いまや世界に影響を与えるニッポン・チョッパー・回顧録【1990年代】

この記事では日本のチョッパーシーン、その歴史の大まかな流れをツボをおさえて簡潔にレクチャー。いまや世界から注目を集める我が国のチョッパーが、どのように発展し、進化してきたのか……、未来を切り拓くための“温故知新”の精神をもって、駆け足で紹介して行きたい。前編では黎明期の1970年代以前から80年代の発展を支えた自分物たちを中心に歴史を振り返ってきたが、その流れに続く1990年代のチョッパーシーンの流れとはどういったものだったのだろうか。

日本のチョッパーシーンが世界レベルに至るまでの流れ【中編】

“日本独自のチョッパーカルチャー”という部分に焦点を当てると、忘れてはならないのが78年に「モーターサイクルズDEN」を立ち上げた佐藤由紀夫氏の存在だろう。

72年に仕事の関係でアメリカのカリフォルニア、サンフランシスコやオークランド近郊で生活し、当時のチョッパーカルチャーをダイレクトに体感したこの人物こそが、いまある日本のチョッパーシーンの源流といえるのだが、佐藤氏が滞在した時代の「ベイエリア」といえば70年にロン・シムズが、そして71年にアーレン・ネスがちょうどショップを設立した時期。

そんな世界最高峰のシーンを目の当たりにした佐藤由紀夫氏が、後に日本チョッパーシーンの金字塔と呼べるマシンである「TITAN」を製作し、88年に米国のショーに挑み、日本のチョッパーとして初めて頂点の栄冠を勝ち取ったのは、まさに“歴史”だ。

その佐藤由紀夫氏は日本のチョッパーシーンのレベルアップを狙い、ハーレー&チョッパーオンリーのショーである「ハーベストタイム」を企画するものの、その開催直前の93年に不慮の事故により急逝。

80年代当時のハーレービルダーたちは東京や大阪で「モーターサイクルショー」に出展をしていたのだが、やはりそれは【チョッパー】の世界とは別ジャンルのものであり、アメリカのように純粋にハーレーのカスタムやチョッパーが評価される場所を作り、それを発展させていくことが佐藤氏の願いだったのは想像に難しくないのだが、残されたDENのスタッフや、かつて同店に籍を置いた「ロナーセイジ」の中村實氏、そして「ホットドック」の河北啓二氏が尽力し、“ハーベスト”の開催にこぎつけたことが後の日本独自のチョッパーシーンに繋がったと断言してもいいだろう。

事実、このショーで3連覇を果たした「ゼロエンジニアリング」の木村信也氏が製作したマシンが世界的に認識された【ジャパニーズ・スタイルのチョッパー】であることは間違いないのだが、この時期に日本全体でチョッパーが浸透していたのかを問われれば疑問に残るのも正直なところ。

89年に日本法人の「ハーレーダビッドソン ジャパン」が設立され、90年に『バイブズ』、91年に『ホットバイクジャパン』のH-D専門誌が刊行。98年には我々『クラブハーレー』が発行されることでハーレーが一般的になったのだが、それはあくまでも【ハーレーブーム】であり【チョッパー】はマイノリティな存在であった。

42年の生涯を駆け抜けた日本チョッパー界の先駆者

モーターサイクルズDEN/佐藤由紀夫氏

創業以来、日本のチョッパーシーンを牽引してきたDENの佐藤由紀夫氏は1982年にハワイに支店を設立し、その際に“日本の湿気やハワイの潮風でも錆びないチョッパー”というコンセプトでステンレス製スプリンガーを備えた「TITAN」の構想を抱き、84年から製作に着手。88年に完成したこのマシンは米国オークランドで開催されたカスタムショーにて優勝を果たし、海外でアワードを獲得した日本初のチョッパーとなる。

製作者の佐藤由紀夫氏は90年からハワイ店と東京店を合併し、山梨県河口湖町に移転。そのころより“日本のチョッパーシーン全体のレベルアップ”を願い、ハーレー&チョッパーオンリーのカスタムショー「ハーベストタイム」を計画するが、開催直前の1993年に交通事故により42歳の若さで急逝。惜しまれつつ生涯の幕を閉じる

