初めて陸続きの国境をハーレーで越える

初めて海外へ行ったのは大学2年生のころ。当時第二外国語で履修していた中国語のレベルアップを図るため、中国・北京に短期留学に行ったときだった。まあ、こう書くと勤勉な学生だったようなイメージだが、実はこの留学は裏の理由があった。当時住んでいたアパートの近所に「国際会館」という外国人専用の寮があり、同じ中国語のクラスにいた友人を通じて、国際会館へ通うようになり、何人かの外国人とよく話すようになった。そこに住む中国人の女の子がめちゃくちゃかわいくて、なんとか中国語で話がしたいと、勉強にかこつけて短期留学に行ったというわけだ。

沼尾哲平|愛車のスポーツスターは、人生2台目のハーレー。いまは通勤と取材で乗るのがメインになってしまっているが、本当はひとりでロングツーリングに出かけたい

日本では味わえない国境越えの体験

数週間、現地の大学の寮に住み、語学を学び、街中でも簡単な会話ができるようになって帰国したらその子には彼氏ができていた、というオチなのだが、とにかくこのときがパスポートを取得して初めて海外へ行ったという経験だった。

この話、ここからの国境の話とはぜんぜん関係ないのだが、一応、それまでは日本から外国という一カ国間の移動しかしていなかった。しかし、国と国の間を行き来する際、当然国境を越える必要がある。しかし、日本のような島国から他国へ行くと、この国境という概念がわかりづらい。地面に国境線が引かれているわけではなく、飛行機や船で、なんとなく国境を越えているからだ。

僕がこの国境間の行き来を経験したのは、2010年にクラブハーレー読者を対象にした南カリフォルニアを走るツアーをアテンドしたとき。ロサンジェルスからカリフォルニア州の南部、サンディエゴを経てさらに南へ走っていくと、目の前に巨大なメキシコ国旗がはためいているのが見えてくる。つまり、目の前は別の国というわけだ。

国境の街でバイクを駐車場に停め、バスに乗ってゲートのある場所へ。バス停からは徒歩で税関を通り、テーマパークの入り口のような回転する柵を通り、あっけなく隣国へ足を踏み入れた。これが初めての徒歩での国境越えだった。

軍隊が並び、厳重に警戒されたような門を越えるのかとイメージしていたのに意外と簡単に入国できたので「なんだ、こんなもんか」と肩透かしをくらったが、国境の街・ティファナの中心街へ行くと、アメリカとはまったく別の国。いわゆるイメージするメキシコがそこにあった。原色の民族衣装を着た人が歩き、看板はスペイン語、レストランにはメキシコ料理の写真が張ってある。まさに国境を越えたらまったく別の国。なんだか味わったことのない不思議なところだった。

このティファナ、治安が決していい場所ではない。特にドナルド・トランプが大統領が就任してからは、国境に壁を作るなど、不法移民を帰国させる政策をとっているため、国境の街は当然カオスな状態だという。当時もあまり脇道を歩いてはいけないといわれたし、遠くから銃声も聞こえるなど、危うい印象がある街だった。そんなティファナもきっと現在はかなり様変わりしているのだろうなと思う。いまのところ再び訪れる予定はないが、いまどうなっているのか見てみたい気持ちもある。

あれから15年経ち、世界情勢も大きく変わった。気軽に国境を越えられるのが必ずしもいいとは思わない。ただ、当時の旅の中で、歩いて国境を越える経験ができたのはよかったと思う。これから先立ち入れない国や場所が増えるかもしれない。だからこそ、できるだけ行ったことのない所へ行っておきたいと思うのだ。

ロサンジェルスからインターステート5号線を走り、サンディエゴの街を抜けると「LASTUSA EXIT」の文字が。ここがアメリカとメキシコの国境。ちなみに「カミノ・デ・ラ・プラザ」は国境の街にある巨大なショッピングモールだ。

クルマで国境を越えられるため、一台ずつ入管手続きを行っているようでメキシコからアメリカへ続く道路は常に渋滞。まったく動いていない状況は日本のGWのSAの手前のよう。

メキシコ側の国境・ティファナの街並み。国境を越えただけでアメリカとはまったく違った風景だった。レストランの料理も豆を煮たものやスパイシーなサルサやタコスなども本場のメキシカン。

(出典/「CLUB HARLEY 2025年8月号」)

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