
「どの国のローファーでも、根幹にはアメリカが宿っているんです」
革靴業界で、約40年間経験を積み重ねてきたGMTの代表取締役、横瀬さん。その長いキャリアの始まりは1足のローファーを目にしたことに始まる。
「高校生の頃、渋谷にあったセレクトショップ『ミウラ アンド サンズ』にかざってあった、『リーバイス』の[501]に赤いソックス、そこに黒のペニーローファーを合わせたディスプレイを見て、その格好良さに衝撃を受けました。当時、価格は2万8000円ほどで、現在であれば安く感じますが、当時のローファーでは高級で、学生の自分にはどうしても手が届きませんでした。
その時の印象がずっと頭の中に残っていて、『どうにかしてジーエイチバスのペニーローファーを手に入れたい』という下心から、卒業後に『ジーエイチバス』を取り扱う靴の輸入販売会社に入社をしました。
入社後すぐに、念願だった『ジーエイチバス』のペニーローファーを社販で買いました。営業も担当させてもらい、『やっと、念願かなった』という思いでした。
1980年当時、アメカジがものすごく流行っていて、『ジーエイチバス』や『コンバース』、『スペリートップサイダー』などをかなりの人数が履いていました。『持っていないと、ダサい』、そんな空気感があるほどに人気がありました。しかし、ファッションのトレンドがめまぐるしく変わっていく時代で、『アメリカのシューズは、少し旧い』といった流れになり、『ジーエイチバス』をはじめ、アメリカのブランドが売れなくなるんです。
私自身、そういった流行に流されるというわけではなく、アメリカがずっと好きだったのですが、仕事としてフランスやイタリアなどのブランドも取り扱っていくことになり、そこで様々なブランドに触れていきました。『パラブーツ』もその頃、一気に火がつきました。そういった時代の流れを、『ローファーが欲しい!』という下心をきっかけに経験をしたことで、いまのGMTがあります。
ファッションの流行と靴の流行はまったく違い、靴というものは、売れていなくとも何かのファッションが流行る時には、選択肢として市場に存在していなければいけない。世界中の靴に触れたことで、そういったシューズの独特の文化を学ぶことができましたね」。
その後、1994年にGMTを立ち上げる横瀬さん。様々なファッションの流行を経験し、やはりアメリカの靴が好きなんだと再認識していく。
「高校生の頃に見た、デニムに赤いソックス、黒いローファーのスタイルがずっと心の底に引っかかっていて、アメリカやフランス、イタリアなど様々な国のファッションを経て、アメリカがやっぱり好きだなって気がついたんです。とは言っているものの、僕が持っているローファーはアメリカ以外のものが多く、言っていることと、やっていることが合っていないと思われそうですが、私にとってはローファーというシューズ自体が、アメリカなんです。
『ジーエイチバス』がローファーの元祖と言われるように、どのブランドのローファーもどこか“アメリカ的”であると私は思うんです。例えば『ビルケンシュトック』はドイツのブランドですが、アメリカのヒッピーファッションで火がつき、現在に至る。そうして、アメリカのファッションの足元として定着すると、『ビルケンシュトック』は欠かせないものになっていくんです。
私の中では、そういった理由からローファーはアメリカの文化なんだなと思うんです。学生の頃に『ジーエイチバス』のローファーに憧れ、この業界に飛び込み、ローファーをずっと見てきました。履く人や時代が変わってもその年代に順応し、どんなスタイルにも寄り添う懐の深さを感じると、『やっぱりローファーっていいな』と思わずにはいられないんですよね」。
いまなお革靴への愛情と探究心を失わない横瀬さん。まさにその姿勢が、靴業界を面白く、そして豊かにしていく原動力なのかもしれない。



(出典/「2nd 2025年6月号 Vol.212」)
Photo/Ryota Yukitake,Takahiro Katayama,Shunichiro Kai,Yoshika Amino Text/Shuhei Sato,Yu Namatame
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