年表で振り返る! 2000年以降の第四次アイビーブーム「日本のアイビーカルチャーはいまや世界へ」

アメリカ東海岸の私立大学に通う学生たちのファッションやライフスタイルを手本とする和製アイビー。1950〜60年代に情報が乏しい時代ならではの独自解釈や、時に大いなる誤解を交えながら第一次アイビーブームが日本全国を席巻した。

その後も70年代に第二次、80年代に第三次、そして2000年代初頭から現在に至るまで、長きにわたる第四次アイビーブームが進行中。60年近い時を経ながら変化、進化を続ける日本のアイビーカルチャーの2000年代初頭から現在までを年表を追いながら振り返る。

▼第一次から三次までの流れはこちらの記事を読もう!

年表で振り返る! 第一次アイビーブーム「アメリカへの憧れが作りだした和製アイビーの序章」

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2023年10月03日

年表で振り返る! 70~80年代の第二次・第三次アイビーブーム「正統派アイビー復権様々なスタイルへ派生していく混沌期」

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2023年10月03日

日本のアイビーはどこまでいけるのか

最も自由なアイビー(?)スタイル|これまでで最も自由な令和のアイビースタイル。たとえば、ブレザーに、ヴィンテージスウェットや〈ニューバランス〉、ユーロミリタリーを合わせたりする。国籍もジャンルもバラバラで、その組み合わせの妙を楽しむ人も多い。ブレザー6万2700円/J.プレス オリジナルス(J.プレス & サンズ 青山TEL03-6805-0315)、ベイカーパンツ4万4000円/ヘリル(にしのやTEL03-6434-0983)、その他私物

そして現代。しばらく息を潜めていたアイビーだったが、2005年にコレクションデビューを果たした〈トム ブラウン〉が新たなアイビースタイルを提唱する。それは50〜60年代に見られた全盛期のアイビーとモダンとの掛け合わせ。これ以降、2000年代アイビーは息を吹き返すように盛り上がりを見せる。

まずは先述(前回までの記事)した〈トム ブラウン〉の影響からか『TAKE IVY』がアメリカで急速に注目を集める。2008年ごろ、とあるアメリカのWEBサイトに『TAKE IVY』の全ページのスキャンがアップされ、eBayでは実物の本が1400ドルという価格で落札された。

そしていよいよ2010年、ブルックリンにある出版社、パワーハウスブックスから『TAKE IVY』の英語版が発売された。さらに今度は、この本国でのアイビーの盛り上がりを感じ取ってか、2011年に『TAKE 8 IVY』林田昭慶 (万来舎)、2014年に最新版の『絵本アイビーボーイ図鑑』くろすとしゆき(万来舎)など、日本の巨匠たちが再びアイビーの世界に舞い戻ってきたのだ。

そして第四次アイビーブームを象徴する極めつけが2015年デーヴィッド・マークス著『AMETORA』だろう。アメトラ史を総括するこの名著は、戦後いかに日本人がアメリカに憧れ、アメリカの模倣に挑戦しようとしてきたのか。そして知らぬ間に憧れの対象を追い抜いてしまっているかもしれないことを伝えた。その結果、また少しずつ、アイビーのムーブメントが動き始めている。

デーヴィッド・マークス(1978- )|日本の、ファッションはもちろん、音楽や アートにも造詣が深く、昨年にはカルチャー全体にスポットを当てた『STATUS AND CULTURE』という英語の著書を発売している。日本語訳版も目下制作中

例えば2017年始動の〈ローイング・ブレザーズ〉は〈グッチ〉とのコラボが実現したばかりの気鋭のブランド。デザイナーのジャック・カールソンは『AMETORA』に多大な影響を受けたと語っている。また、ポッドキャスト番組「アメリカンアイビー」では全7回にわたり日本のアメトラ文化をアメリカ人が紹介したほか、日本のファッションに惚れ込むインフルエンサーや、日米ブランドによるコラボなどブームの端緒は本国を巻き込み加速している。

日本のアイビーがどうやら只者ではない進化を遂げてきたことを知ったアメリカと、日本はこの先どう付き合っていくのか。第四次アイビーブームはこれからどうなるか、もしくは何かが起こって第五次を待つことになるか。この壮大なアイビー全史の続きが楽しみだ。

第四次アイビーブームを年表で追ってみよう

2000年|ビームス プラス 原宿がオープン

「ビームス プラス」オープンは大阪店の1999年が最初。その1年後、2000年に原宿店がオープンした。 オープン当初から変わらずアメリカントラッドを貫き続けている稀有なセレクトショップ。2000年代のアイビーブームにも大いに貢献している。

2005年|トム ブラウン、 NYコレクションデビュー。2000年代的 アイビースタイルを生み出す

ニューヨーク・ファッションウィークにて、メンズ向けの既製服の初のコレクションでデビューを果たす。 スーツはグレーのスリムフィットで、 パンツのアンクル部分は折り返すなどデザイナーのトム・ブラウン自身が愛するアイビーをベースに、ひと捻りを加えたスタイルを提案。

2010年|『TAKE IVY』の英語版が発売

初版が発売された1965年が、本国アメリカにおいてもアイビー黄金期の最後年だと言われている。そのぶん『TAKE IVY』 はアメリカ人にとっても貴重だったようで、念願の英語版が発売される。

ニューヨークタイムズも注目!?

