学校をさぼって観に行ったシェア・スタジアム・ライブ【ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.6】

ビートルズ熱が上昇の一途を辿るなか、今度は自分の好きなビートルズソングのデイリーチャートを付け始めた。その日自分はどの曲が好きなのかを1位から20位までランキング化するという、ひとり『ビートルズ10』(ラジオ日本)みたいなことである。レコードを買ったり、友達からレコードを借りたり、ラジオで聴いたり、直近で知ったお気に入りの曲ランクされるだけのものだが、タイトルの綴りを覚えるのには役立った。

1980年11月3日、千代田公会堂で行われたビートルズ文化祭

ファンクラブから送られてきた告知はがき。マニアックなティーチ・インもあった

そんな折、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブからフィルムコンサートの案内はがきが届いた。1980113日、文化の日。イベントタイトルは「ビートルズ文化祭VOL.2」で、場所は前回(720日)と同じ九段下の千代田公会堂での開催である。上映される内容を確かめると、そこに記されたフィルムは当然のこと見たことのないものばかりで、思わず心が高鳴る。「シェア・スタジアム・ライブ」(今の表記ではシェイ・スタジアム)、「ワシントンDCライブ」に「カム・トゥ・タウン」「シンディング1964」「アラウンド・ザ・ビートルズ」等々。読んでいるだけで想像が膨らみ、居ても立っても居られなくなり、これは絶対に行かねばと心に誓った。

翌日学校で前回一緒に行った友人たちに声をかけ、てっきり賛同してもらえるものと思っていたら、この日は祝日ながら数日後に迫った文化祭用の出し物の予行演習があるとのことで皆一様に行けないと言う。そうだった。登校日だった。すっかり忘れていた。どうしたものかと、一瞬迷った。でも、これはどうしても行きたい。行かねばならない。この機会を逃すと次いつこれらの映像が見られるのかわからない。もはや行かないという選択肢はなかった。自分はクラス劇の端役でたいして重要な役回りではないし、いてもいなくてもいいだろうと勝手に理由付けして「ビートルズ文化祭VOL.2」への参加を決めた。

それまで学校には真面目に通学し皆勤していたのだが、もうそんなことはどうでもよくなった。一人で行くのも心細いので、ビートルズファンかどうかはわからないけど、学校の文化祭にあまり興味のなさそうなクラスメイトNくんを誘ってみたら意外にも快諾してもらい、2人で学校をサボり朝から九段下へ向かった。

初期ライブでしか味わえない4人のロックンロール

1964年2月のワシントン・コロシアム公演のようす。『ビートルズ・ストーリー』インナージャケットより

千代田公会堂に着くとすでに数人のファンが並んでいて、持参したラジカセで何やら曲を聴いている。「カム・トゥゲザー」のようだが、ビートルズではない。でもジョンの声だ。後にそれが「ワン・トゥ・ワン・コンサート」の海賊盤音源であることを知るのだが、そのときはそんなことも知らず、歌詞違いの「カム・トゥゲザー」に聞き入っていた。今思えばそこに並んでいたファンの年齢層は10代から20代前半くらいまで。自分が最年少くらいで、この頃のビートルズファンは若い人が多かった。そんな若い人たちが、ラジカセで海賊盤音源を聴いていたのだから、ちょっと焦ったのを覚えている。

 そして上映開始。動く4人が観られるというわくわく感は、子供の頃よく後楽園球場に観に行っていた野球どころではなかった。「シェア・スタジアム・ライブ」「ワシントンDCライブ」「カム・トゥ・タウン」「シンディング1964」「アラウンド・ザ・ビートルズ」等々、どういう順番で観たのは覚えていないけど、いつもレコードで聴いているものと全然違って、底知れぬパワーが伝わってくる。4人のパフォーマンス能力によって、曲に生命力が宿っていると言うのか、とにかく大画面で観るライブ映像に圧倒されるばかりであった。なかでも前人未到のスタジアムライブという事前情報で期待をしていた「シェア・スタジアム・ライブ」はカラー映像による臨場感が素晴らしく、またいくつものカメラを使用し撮影されたことにより、一級のドキュメントドラマが記録されていて、まるで自分がそこにいるビートルマニアのように興奮してしまった。

コンプリート・ビートルズファンクラブへの入会を決意

『シェア・スタジアム』公演の音源を収めた海賊盤『LAST LIVE SHOW』

ビートルズのライブ映像を5時間にわたって堪能、またもやいくつかグッズを購入して会場を後にした。外に出るとすでにあたりは暗く、少し肌寒くなっていたが、自分の身体は興奮したせいかほてっていたような気がする。学校をサボっていたことなどすっかり忘れて帰路についた。その翌日、このフィルムコンサートの主催元であるコンプリート・ビートルズ・ファンクラブへの入会を申し込んだ。これが日本ハムの少年ファイターズに続いて、自分にとって生まれて2度目のファンクラブであった。当時、ビートルズにはいくつかのファンクラブがあり、それらの連絡先がレコードのライナーノーツに記されていた。最大手はビートルズ・シネクラブで、普通であればシネクラブに入るのが妥当なのだろうが、シネクラブではなく、コンプリートビートルズ・ファンクラブを選択したことがその後のビートルズ人生、ひいては人生そのものに大きく左右したような気がする。フィルムコンサートの合間にティーチインとして登壇していたファンクラブ会長・松本常男イズムにすっかり心酔してしまっていた。

「ビートルズ文化祭」で買った生写真

 

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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