実走テストも敢行! ショベルヘッド・キャブレターテスト

カスタムという切り口でショベルヘッドの魅力に迫ってきた6月号の特集だが、ここからは気になるキャブレターをいくつかピックアップして、装着&計測テストを敢行。シャシーダイナモ上で3速140km/hに到達するまでの検証に加え、実走テストも行ってみた。それぞれのキャブの相性と特徴をグラフの数値からひも解き、ぜひカスタムの参考にしていただきたい。

【計測車両データ】
排気量:1340㏄
カム:ノーマル
エキゾースト:
サンダンス・ローライダーヘッダース
点火:ダイナS

【KEIHIN】Butterfly Carburetor

チューニングといえばイコールで「パーツ交換」と考えがちな人にとっては意外な結果かもしれないが、今回テストした1340㏄ショベルヘッドとかなり相性がよかったのがこのケーヒン・バタフライ。67年のティロットソン、71年からのベンディックス製に続き、76年から純正採用されたこのキャブはシャシーダイナモでの計測結果も出力、トルクともに安定した曲線を描いており、結果は最大出力60.6㎰、トルク9.8㎏-mというもの。実際の乗り味も低回転域の安定感やトルクを感じる加速感など、ストレスなく扱うことができる印象となっている。

実はこうした数値的な部分からだけではなく、今回、テストを行った「サンダンス」のZAK柴崎氏も自らの経験として「ノーマル排気量のショベルにはオススメできるキャブ」とのことで、その中でも80~84年のケーヒンバタフライが相性もよく、マッチングも良好という。

しかし、同じケーヒン製のバタフライといえども79年までのタイプはキャブ自体からの“クシャミ”が多く、当時はリコール品になったそうで、さらにはエボリューション時代の85~88年のバタフライもショベルに装着すると調子(相性)がイマイチとのこと。ショベルとエボのエンジンからのバキュームの強さや違いを考えれば、おのずと理解できると思うが、加速ポンプの流量が少ないエボ用をショベルに取り付けると加速がニブくなる症状も表れるという。またショベルが現役だった当時、ネガティブなイメージをもつ人が多かったゆえ、現存車両の多くも社外製のキャブレターに交換されており、程度のよい個体が少ないのも事実だろう。

純正至上主義的な目線ではなく、工学的な見地から考えてもキッチリと整備されたノーマル排気量車にはオススメだ。

数あるキャブ中でストック排気量1340㏄ショベルとかなり良好な相性をみせるのが、このケーヒン・バタフライ。意外かもしれないが空燃比設定12~13:1のセッティングで最大出力60.6㎰、トルク9.8㎏-mの結果は、全キャブレターの中でもトップクラスである。

【S&S Cycle Inc.】Super B Carburetor

66年まで純正採用されていたリンカートの進化版ともいえる固定ベンチュリーのバタフライキャブレター、S&S製のスーパーBは今回のテストで62.3㎰、最大トルクで10㎏-mという最高値を叩き出したのだが、こうした良好な結果にも関わらず、単純にスペックだけで語れないのもエンジンをチューニングするという行為において忘れてはならない項目だろう。

例えば、上に掲載したケーヒン・バタフライと比較するとシャシーダイナモの数字的には若干、こちらのキャブのほうが上なのだが、実際に乗ってみると下からの粘りのあるトルクフルなフィーリングは、個人的には明らかにケーヒンに軍配があがると思う。さらにいえばラフなスロットルワークではツキがイマイチに感じたのも正直なところだ。

ショベル以前のハーレーの場合、エンジンからのバキュームも弱く、それに対応するためにバレル部を長めに設計し、流速を高め、正確な燃料の吸い出しを狙ったスーパーBの構造は、キャブそのものの技術が発展途上の時代では最良の方法とされていたが、やはり問題は、その口径の大きさ。ケーヒン・バタフライの38㎜に対してバレル径47.6㎜、ベンチュリー径40㎜という数値は明らかにオーバーサイズであり、そもそもこのキャブが1600㏄以上の大排気量を想定しているゆえ当然といえば当然だ。

さらにいえば加速ポンプをもたない構造からセッティングを若干、濃いめにするのもお約束。こうした処置で多少ラフなスロットルワークも可能となるのだが、やはり操作時は固定ベンチュリーということを忘れてはならないだろう。

ショベルが現役だった75年に登場したことから神話的に定番とされたこのキャブレターだが、やはり真価を発揮するのは適切なサイズのエンジンへの装着なのである。

今回のテストで最大出力62.3㎰、トルクで10㎏-mという良好な数字をマークしたものの、グラフを見ると2000~2500rpm付近の落ち込みが気になるこのキャブだが、実際はさほどパワー不足を感じないのも正直なところ。じんわりと開けるアクセルワークが基本だ。

【SUNDANCE/KEIHIN】φ41mm FCR Carburetor

独自に開発されたハイエマルジョンニードルの内蔵によってハーレーに適したセッティング、特性となったサンダンスFCRだが、それを装着した走りの中で素直に痛感させられるのが、「乗り手のスロットルワーク次第で乗り味が変幻自在に変化する」という部分にほかならない。

例えばアクセルをラフに開けたときのフィーリングはまさにレーシングキャブであり、鋭い加速を見せつけるのだが、ゆっくりと走ろうと思えば粘るようなトルクフルな感覚も堪能できる。これはやはりアクセルワークによって適切な混合気を燃焼室に送り込む強制開閉式の可変ベンチュリーという構造の恩恵だろう。

