くろすとしゆき、アイビー時代を語る

石津祥介さん、穂積和夫さんなどとともに、第一次アイビーブームを率いた当事者のひとりにして、雑誌『メンズクラブ』の人気連載企画「街のアイビーリーガース」の仕掛人でもあった服飾評論家のくろすとしゆきさん。

和製アイビーの端緒やブームの推進力、衰退の元凶、あるいは終焉の影など、意外と語られていないあの時代のリアルを、当時を全く知らないセカンド読者世代ならではのストレートかつ不躾な切り口で迫ってみる。

くろすとしゆき|1934年生まれ。服飾評論家。慶応大在学中にアイビーファッションと出会い、仲間らと「アイビー・リーガース」を結成。1960年代初頭にVAN入社。66年にはKENTの立ち上げにも参画した

ムーブメントを仕掛けたなんて自覚はなかったな

—— アイビーに没頭した経緯を教えてください。

アイビーを初めて意識したのは、1954年に出版された『男の服飾(メンズクラブ)』の創刊号でした。巻末の服飾用語事典みたいな企画にあった「アイヴィーリーグモデル」という、画像も挿絵もない、わずか数行の文章がきっかけ。そこからアメリカの東海岸特有の文化やファッションに興味を惹かれていったと。

—— アイビー以前、日本のユース世代にはどんなスタイルが好まれていたのでしょうか?

ハリウッドルックと呼ばれるスタイルでした。アンコンジャケットやボタンダウンシャツなどアイビー特有のコンパクトさとは対極的に、大きく張ったショルダーライン、太めのパンツにリボンタイやループタイみたいな男らしいシルエットが主流でした。タレントならクレイジーキャッツなんかがまさにそう。あの頃はバンドマンがファッションリーダーでしたから。

—— インターネットもない時代、どのように情報収集されていたのでしょうか?

米軍キャンプ周辺にあるテーラーが唯一の情報源でした。僕らも学生時代から楽隊を組んでいて、キャンプで演奏していたんですね。バンドのレベルによって配属されるクラブが異なり、僕らはそれほど上手い方ではなかったから、立川のクラブに出入りして日銭を稼いでいました。

そこで出会った黒人の兵隊さんがとにかくオシャレだった。彼らがオーダーしていったジャケットやシャツのアイデアを見様見真似で盗み、稼いだ日銭でオーダーしていたと。そもそもイメージ通りのものが売っていない時代だったし、ならば作るしかないだろうと。でも今にして思えば、完全に〝アイビーもどき〟。変な服だったと思いますね(笑)。

—— そこから婦人画報社(メンズクラブ編集部)に就職したと?

いや、それは間違いです。長沢セツ・モードセミナーの兄弟子だった穂積和夫さんのおかげでメンズクラブと知り合いました。それで穂積さんをキャプテンとする「アイビー・リーガース」がメンズクラブに紹介されたのを機に原稿を書かせていただくように。当時は銀座のテーラーで修行中。編集部にいた石津祥介さんと仲良くなり、彼がメンズクラブを辞めて、お父さんのVANに行くと聞いて、付いていったというのが本当のところです。

—— アイビーの源流であるブリティッシュトラッドではなく、あえてカレッジスタイルへと傾倒した理由は何だったのでしょうか?

戦前の主流はブリティッシュだったと思うけど、終戦と同時にアメリカの文化が一気に入ってきて、誰もがアメリカ的なライフスタイルに憧れた、そんな当時の気運もあったと思います。

—— やがては〝みゆき族〟へと繋がりますね?

そもそも僕ら側にムーブメントを仕掛けたという自覚なんてなかったし、彼らを初めて見たときは、正直なところ「何か違うでしょ」と思いましたよ(笑)。僕らが傾倒しているのは、そんなヘンテコな俗文化ではなくリアルなアメリカのカレッジファッションだと考えていましたし、ならばよりリアルな現状を見てくるべきだと話し合って65年に、ついに渡米しました。

—— その時に撮影した写真集が『TAKE IVY』になったと?

そう。でもね、実際に行ってみたら、僕らが思っていたようなブレザーに革靴みたいな紋切り型の学生は一人もいなかった(笑)。みんなシャツの裾を出して、足元はスニーカー。とにかくだらしがない。それはショックでしたね。

—— なるほど、ショックでしたか?

はい。がっかりしちゃったというのが正しいのかな。でも今にして思えば、僕らが行った65年までがギリギリ、アメリカの学生が豊かだった時代。その翌年にはアメリカでも学生運動が盛んな時期に突入していますから。

—— もし、アメリカのアイビーカルチャーが学生運動によって衰退したと仮定するなら、日本のアイビーカルチャーの衰退、あるいは終焉の元凶はどこにあったと思われますか?

それもアメリカと同じですよ。学生運動、全共闘世代。60年代末までに日本でもヒッピー文化やファッションがすでに台頭し始めていました。長髪にデニムやベルボトム、そんなスタイルが時代の主流になり、次第にアイビーは廃れていった。僕個人はデニムが好きではないし、その後もやっぱりアイビーの影響下で服を楽しんでいましたけど。

──資料によると、1970年にVANを退社していますよね。その頃、会社はまさに隆盛期。興味の矛先が他にあったのでしょうか?

いえ、そういうワケではありません。僕の理想と会社の理想にズレを感じたのがきっかけでした。僕はどちらかと言えば、わずか数ミリのディテールやシルエットにこだわる職人気質ですから、会社が大きくなり過ぎて、そういう細かなこだわりを徹底しづらくなったのが決定的な理由かな。

──アイビーとはかくあるべき、といったルールやくろすさんなりのこだわりはありますか?

少なくとも当時はありましたけど、今はないかな。あの頃は世の中の気運も、そんな決まり事、型にハメることを望んでいたと思うんです。でも、60年代末の学生運動を境に、そんな価値観が一気に前時代化したと思うんです。以降、カジュアルファッションにルールなんてないと思うし、もしあったとしても日々変わっていくものだと私は思いますね。

(出典/「2nd 2023年11月号 Vol.199」

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