松浦祐也の埋蔵金への道。第5回「あまりに寒いとニンゲンは「ギギギッ」ってなるんだゾ!」

俳優業以外での収入を得るために『浪子回頭日記』という兼業俳優の赤裸々な日記を連載しているが、まったくゼニにならず、どうしたものかと焦っているマツーラこと松浦祐也が、本気で(?)お宝探しに挑戦中! 第5回にして、ついに! ようやく? マツーラ調査隊は山形県白鷹町に出発した……よね?

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松浦祐也の埋蔵金への道。第4回「アタシの知的好奇心をお満足させるだよ!」

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【最上川飛脚小判無頼捜索編 その1】あまりに寒いとニンゲンは「ギギギッ」ってなるんだゾ!

文・松浦祐也|年老いた飼い猫が寝床でウンコをしてしまうのが悩みのガラケー使用者。ラインどころか乗り換え案内も調べられないポンコツ。国立科学博物館・地球館3階の剥製ゾーンが好き。カラオケが嫌い

1961年(昭和36年)7月31日、山形県白鷹町の最上川から川遊び中の小学生が小判を発見。鰻取りにきた青年らが川底をさらうと次々に小判や二分金・二朱銀を見付けた。町中の噂となり、多くの人が川底を探して大量の貨幣を回収する。最上川から発見された天保小判23枚・文政真文二分金9枚・文政南鐐二朱銀358枚を白鷹町が埋蔵文化財として一括保管。二分金は1/2両、二朱銀は1/8両に相当するので、保管された貨幣は合計72両1分2朱。

後日、本庄家用人・小嶋俊親の日記『寛長公御代要覧』の記述より、1830年(天保元年)7月10日、最上川の鮎貝から荒砥へ渡し船で渡河中の飛脚が降雨増水した河にのまれて溺死。飛脚は80両分の貨幣を運搬していたことが判明する。1961年に発見された小判は発見場所や回収額から、131年前に飛脚が運搬中の貨幣だったことが推察された。

そして2024年1月末日夜8時、未だ未発見である飛脚小判(約7両相当)を求めて、我が調査隊は山形県白鷹町に出発したのだ。いよいよ初の実地調査である。残念ながらイワユル徳川埋蔵金的発掘調査ではない。川に残っていると思われるオコボレ小判をかっさらおうって、ちょっと貧乏臭い調査である。豊富な資金がある訳でもないアタシたちは限られた取材費を鑑み、アタシが独断で各地の埋蔵金案件を検討した結果「最上川なら可能性があるべ。冬なら水量も少なくて調査しやすいだろ」って短絡的発想のもと、決定されたのだ。

調査隊メンバーは、隊長であるアタシ、編集長兼予算管理のウエダ隊員、写真担当のユキタケ隊員、動画撮影兼雑務ドレイのゴーイチ隊員(嶺豪一くん)の精鋭4人。出発前から息の荒いウエダ隊員が「今回の山形遠征には莫大な取材費がかかってるんで、必ず小判見つけてください。マジで」とプレッシャーをかけてくる。言われなくてもそのつもりで、アタシは小判を隠し入れる巾着袋まで持ってきた。「ウエダくん、君に新しい出版社をプレゼントしてやるから企画を考えとけ」と豪語して車に乗り込む。

ゴーイチ隊員が運転し、アタシが助手席で案内。東北道をひた走る。後部座席でユキタケ隊員とウエダ隊員は呑気に寝ていて、隊長のアタシが寝てないのに太え奴らだと腹が立ったが、暴力行使に躊躇しないウエダ隊員がおっかないため我慢した。福島インターから国道13号に入ると、車道に雪が積もっている。ゴーイチ隊員もアタシも眠気に襲われるたびにドライバーを太ももにブッ刺し、太ももが穴っぽこだらけになりながら、午前3時に米沢に到着。

ウエダ隊員を叩き起こし「ウエダくん、今日の宿はどうするだ?」と尋ねると、「宿なんかないっス。今日から捜索でしょ?」「え! 朝までどうすんの?」ウエダ隊員は鼻で笑って「予算ないんで」と再び寝てしまう。漫画喫茶に泊まる予算もねえのかよ。米沢にいても仕方ないから、白鷹町まで移動する。山道で雪も降り出して、路面がバキバキに凍りついている。アタシとゴーイチ隊員はツルツル滑る車にビビって失禁しながら、なんとか白鷹町に着く。