そうした設計ゆえ、ストック排気量から1600㏄クラスまで適合することが謳われてるこのキャブだが、しかし、唯一の問題点をあげるとしたら、その鋭すぎるレスポンスゆえ、ショベルのような旧車で整備不良のものに装着すると思わぬトラブルに直結してしまうこともある。当然、キッチリと整備された車両なら問題など起こりようもないのだが、スキルのないショップが組み上げたショベル・エンジンに取り付け、ガンガンに回すような乗り方をしてしまえばアチコチにガタがきてしまうのは必至である。もちろん、キャブそのものに問題があるワケではないので、あえてキツいことをいえば「ショベルにFCRを付けると壊れるから」と語るショップに出くわした場合は、その店の技術を疑ったほうがいいだろう。

もともとショベルは急発進、急加速を得意とする乗り物ではなく、ゆっくりと鼓動感を楽しむべきもの、という意見も聞くが、そうした乗り方をしてもサンダンスFCRの粘りあるトルクフルな走りは最高峰と断言できるフィーリングだ。それはショベルヘッドであろうと変わらないのだ。

時代がEFI化に進むいま、まさにキャブの最終形態といっても過言でないのがサンダンスFCR。数値的には最高出力60㎰、トルク9.5㎏-mという結果だったのだが、実際の乗り味、レスポンスはコイツがダントツ。シャシーダイナモ上で140㎞/hまでに到達する時間も最速である。

この記事を書いた人
CLUB HARLEY 編集部
この記事を書いた人

CLUB HARLEY 編集部

ハーレー好きのためのマガジン

ブランドとしての知名度が高く、独自のアパレルにもファンが多いハーレーダビッドソンは、バイクにあまり馴染みのない『ごく普通の人』にも大変な人気を博しています。バイクの知識がない人はもちろん、今日ハーレーのことが気になり始めた人、そしていまハーレーが好きで好きで仕方ない人たちも満足のいく情報を詰め込んだ雑誌が『クラブハーレー』です。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

2nd

良質な素材感とシルエットが美しい、東洋エンタープライズが展開する「ゴールド」。

  • 2025.10.17

東洋エンタープライズが展開する「ゴールド」。白黒の世界で際立つ良質な素材感とシルエットをご堪能あれ。 質感、シルエット、美しいミリタリー&ワークウエア 米軍同様のへビーナイロンツイルを使ったMA-1。軽量性・保温性・防寒性を備えたクライマシールドの中綿でスペックは現代的だが、エイジング加工によってヴ...

進化と伝統、どちらもここに。「L.L.Bean」のアウトドアと日常の垣根を超える名品たち。

  • 2025.10.17

100年以上にわたり、アウトドアと日常の垣根を越える名品を生み続けてきた「エル・エル・ビーン」。誠実なモノづくりと顧客への真摯な姿勢は、現代まで脈々と受け継がれている。伝統を守りながらも進化を恐れない、その精神こそが、今も世界中の人々を魅了し続ける理由だ。 愛される理由は機能美とその誠実さ 100年...

いつものトラッドがこんなにも新鮮に!ジャパンデニムの雄エドウインが提案する、クラシックな黒

  • 2025.10.18

“黒”という色はモードファッションとの結びつきが強い。故にトラッドスタイルとの親和性は低いように思われる。しかし、エドウインの提案する“黒”は実にクラシックである。 クラシックなトラウザーズが黒とトラッドを身近にする ブレザー、ボタンダウンシャツ、スラックス……。アメリカントラッドを象徴するアイテム...

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

【土井縫工所×2nd別注】日本屈指のシャツファクトリーが作る、アメトラ王道のボタンダウンシャツ発売!

  • 2025.10.07

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! トラッド派には欠かせない6つボタンのBDシャツ「6ボタン アイビーズB.D.シャツ」 アメリカントラッドを象徴するア...

Pick Up おすすめ記事

2nd

良質な素材感とシルエットが美しい、東洋エンタープライズが展開する「ゴールド」。

  • 2025.10.17

東洋エンタープライズが展開する「ゴールド」。白黒の世界で際立つ良質な素材感とシルエットをご堪能あれ。 質感、シルエット、美しいミリタリー&ワークウエア 米軍同様のへビーナイロンツイルを使ったMA-1。軽量性・保温性・防寒性を備えたクライマシールドの中綿でスペックは現代的だが、エイジング加工によってヴ...

いつものトラッドがこんなにも新鮮に!ジャパンデニムの雄エドウインが提案する、クラシックな黒

  • 2025.10.18

“黒”という色はモードファッションとの結びつきが強い。故にトラッドスタイルとの親和性は低いように思われる。しかし、エドウインの提案する“黒”は実にクラシックである。 クラシックなトラウザーズが黒とトラッドを身近にする ブレザー、ボタンダウンシャツ、スラックス……。アメリカントラッドを象徴するアイテム...

【土井縫工所×2nd別注】日本屈指のシャツファクトリーが作る、アメトラ王道のボタンダウンシャツ発売!

  • 2025.10.07

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! トラッド派には欠かせない6つボタンのBDシャツ「6ボタン アイビーズB.D.シャツ」 アメリカントラッドを象徴するア...

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

【J.PRESS×2nd別注】こんなイラスト、二度と出会えない。 著名イラストレーターとのコラボスウェット。

  • 2025.10.21

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【J.PRESS×2nd】プリントスウェットシャツ【AaronChang】 アメリカにある優秀な8つの大学を総称して...