『TAKE IVY』の英語版出版を報道するニューヨークタイムズには「Odd influence of Take Ivy(“奇妙”な影響力を持つテイクアイビー)」の記載がある。アメリカ人にとって、この現象は“奇妙”なのだ。また、この文章の中では、“trad”という省略形の和製英単語も使われており、これが日本のアメリカントラッド文化を指す言葉になっているのも興味深い。

2011年|『TAKE 8 IVY』発売

『TAKE IVY』英語版の発売後、今度は日本側から続編となる『TAKE 8 IVY』が発売された。『TAKE IVY』の写真家・林田昭慶が1965〜85年に撮り溜めた写真から再度厳選した最新版だ。

2015年|英語版AMETORA発売

デーヴィッド・マークス著、日本におけるアメリカントラッドの歴史を網羅した『AMETORA』英語版が発売。その後、日本語、韓国語、中国語と、計4カ国語版が出版され、各国で重版を繰り返すほどの人気を獲得。

2018年|Jプレスオリジナルスがローンチ

1902年創業の歴史をもつ、アイビーリーガー御用達のブランド〈Jプレス〉から、より現代的なトラッド&アイビースタイルを提案する〈Jプレス オリジナルス〉が始動した。

【コラム】デザイナー、ジャック・カールソンに聞く『AMETORA』の影響

「服づくりにおいてもそうですが、『AMETORA』みたいな歴史を見ていると、日本人はやはり細かなディテールにこだわりが強いように思います。我々自身ですら意識できていないところを発見できるその着眼点は『AMETORA』からすごく勉強させてもらいました」

2017年|ローイングブレザーズ始動

2017年にNYでスタート。洒脱な色・ユーモアを織り交ぜたアイテム群は実にプレッピー的。写真下のTシャツは[アメトラ T]。

2021年|ジェイソン・ジュールズ著『BLACK IVY』発売

かつて黒人のジャズマンたちによる捻りの効いたアイビースタイルを“ジャイビーアイビー”と呼んでいたが、その世界観が見直されていることを感じさせる一冊。

2021年|マイケル・バスティアンがブルックス ブラザーズのクリエイティブ ディレクターに就任

NYの老舗百貨店「バーグ ドルフ・グッドマン」のディレクターを務めた経歴のある生粋のトラッドマンがクリエイティブ ディレク ターに就任。ガントやユニクロなどとのコラボでも話題を呼んだ。自身のファッションに影響を与えた人物はジョン・F・ケネディだ。

2022年|ビームス プラスとジェイクルーが初コラボ

日米のアイビーブランド同士がコラボした最重要な例が、〈ジェイクルー〉×〈ビームス プラス〉だろう。実直にアメトラを貫き続けているビームス プラスの尽力と、日本ブランドの世界的な知名度向上あってこその出来事だ。

2022年|トッド・スナイダーが『ヘビーデューティの本』に影響を受けたコレクションを発表

2020AWシーズンのエル・エル・ビーン×トッド・スナイダーのコラボにおいて、「このコレクションは、小林泰彦氏が書いた『ヘビーデューティの本』から、インスピレーションを受けた」と、トッド・スナイダーが発言していた。

アメリカでバズる“ジャパニーズアメリカーナ”

『AMETORA』の功績もあって、日本のアメトラ・アイビー文化、ものづくりはアメリカでいわゆる“バズ”の状態に。日本のアイビーカルチャー史を解説するポッドキャストが制作されたり、インフルエンサーによって紹介されたりと、多くの人々に注目されている状況だ。

また、アメリカへの憧れから始まって、気づけばアメリカを越えるほどの技術や文化を手に入れた日本国内でのこの一連の現象は、一部の人々の間で“ジャパニーズアメリカーナ”と呼ばれている。これらがどれだけ不可思議で興味深い出来事か。これからの動きにも注目したい。

Podcast「アメリカンアイビー」

全編英語にも関わらず、「Ishizu(=石津謙介氏のこと)」というワードほか、耳馴染みのある言葉が頻発。全7回中6回デーヴィッド・マークスが出演。

(出典/「2nd 2023年11月号 Vol.199」

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パピー高野
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パピー高野

断然革靴派

長崎県出身、シティーボーイに憧れ上京。編集部に入ってから服好き精神に火がつき、たまの散財が生きがいに。いろんなスタイルに挑戦したい雑食タイプで、ヨーロッパからアメリカものまで幅広く好む。家の近所にある大盛カレーショップの名を、あだ名として拝借。
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