現場が近付くにつれて霧が濃くなり、最上川沿いを走っているのだが寒暖差で川から大量の霧が出ていて3メートル先が見えず、川の姿も全く分からない。まるで映画『ミスト』のワンシーンみたいだ。現地に着いたのにこの霧じゃあ何も出来ないので、コンビニの駐車場で停車。午前4時過ぎ、車中泊で仮眠をとる。アタシは腰が悪いし、イボ痔があるので助手席で寝るのはツラかった。

捜索2日目。腰痛とイボ痔であまり眠れず、7時起床。昨夜の濃霧は嘘のように晴れていてた。まずは小判発見現場の荒砥鉄橋近くに向かう。橋の上から初めて最上川の姿を見たが、想像以上に大きくて川の流れが早い。橋に設置された温度計はマイナス6度を表示していた。現場近くに車を停めて、車外へ出ると、咳き込んでしまうくらいクソ寒い! 所沢だと体験できない寒さだ。完全防寒をしたが、肌が露出している顔が痛い。

第1捜索目標地は白鷹大橋の麓の川下・鮎貝側の岸。今回の為にレンタルしてもらった金属探知機を組み立て、なんとなーく説明書を読んで設定をする。ムムム? 妙に軽いぞ。前回の取材でお会いした埋蔵金探索の大先輩・八重野さんが使っていた探知機はもっと重くて「小判必中的発見」って気概を感じたが、コレはなんか頼りない。不安を感じながら、お袋から借りてきた「4グラムの純金」を使って実際に探知機が反応するか実験する。これで反応しなかったら、探知機の意味ないもんな。ゴーイチ隊員が雪中に埋めた純金を探すが、探知機が全く反応をせず、目的の純金が見つからない。

あまりに反応がないので「おい、本当に埋めたんだろうな? パクってねえか?」とゴーイチ隊員を疑ってしまう。「埋めましたよ! この辺探ってください」と示す場所で探知機を振ってみるが、ピーピー鳴くはずなのに全く反応しないのだ。設定が悪いのか、そもそも探知機がポンコツなのか? 一応、ヘッドの部分に直接純金を付けると「あ、ありますー」って感じでピーピー鳴く。しかし、雪に埋めると「ココはないっス」ってスルーしてしまう。これじゃあ土中に埋まっている小判に反応しないだろ。

純金を埋めた場所で設定を変えながら何度か振ってみたが、ピーピー鳴く所を掘ると、チューハイのアルミ缶とネジが出てきた。ダメだこりゃ。しかし探知機を使わず捜索するなんて無鉄砲すぎるので、ダメ元で細かい調整を試みる。ゴーイチ隊員がめっちゃキラキラした目で「この探知機があれば小判発見できますねえ」なんてほざいている。お前の顔についてんのはガラス玉か? 5センチの雪中に埋まった純金に反応してねえじゃねえか! ポンコツ借りてきやがって!

雪中純金を見つけられないポンコツ探知機を抱えて、ウェーダーを穿き込みいよいよ川岸に出発。捜索が始まる前から頼りにしていた探知機のお笑い性能に愕然としたが、仕方ねえ。ここはアタシの直感を信じよう。雪と薮でなかなか険しい道中だったが、ようやく念願の最上川にたどり着く。

湯気のような気嵐たちこめる最上川は、至近距離で見るとより一層流れが速く、この流れの中に入って探知機を振る事に恐怖を感じた。しかも水流が多い。冬って水が少ないんじゃないのかよ? 後ろからは行動するアタシの姿を写真で撮るユキタケ隊員、動画を回すゴーイチ隊員、スコップを抱えてきたウエダ隊員が、アタシが川に入るのを期待しながら待っている。

