。本放送からすでに45年、今でもこのDVDを見直すけど、いまだにこのドラマを共有できる人に出会ったことがない。

『マッカートニーⅡ』からの2枚目のシングルだった「ウォーターフォールズ」
この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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