横浜市山下公園のほど近くにあるインペリアルビル。かつて外国人専用のアパートメントホテルだったビルの今。

横浜市山下公園のほど近くにあるインペリアルビル。見るからに築年数の長そうなビルだが、どこか堂々とした佇まいがやや気になる建物。エントランスから中に入るとただ旧いだけではなく見慣れた日本の住宅環境とは一風変わったクラシカルな内観が待っていた。レトロなビルに入るテナントは、その内装をどのように活かしているのか見せてもらった。

横浜で現在も親しまれる レトロモダンのビル。

山下公園通りから内陸側の水町通りに面する噂のインペリアルビル。竣工したのはなんと戦前の1930年。大正末期から昭和初期にかけてモダニズム建築を得意とし、活躍した建築家、川崎鉄三が建築設計に携わった史実は残されている。当時、この建築家が関わった建物は他にも同じ横浜市の中区海岸通りに2棟、ジャパンエキスプレスビルと昭和ビルが、現在も残されているのは興味深い。

このインペリアルビル、実は設計時から外国人専用のアパートメントホテル、つまり長期滞在型ホテルとして設計されていたという。そのため、内観はいまでも異国の空気が流れているような昭和レトロモダンな内装、階段や踊り場にもヴィンテージ愛に詰まったインテリアが置かれている情緒溢れる空間に仕上がっている。

また本来は4階建だったようだが戦後、接収した進駐軍らによって屋上にペントハウスを増築。いつの間にか5階建のビルへとカスタムされている。現在は各階ごとにテナントや会社オフィスとして使われている。このビルで取材したCLUTCH編集部が気になったテナントは4店舗。それぞれ借主が昭和レトロモダンな内装をどう活用しているのか覗いてみることにしよう。

1.Sound Co.

内装は部屋の半分をパーテーションで仕切ったことが大きな改良点。床材を剥がしたらほどよくエイジングしたコンクリート床をそのまま

ヴィンテージのワークやミリタリーからインスピレーションを受けコレクションを展開するSoundman。どこか上品かつスタイリッシュな印象を受けるのは、主に英国ヴィンテージをモチーフとしているから。基本的に205号室はディレクターの今井氏がオフィスとして活用しているものの、土曜日のみウィークエンドストアとして一般開放している。

室内の仕切るパーテーションには英国アンティークのドアを取り付けた。擦りガラスともにヴィンテージ感溢れる空間に仕上がっている
Soundmanのディレクターを務める今井千尋さん。ミリタリーをはじめとする英国もののヴィンテージウエアへの造詣が深い
英国名門のハリスツイードを筆頭に良質なツイードをマテリアルに使用したクラシカルなジャケットのオーダー会を開催している真っ只中
剥き出しのブレーカーボックスは内観に合わせてウッドのボックスで目隠しに。また入店時に室内から聞こえるよう旧いベルがつけられる

【DATA】
Sound Co.
Tel.045-225-8918
https://www.soundman.jp

2.UNION WORKS YOKOHAMA

店内はヴィンテージシャツ棚やショーケースが使用されており、全体的にウッドを基調とした落ち着きのある空間。赤い絨毯が高級感を増す

304号室はレザーシューズをメインとしたシューシャイン、シューリペアで知られるUNION WORKS 横浜店。都内近郊で営業する他店に比べてゆったりとした店内は、販売するシューズのほか、バッグやショップコラボアイテムのウエアも販売。リペアはもちろん靴磨きなどのサービスも行なっているため、空いた時間を利用してみるのも良いだろう。

UNIONWORKSのエントランスは、店内が外側から見えるのは歴史のあるインペリアルビルだからこそ許されるガラス扉
店長を務める新啓吾さん。建築系の学校を卒業後、就職したもののシューリペアの道へ。建物自体も趣があってお気に入りだという
首都圏を中心にシューズリペアに定評があり、大手ということ手伝って、リペア依頼が絶えない人気店。常時、リペアを待っている足数も多いのだとか
スタンドライトが間接照明となり店内を明るく照らす。STOCKMANのトルソーにはYarmoとコラボしたラペル付きジャケット

【DATA】
UNION WORKS 横浜店
Tel.045-307-3743
https://www.union-works.co.jp

3.Tailor Grand

当然ながらスーツだけでなく、コーディネイトするシャツもオーダー可能。シャツのオーダー¥24,200_~、スーツのオーダー ¥330,000_~

渋谷のテーラーで修行したのち、2010 年に独立。店を構えるなら地元が理想だと思い不動産屋を通して物件を探したがなかなか良い物件に出会えず。納得するカタチで、自分の足で探そうと見始めた頃、馴染みのBAR THREE MARTINIの店主から教えてもらったのがインペリアルビル。以来、301 号室で長年、オーダースーツを手掛けている。

Tailor Grandの主人である長谷井孝紀さん。初めてオーダースーツを作ったのは青山の老舗テーラーで20歳の頃だったと話す
この工房だけでも数百着を手掛けてきた長谷井氏。奥の壁面に飾られる鋏を模ったヴィンテージのサインボードはお客様からのプレゼント
英国伝統の生地FOX BROTHERSやLoro Piana、HOLLAND&SHELLYなど名門の歴史の生地メーカーのスワッチが大量に用意される
自宅で使用していたオールドPioneerのレコードプレイヤーとスピーカー、アンプのコンポセットはフロアの中でもひと際、存在感を放つ

【DATA】
Tailor Grand
Tel.045-681-7050
http://tailorgrand.com

4.T.Shirakashi Bootmaker

フルハンドメイドにこだわるシューメーカー、T.Shirakashiを手掛ける白樫徹哉氏。およそ月間2足の製作が限界なのだとか

30代で靴の専門学校に通いつつ靴作りの世界へ。ビスポークシューズ店での修行を経て、夢だった独立を果たしたのが10年前。ハウススタイルはブーツだが、現在はどのハイトも特に関係なくオーダーを受け付けている。もともとTailor Grandの長谷井氏と友人だったことからインペリアルビル最上階の504Aに拠点を移してきたという。

英国ミリタリーで使用されていたロングブーツは白樫さんのお気に入り。フォルムの美しさ、革を纏った造形美に惚れ込んでいるのだとか
手掛けた足数ほどに増えていく木型。壁面いっぱいに木型が吊るされる。修正を繰り返した木型は革を穴埋め剤として貼り、再度削っていく
フルハンドメイドでレザーシューズを手掛ける白樫さん。基本的な作業、打ち合わせなどは、すべてこの部屋で完結するのだとか
シューズを作る道具はすべて、150年ほど昔のイギリスの道具。師匠から譲り受けたものもあれば自分で、探し出して手に入れたものもある

【DATA】
T.Shirakashi Bootmaker
https://shirakashi.jp

※情報は取材当時のものです。

(出典/「CLUTCH2023年8月号 Vol.92」)