ホントならば安全確認をした上で入りたいのだが、どうもそんな雰囲気じゃない。隊員みんなが、「憧れの隊長が颯爽と川に入って捜索する姿」を見たがっている。しかし目の前の荒れ狂う最上川にアタシが逡巡していると、空気の読めないユキタケ隊員がヘラヘラしながら「あれ? 隊長、入らないんスか? 早くヤっちゃってくださいよー」と煽るので、勇を鼓して川に踏み入る。

川底は泥と砂で沼のようになっていて、入った瞬間、ムヌヌヌヌっと足が埋まっていく。2歩目を踏み出すと両足とも腰近くまで埋まってしまった。ちょ、これどうなってるのよ! ウェーダー越しでも川の水がヒジョーにチベタイ。そりゃそうだわ、大量の雪解け水が流れ込んでいるんですもの! 水中も濁っていて、ちょっと深くなると底が見えない。カッコだけ探知機を振ってはみたものの、足がどんどん埋まってしまうので捜索どころの話じゃない。

「ダメだ、危ない! 動けなくなる!」と、アタシは『川口浩探検隊』のように絶叫して、埋まった足を抜こうとした。かがんだ際にウエーダーの胸部分から浸水し、下半身が濡れてしまう。強烈な冷たさで「金玉がセットハンマーで叩き潰されたような痛み」が全身を駆け抜け、首筋がブッ千切れるくらい歯を「ギギギッ」って食いしばった。命のともし火が揺らめくのをビンビンに感じた。『はだしのゲン』みたいにマジで「ギギギッ」って音が出た。こりゃあ、危険だ。川に浸かっての捜索は無理ですわ。わざわざ山形まで来たのに、捜索開始2分で気付いてしまった。

一方、隊員たちは安全な岸の上から笑って見ていて「タイチョー、早く探してー」なんて囃し立てていたが、アタシが「死ぬ! 死んじゃう!」と踠いているので「え、マジなの? 嘘でしょ? 今ので終わり?」と、呆気にとられていた。ウエダ隊員が「いや、写真欲しいんで、せめてあと2メーターくらい川に入ってくださいー」と言う。岸の上からでは、川中の悲劇が全く伝わっていない。まさに天国と地獄だ。

しかし一度岸に上がったら、再び川に入る自信もない。ここは根性見せるしかないので、頑張って3歩目を踏み出すがすぐに足が埋まるし、その先はさらに深くなっていてとても入れない。「これ以上は絶対に無理だ!」と怒鳴ると、ユキタケ隊員が「大袈裟すわー」って苦笑いしながら渋々シャッターを切る。「オッケーでーす」とウエダ隊員が笑いながら言うので、アタシは砂泥に埋まった足をなんとか引き抜き、必死で岸に向かう。探知機のヘッド部分をゴーイチ隊員に持ってもらって、岸まで引っ張り上げてもらった。しかし、ホントに怖かった。

岸の上にいる隊員たちはドッチラケた空気をブリブリ出していたが、アタシは川中がどれだけ危険か余すところなくお伝えした。ウエダ隊員とユキタケ隊員はアタシの話なんか聞かずに写真を確認し、コソコソ笑い合っている。ゴーイチ隊員だけが「マジっスか?」と半笑いで川に入ったが、砂泥に埋まる足に驚いて「あ、マジでヤバイっスね」とすぐに戻った。ヤバイだろ! 実際やってみりゃわかるんだよ。コソコソ笑いのウエダ隊員とユキタケ隊員を「戸塚ヨットスクール」の如く、流れに突き飛ばしてやろうかと思ったが、ハラスメント問題に敏感なアタシはぐっと堪えて我慢した。

いや、最上川をナメていた。危なく死ぬとこだったわ。「誰だ冬の最上川で探そうなんて言い出した奴は! マジで死ぬぞ!」冷え切った体をガタガタ震わせながら、アタシは自己保身のため激しく周りにキレ散らかした。「今回の調査ではスネ丈以上の深さには入るのを禁止する! これは隊長命令だ!」と絶叫したが、激しい川の流れで隊員一同に聞こえていなかったのか、誰からも返事が返ってこなかった。さみちい気持ちに包まれながら、アタシはポンコツ探知機を担いで第2捜索目標地に向かったのだった。

(出典/「2nd 2024年5月号 Vol.204」)

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