1993年、佐藤由紀夫氏の意志を継ぎ「ハーベストタイム」が開催

1993年4月26日に逝去した佐藤由紀夫氏のあとを受け、残されたDENのスタッフやホットドックの河北啓二氏、ロナーセイジの中村實氏などが尽力し、同年7月24~25日に河口湖町のボーリング場跡地で第1回ハーベストタイムを開催。当日は台風の影響による悪天候だったにも関わらず、全国から多くショップが参加することとなった。

翌年からはインドアのカスタムショーではなく、天神山スキー場(現・ふじてんリゾート)にてアウトドアでキャンプミーティング的な要素が合わさったイベントを5回限定で開催。来場者投票によってアワードが決定されるカスタムショーでは、「ゼロエンジニアリング」が3連覇を達成して人気を不動のものにした。

最終の97年には審査員が選ぶスタイルのライドインショーに変更され、優勝はスーパーカブのカスタム。微妙な空気が流れたのもいまでは懐かしい。

90年代を代表するロー&ロングのドラッグスタイル

90年代の日本のシーンで人気を博したのが、ご覧のようなドラッグレーサーイメージのスタイル。あくまでもストックのシルエットをあまり崩さないのも、この時代の特徴だろう。

90年代のショベル人気を支えたカスタムの入門編

90年代にエボユーザーがこぞって乗り換え、異常人気となったショベルだが、その定番のカスタムがFLHのカウルを外したストリップドレッサー。ハンドルとシートの交換程度でカスタム感が演出できるのも魅力だ。

90年代に空前のブームとなったスポーツスター・カスタム

94年からスタートしたレース、「SSC(スポーツスターカップ)」の影響で当時高い人気を博したのが、この手のカスタム。まだ日本でチョッパーが盛り上がる以前のハナシ、である。

当時のチョッパーシーンを席巻したジャパン・オリジナルスタイル

ハーベストで3連覇を達成し、人気を磐石にしたのが当時、木村信也氏が作り出したゼロスタイル。低いステムの旧車チョッパーというカテゴライズは、まさに日本独自のものだろう。

流麗なラインで仕上げられた90sハイエンドカスタム

日本はもちろん、90年代はこのマシンのような低く流れるようなラインのカスタムが人気を博した世界のハーレーシーン。ネスのリッパースタイルや、そこに装着されていたバティスティーニ製タンクなどがハイエンドの定番だ。このマシンは当時の「ケンズファクトリー」が製作した一台。

「クールブレイカー」が変えた日本のチョッパー・シーン

ハーベストタイムの後を受け、1998年からパシフィコ横浜で開催されたハーレーオンリーのインドアカスタムショー、「クールブレイカー」も我が国のシーンの成長を語る上で欠かせないイベント。2016年に横浜の赤レンガ倉庫で開催されたファイナルでは、名うてのトップビルダーたちが一堂に介し、日本を代表する極上の名車をそれぞれが披露。有終の美を飾ることとなった。

1992年にはムーンアイズ主催の第1回「YOKOHAMA HCS」が開催。当初はホットロッドのみがエントリー対象だったのはご存じのとおりだ。

我が国にも到来したネオチョッパーの波

「WCC」の人気が最高潮を迎えた2000年のアタマごろは我が国でも多くのビルダーやユーザーがネオチョッパーを製作。業界全体のシートメタルの技術やバイク全体のディメンションに対する知識など、あらゆる要素が飛躍的に向上したのも、この時期である。

(出典/「CLUB HARLEY 2025年10月号」)

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ブランドとしての知名度が高く、独自のアパレルにもファンが多いハーレーダビッドソンは、バイクにあまり馴染みのない『ごく普通の人』にも大変な人気を博しています。バイクの知識がない人はもちろん、今日ハーレーのことが気になり始めた人、そしていまハーレーが好きで好きで仕方ない人たちも満足のいく情報を詰め込んだ雑誌が『クラブハーレー』です。
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