90年変わらないロールドゴールド製法で作られる「サヴィル ロウ」の眼鏡。

自らの体型に、好みに、目的に100%合致する、言わば至高の嗜好品を探し求める時、ビスポーク以上の買い物術は存在しない。完全自分仕様のアイテムを創り上げるという、この究極の買い物術に、歴史の一部になるという付加価値までプラスしてくれる、名門が実施しているビスポークサービスにフォーカス。90年間の歴史の中で数度の再生を経つつも今なお世界中から愛される名門眼鏡ブランド「サヴィル ロウ」のこだわりと新たなビスポークサービスに迫る。

英国眼鏡史に名を刻むアートピース。

数奇な歴史を持つロンドンの伝説的眼鏡工房アルガ ワークスは、国民的メーカーとして成長後、衰退し、米国AO(アメリカン・オプチカル)社に買収され、「サヴィル ロウ」が創設された。

ところが同工房は古式ゆかしい製法を貫くがゆえに、利潤を生みにくく、AO社はすぐさま手放すことになったのだが、赤字でも守るべきと、英国の世界的企業インスペックスによって、再び本国に買い戻されることとなった。

合金の芯の回りに5~6ミクロンの18金を巻き、その上に6回24金(シルバーカラーの場合はパラジウム)を溶着させ、2ミクロンの24金層を作ることで、各層を一体化。それを熱や圧力を加えて延ばしたり、曲げたりして、そのままフレームのパーツに整形するのが、代名詞のロールドゴールド製法だ

しかし今度はコロナ禍と区画整理の波が押し寄せ、2020年に工房はイタリアに移設されることになったのだが、特筆すべきは莫大なコストをかけて、使われていた古めかしい機械も、90年間継承してきた伝統技法も丸々継承している点だろう。

この伝統技法で作られるフレームには、およそメッキには現れない、ゴールド本来の柔らかな表情が宿る

英国眼鏡業界をして残すべき文化遺産的対象とみなす、サヴィル ロウの眼鏡。大量生産できず、現状受注生産しか請け負わない、否、請け負えない工芸品は、メガネ好きなら一度は触れる価値があるはずだ。

ベースモデルは現状4型。

最初はベース選び。NHSのサプライヤー時代から展開される代名詞のパントや、丸味を帯びたスクエア型のクアドラ、ラウンドのワーウィック、ボストン形状のビューフォート等、クラシカルな型が揃う。現状は4型のみの展開だが今後は拡充予定。

pant(パント)
quadra(クアドラ)
warwick(ワーウィック)
Beaufort(ビューフォート)

細かなパーツまで自分たちで作り出す英国の国民的眼鏡。

写真はロンドン・イーストエンド時代の工房の風景だが、主たる機械や製作技法はイタリアに移設以降もほぼ同じ。大小様々な機械を駆使して、細かなパーツもすべて自分たちの手で製作するフルハンドメイドだけに、一本のフレームを作るために必要な工程は、なんと140以上にのぼる。

同ブランドの眼鏡が、どこか素朴で柔和な佇まいに仕立てられる理由は、まさにこの合理的生産体制と対を成す、あまりにクラシックな生産工程によるものだろう。

かのジョン・レノンは、1967年に映画「ジョン・レノンの僕の戦争」に出演した際、小道具としてアルガ ワークス製のメガネを着用し、この普遍的な姿に心酔。それが契機となってメガネ愛好家になったという逸話も残る。

下の写真は代表作パントをベースにした完成見本。フレームカラーやセル巻き(フレームにアセテートを巻き付ける仕上げ)の有無、テンプルの種類(通常タイプと写真の縄手タイプ等複数あり)など、細部の意匠も細かくオーダー可能だ。

別途料金が発生するが、各部位のサイズをミリ単位で調整してもらうことも可能。納期は約2カ月(231月から受注開始予定)88000円~

DATA
ブリンク 外苑前
東京都港区南青山2-27-20 植村ビル1F
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営業/12:0020:00
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(出典/「2nd 20232月号 Vol.191」)