ありふれた文具に幸せを感じる時

鉛筆が転がっているのを見ると、なんだか落ち着く。故郷に帰り、見慣れた山や川の景色をしみじみと眺めた時のような気分になる。なんでだろう。

鉛筆の歴史は約350年。形も機能も完成し、身近にあり、ありふれた文具だ。物心が付き始める小学一年生からみんなが使い始め、シャープペンシルに代わる中学生あたりから、多くの人は鉛筆との付き合いがなくなる。

いま再びの、「赤青鉛筆」との付き合い

自分も中学校以来、鉛筆とは疎遠になったけれど、22歳で雑誌編集者になったら鉛筆を握る人生が再開した。構想し、誌面を考え、最後に校正するまで鉛筆は大活躍する。自分は、誌面の配置を考える時に、写真や図は赤、文字は青で書き込む。PCを使うことも増えたが、今でも考えの初めの段階はA4かA3の白い紙束を置いて、落書きするように、思いつく勢いで鉛筆をぐりぐり走らせる。赤と青を持ち替える時間がもったいないので、この10年くらいは「赤青鉛筆」を駆使している。

校正にも使うので青芯よりも赤芯の消費が圧倒的に多い。赤が減って反対の青にくっつきそうになったら、どんなに青が残っていてもその1本は現役引退となり、引き出しの奥でご隠居生活となる。短くなった赤青鉛筆が溜まった頃に知ったのが「朱藍7:3」だ。朱の芯が7割の比率は画期的だった。

力強さを求めて辿り着いた、「丸つけ用赤青鉛筆」

でも、校正の赤字に伝統のあの朱色がどうも気に入らない。明るい朱色が優し過ぎるのだ。校正もラフ書きの赤も、人に見せて自分の意志を伝えるための色。印象強く、かつ気持ちよく見える赤が欲しい。そこで使い始めたのがトンボ鉛筆の「丸つけ用赤青鉛筆」だ。この赤は濃くて、さわやか。そしてこの丸付け鉛筆についに7対3が登場した。自分にとっては待望の新製品。早く文具店に行きたい。

今日この頃は、当たり前の日常だったことが普通でなくなり、ありふれていた物事を改めて見直す機会が増えた。文具趣味の魅力は、自分の生き方に合った道具を見つけ出し、駆使して心地良く時を過ごすこと。そんな文具は身近なところに無数に潜んでいる。これからも、故郷に広がる自然に改めて感動するように、文具を探訪する人生を楽しんでいきたい。

※「趣味の文具箱 2021年1月号 vol.56」の連載「文具箱の扉」より加筆転載。

この記事を書いた人
清水茂樹
この記事を書いた人

清水茂樹

編集長兼文具バカ

雑誌「趣味の文具箱」編集長。1965年福島県会津若松市生まれ。文房具に関する雑誌の編集、オリジナル文具の開発を担当。2004年に「趣味の文具箱」創刊し、世界中の文具メーカーの取材を勢力的に続け、最新の文具情報を発信。筆記具や文房具の魅力と、手で書くことの楽しさを伝えている。
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